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悪霊の天敵

「ところで、悪霊さんたちに凶報でござんすよ」

 胡散臭い笑みを深めて、灰髪はちらりと童顔の男を見やる。視線を受けた童顔の男は「ああアレか」とばかりににたりと笑った。

 童顔の男の見目からちょっかいを出すチャンスを窺っていた別のテーブルの連中が、その笑みを目撃してさっと目を逸らす。

 狡猾であくどい男の笑みだ。下手に手を出すと、尻の毛まで毟られるどころか、比喩でなく内臓まで売っ払われかねない。

「ハァン?」

 ぬいぐるみが、二人の笑みを交互に見やって不機嫌そうに首を傾げた。

 自分だけが知らない情報。

 気に入らない、と不機嫌なオーラを醸し出すぬいぐるみに、灰髪は笑顔で爆弾を落とした。

「来週あたり、この街に神官様御一行が来るとか」

「アァんだァ!?とォ?!どいつの差し金だァァァ!!!」

 ズビョッとその場から垂直に飛び上がったぬいぐるみを、童顔の男はにやにやと見上げた。

「てンめェかァァァ!!!」

 天井に激突して跳ね返ったぬいぐるみが叫ぶ。

 にやにや笑ったままテーブルを蹴り、椅子ごと後ろに倒れた童顔の男の足をかすって、鉄爪が床に突き刺さった。

バゴッ

 ゴトン「てっ」

 床と椅子の足が大破する音。遅れて椅子の倒れる音、背中を打ちつけた男の声。

「避けンじゃネェヨぉぉぉ!!!」

 ガーネットの目を緑色に燃え立たせて、調子っ外れな声を張り上げながら、ティディベアが滅茶苦茶に回転する。鉄爪がギラリと光ってシャツの胸倉を引っ掴んだ。

「お前、馬鹿ね。ワタシ違う」

「あン!?」

 白シャツの胸倉を掴んで宙吊りにする寸前で、ぬいぐるみがぴたりと止まる。ブツッと弾け飛んだボタンがポチャリとグラスに入って、灰髪の男は「おや」とのんびり呟いた。

 目の前の修羅場など見えないかのように平然とカウンターに声をかける。

「親仁さーん、取り替えお願いしてもよござんしょや?」

「てめえで取りに来い」

「はいはい」

 のこのことグラスを取りに行った彼が戻った時には、大体話が纏まっていた。

「紛らわしンだヨッ、ぺっ!」

「ベア騒ぐ、面白い。落ち着く、すればいい」

「天敵の出現に落チ着いてられっカよっ、ペッ!神官ドモがァァ、この辺に来タのが運の尽キだよ××××ゥゥゥアアア!!」

 しきりに唾を吐き捨てる仕草をするが、ぬいぐるみから吐き出されるのは黒いモヤだけ。

 足が一本折れた椅子をさり気なく店主から見えない位置に置き、童顔の男は新しい椅子に腰かけた。鉄爪で掴まれたシャツはビリビリに破け、腹が丸見えだが気にした様子もない。

 ただし、好色そうな視線を向けた連中の顔だけは覚えておく。後々利用する気満々である。

「ハイハイドウドウ、落ち着いてくだしゃんせ。ベア、今回もやるので?」

 眼福眼福と呟きながら、灰髪の男が変わらない胡散臭い笑みを深くする。

「ッたりめェダァァ!ティディ・ベア率いるツクモガミ連合はクエスト【神官狩り】を発令する!!神官ドモは皆殺シだァ!!」


バサッ、

 パシッ


 酒場内の依頼板に、どこからともなく現れた依頼書が独りでに打ち付けられていく。

 打ち付けられた依頼書の空白の概要欄に、乱暴に書き殴ったようなかすれた血文字で【神官狩り】の文字が浮かび上がっていく。


   バシッ

      ピシッ

            パンッ

          バサッ

               ピシッ

                 パシッ

                    バシッ

                      パスッ

                          ピシッ

                            ピシ

                               バスッ


 依頼板が新しい依頼書で埋め尽くされ、一瞬酒場がしんと静まり返る。

 怪奇現象そのままの光景に腰を抜かすものが数名、ぽかんと間抜け面を晒すものが数名、苦虫を噛み潰したような表情の店主と、どうでもよさそうな者が数名。

 そして面白そうに笑う者(・・・・・・・・)が多数。


 次の瞬間、方々から押し殺した嫌悪の呻きが上がる。

 依頼板の枠からこんこんと湧きだしたものは、どす黒く腐った血液であった。 


ベア「悪霊じゃありません。性格の悪いツクモガミです」

店主「どっちにしろタチ悪いじゃねえか」

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