隠しギルドの三悪人
※語呂の似ている某作品とは何の関係もありません※
静まり返った酒場で、死神とクロノ、店主の声だけがぼそぼそと続いている。
やがて死神が酒場の二階に通されると、ようやく息ができるとばかりに話し声が戻ってきた。
その中、ひとつのテーブルでは三つの溜息が計ったように重なった。
「怖や怖や。彼でござんしょう、ギルドマスターが夜逃げを計った一件の、そもそもの原因は」
細い三日月のような目、胡散臭いとしか思えない、いかにも何事かを企んでいそうな笑みを浮かべたモノクルの男が、灰色の髪をいじりながら言った。
その視線は大剣を背負った黒衣の男から離れない。その目は危険なオモチャを目前にした少年のように輝いている。
「ギ―ヒヒッヒヒャッ!何デモ一目見た瞬間「あ、ムリ」って思っタらしイね。成程納得」
灰髪の男の向かいに座る、否、浮いているのは、焦げ茶のローブを着たぬいぐるみ。
内部で臙脂色の焔が踊る美しい宝石――ガーネットの両目を持つ、ふわふわの毛並みのティディベアだ。
ただしその両腕は、随分と年季の入った鉄爪で覆われていた。ガチャリガチャリと鳴らされる五爪の刃の表面は、年月だけではないであろう、血の曇りが見受けられる。
「ギルドマスター、夜逃げ潰される、カワイソね。暗殺者ギルド作ったのに、本人ビビり」
不慣れな言葉を扱っているかのように片言で喋る童顔の男は、台詞とは裏腹の表情で肩をすくめた。シャツ一枚の上に革の胸当てをつけただけの、この場では無防備ともいえる軽装である。
長い黒髪、低めの身長と、喋らなければ女に間違えられることもありそうだった。
「まア、ビビりじゃなきゃあ、我々はギルドメンバーには成れなかったでしょや。こうして見る限りでも……ねえ?ちょいとばかし問題のありそうな御仁方々ばっかりじゃあありませんかい」
酒場を視線だけで見まわし、モノクルの男は息を潜めるように笑う。どこまでも胡散臭く。
彼の視線の先では、いかにもノックアウトされましたといった風情の酔っ払いが重なる中心で場違いに上等な服を着込んだ二人組が酒を酌み交わしていたり、不自然なまでに全く同じ顔同じ服装の七人の男たちが大騒ぎしていたり、どう見ても骨にしか見えない手を突き出してつまみを貪る黒ローブの者が居たり、揃いの仮面をつけた三歳児の集団が切羽詰まった様子で酒をがぶ飲みしていたり、どこぞの国の国宝っぽいものを取引している、隠しているがどう見ても国の英雄がいたり。
突っ込みどころのない連中の方が少ない。
「ヒーヒヒ、高額賞金首ィ前にしてよォ、金の成ル木ダァ!ドころか「スイマセンスイマセンナンデモナイデスドウゾドウゾオカマイナクー」って連呼しまくってタゼ。ビビりすぎだロ。俺チャンはそれでギルド入れたカラ楽チンだったけどよォ。楽勝楽勝」
カチャカチャと爪を鳴らして、ぬいぐるみは笑う。その両手の物騒なものさえなければ、貴族の女の子にでも抱かれていそうな、上等なぬいぐるみである。
それが宙に浮かびながら下品な笑い声を上げている光景は、人によってはトラウマものの光景だ。
「まあ、普通、喋る殺人ぬいぐるみ、とか」
「討伐対象でござんしょうねえ」
うんうんと頷く人間二人。
つまみをパリポリ食べながら、「で」と童顔の男が続けた。
行儀悪く机に乗せたロングブーツが、革の軋む音と共に組み替えられる。
「本物くさい死神、置いて。親仁と話すしてる、金魚のフンの話。あっち、一応凡人ね」
「まア能力的にはそうでござんしょうが」
灰髪の男が、モノクルをくいと上げた。
「あの恐ろしい御仁と組んでおられるあたり、少なくとも肝は据わってるのでしょうや?あのクロノ殿は」
「ギヒッ、俺チャンとフッツ―に話せルあたり、そおかも知レねェなァ。結構結構」
「お前ら、馬鹿言うないね。あれ、神経ない言う、正解」
フンと鼻で笑った童顔の男は、クロノのまるで意欲の感じられない顔を思い出す。何かが欠けてしまった者というのは、この世界ではそう珍しくもない。やむを得ず欠けていったのか、元々欠けていたからこちらの業界に入ってきたのか。
どちらにしろ、あまり興味はない。
要約:
「「「ギルドwwマスwターwww m9(^Д^)プギャー」」」
ギルド内では一応情報通として知られる、二人と一体。
それに比例するようなタチの悪さでも知られる、二人と一体。