探し物はなんですか
「ふん、ところでだ。情報を言え。前回からこれだけ期間が開いていてよもや何の情報も無いなどと、役立たず極まりないことは言わんだろうな」
「役立たずおマエのことね。頼まれてないこと、やる義理ない。ワタシおマエの友達違う」
会話さえ聞かなければ、中々に見目麗しい光景だ。
あまり見ないレベルの美貌を持つウィ・ザルドと、少年か、あるいは女性とも見紛う外見のフェイだ。
ここが冒険者や一般国民たちの集う酒場であれば、男女問わずに何人もの人間が声をかけていただろう。
会話さえ、聞かなければの話だが。
痛むような気がする胃を押さえながら、店主はそんな事を考えた。
実際には、彼ら二人に注がれる視線はあまりない。
彼らの目の前に店主が居るからというのもあるが、基本的にギルドの連中はあまり他人に興味がない。
本日の客は、目の前の二人を除き——自分の右の手の平に一心不乱に話しかける剣士、酒のグラスの上に水晶玉を浮遊させている老人、全く同じ顔同じ格好で騒いでいる四人の男、豪華な装飾の仮面を床が軋むまで踏みにじりながらナンパしている獣耳の女性、ナンパされて怯えている、袖から骨が見えるローブの人物。
隅のテーブルでは大皿に入った酒に出入りを繰り返している発光体が六つ、その隣には人間を積み上げて出来た椅子で優雅に飲んでいる美少年と美女、そしてそれらの一切に興味なさげに酒を飲む男たちが数人。
全体的におかしい気もするが、いつもの事である。
そしてそのおかしい連中を避けるようにして座っている男たちの方から、時折剣呑な視線が飛んでくる。
見目良い割には投げられる視線が物騒なあたり、二人の普段の行いが知れると言うものである。
「しかし鬱陶しいな、薄汚い殺気など飛ばしおって……フ、まあ良い。塵芥に等しい三下が、泣き喚いて死んでいく姿を見るのも一興か」
「ここじゃ殺しは御法度だ馬鹿野郎」
「そうヨ、ここワタシの塒ね。店壊れるよくない、死体捨てるめんどくサ」
「ふむ……まあ、こ汚い店に悪徳店主、鬱陶しい屑どもやら物の価値もわからん気違いばかりと言えど……」
「おうコラもっぺん言ってみろ」
「……まだここには利用価値があるか。良いだろう、この我の寛大な心で持ってその人間風情の法度とやらを呑んでやる」
「ハッ、変態が何言ってるか。さっさとあの連中、連れてく行け。殺気うるさい」
恐らくウィ・ザルドなりの鷹揚な仕草とやらで一つ頷いているが、発言の内容がとてつもなく尊大である。ピキリとこめかみに血管を浮かべかけた店主は、サクッと切って捨てたフェイに全面同意だ。
店主、フェイに揃ってこれ以上ないくらいの白い目で「何言ってんのコイツ」と冷たく見つめられ、変な所でメンタルが弱いウィ・ザルドは動揺した。
「だ、だから言っているだろうが!なんかすごそうなお宝の情報をよこせと!フェイ貴様、一応情報通なのだろうが!」
「『なんかすごそうなお宝』ってよお……」
「脳ミソ詰まってないみたいな発言よ。馬鹿なの知ってたけどね」
店主の呆れたぼやきと、もう視線すら向けていないフェイの態度にもめげず、ギルドきっての魔術師はばしばしとカウンターを叩いて主張した。
「仕方なかろうが!どんな形や特徴をしているのか分かっていたら貴様のような輩なんぞこの我が頼る訳なかろう!あと幾つ集めれば良いのか見当すらつかんのだ、今暫くはここを利用せねばならん……この我のまどろっこしくていっそもう一度世界を滅ぼしたくなる気分が分かるか、分からぬだろうな」
憂鬱そうに俯く横顔は無駄に整っているだけあって、まるで絵のように様になっている。女性に好まれる恋愛小説の挿絵にもなりそうな、憂い顔の大層な美形だ。
だがその口から漏れるのは尊大で電波な発言の数々。
黙っていれば良いのに、と十人中十人がのたまうだろうこと間違いなしである。
「面倒臭ぇからって世界滅ぼすんじゃねえよタコ。大体てめぇの態度からして急ぎじゃねんだろが、過程を楽しむって余裕くらい見せろ」
「余裕……余裕か、そうだな。この我とした事が、人間風情や畜生のように焦るとは、どうかしていた。悪徳店主ごときに指摘されるというのがえらく屈辱ではあるが、少し落ち着くべきか」
「ああそうだな、落ち着いたら手前はまずその他人を舐めくさった物言いから何とかしろ」




