そして全てがはじまった①
ここら辺りは書いてて楽しいれす(^q^)
和真が冒険者ギルドに着く数時間前、Eランクチーム《鉄鋼連隊》はクアラの街東門を出て3時間程の『魔域』の浅いところ(街に近いところ)にいた。
チームとは、冒険者が2~5名集まって依頼達成を目指す集団で、冒険者ギルドにて登録さえすれば5人以内なら誰でもチームを組める。チームのランクはメンバーの平均値となる。
《鉄鋼連隊》は前衛3名、後衛2名とバランスが良く特に前衛の防御力の高さが売りのチームである。チームリーダーである『ドイン・ドスト』はDランクの冒険者で経験もあり、重武装で固めた、いかにもな防御特化タイプである。
彼らは『魔域の浅い領域に出没する謎の影の調査依頼』に来ていた。浅いところとはいえ、『魔域』であることに違いはないので全員完全武装での出陣だ。
「リーダーなにか見えました?」
《鉄鋼連隊》の後衛である若い男がドインに尋ねる。
「いや・・・なにも見つからないな。」
「ホントに何かあるのかなぁ?」
前衛の青年がメンバーに問いかける。かれこれ3時間程見回っているが、何も見つからない。疑問に思うのも無理はない。
ドイン自身もこれ以上はチームのモチベーションにも影響してくると考え、そろそろ一度街に戻ろうと口を開いた・・・その時。
「っ!リーダー!向こうに何か見える!」
「なにっ!?」
メンバーの一人が指さす方を見ると、なにか紫色の靄が徐々にこちらに移動してくる。靄は縦横3メートル程に広がっていて、奥行きは分からない。
危険を感じたドインは即座に撤退の指示を出す。
「一旦退くぞ!街まで退避し、ギルドに報告だ!」
「それは・・・困りますぅ・・・。」
突如背後から響く声。
振り向いた《鉄鋼連隊》の目の前には、黒い軍帽にサイズの合っていない黒い軍服を纏い、ピンクの髪を三つ編みにした小さな女の子がいた。
しかし、この『魔域』で小さな女の子がマトモに出歩けるはずがない。ドインは状況と経験から、瞬時に『魔族』だと判断。左手に持つ鉄盾で殴りつける。
凄まじい轟音が響いた。しかしそこには、自分の身長の1.5倍はあろう盾を『片手一本』で受け止めている少女の姿。
「い、いきなり殴るなんて酷いですよぅ・・・!」
その幼い反応故にドインは、いや、《鉄鋼連隊》は戦慄した。リーダーであるドインの盾による攻撃は生半可なものではない。それを平然と(見た目は半泣きだが)受け止めている少女は、もはや化け物にしか見えない。
「も、もうちょっとで『悪食』は次の進化をします・・・ですから、今ギルドに報告するのは、だ、ダメですぅ・・・!」
少女から急激に発せられるプレッシャー。それを感じた瞬間、ドインは叫んでいた。
「全員街まで逃げろぉぉぉぉっ!!!」
壊滅した《鉄鋼連隊》。唯一逃げ延びた前衛の青年はぼろぼろと涙をこぼしながら、その時の事を語る。
情報は大まかに分けて四つ。
一つ、敵は魔族の少女と『悪食』と呼ばれる何か。
二つ、少女の襟元には『伯爵級』を示すバッジがあった。
三つ、敵は徐々に街に向かっている。
四つ、少女は『悪食』を進化させることを目的としている。
話を聞いた冒険者達は騒然となりながらも各所に連絡、迎撃体制をとる。冒険者達は我先にと装備を整え、東門へと向かう。
(な~んか、オモシロくなってきた・・・かな?)
人知れず笑みを浮かべた和真は、ゆっくりと東門へと向かった。
<ネリエルside>
魔族襲来の知らせを聞き、東門へとやって来たネリエル。東門前にはアーリア聖騎士団の団員と冒険者達が集まって、作戦概要の打ち合わせをしている。
(とんでもないことになってきたわね・・・。)
ネリエル自身は魔族との戦闘経験はない。
噂で聞く程度だが、その強さは常軌を逸しており、1体の魔族にCランク以上のチームが二組から三組は必要だとか。それも魔族の『爵位』によってかなり違ってくるらしい。
(今回は『伯爵級』。どれほど強いんだろう・・・。)
このクアラの街は魔域に面しているため、冒険者の数も多く、また質も高いとされている。正直ネリエルは、これだけの戦力があればなんとでもなるのではと考えている。
しかし、気になるのはあのドイン・ドストが瞬殺されたという話だ。
『鉄壁』の二つ名を持つドインが『盾ごと切り裂かれた』と聞く。それはどれほどの力があれば可能なのか、見当もつかない。
そんなことを考えていると、アーリア聖騎士団第三番隊小隊長ガラム・イーダが今回の作戦を伝え始めた。
「勇敢なる諸君!よくぞ集ってくれた!!敵は伯爵級の魔族と正体不明の魔物だ!正直恐るべき相手だと思う!しかし!このクアラの戦士は世界一だ!我々が死力を尽くして倒せぬ敵などおらぬ!絶対にこの街を!この国を守るのだ!!」
集まった者達は皆気合いの雄叫びを上げる。
ガラムの説明はこうだ。
まず後衛部隊が遠距離攻撃をお見舞いし、防御型前衛部隊を壁にしつつ全隊前進。ある程度の距離を詰めて再度遠距離攻撃。そこで後方部隊を除いた全ての前衛部隊が突っ込む、というものだ。
単純ではあるが、数にものを言わせた強力な作戦だ。
「では行くぞ!出撃ぃぃぃ!!」
<side out>
皆が出撃した後を、和真はのんびりついて行く。危機感もクソもないからだ。
(伯爵級ってのは強いのかねぇ、楽しみだ。)
その時、かなり遠方で爆音が連続して響く。どうやら戦闘が始まったようだ。
(すげぇ音。爆薬でも使ってんのかね。)
徐々に近づく戦場。どうも分が悪いように見える。
戦場の更に奥に紫色の靄が見えた。あれが噂の『悪食』か?
そうこうする内に、戦場に到着。しかし、人が多すぎて相手のところに近付けない。和真は少し数が減るまで待つことにした。・・・もはや皆を助ける気など全くないのだろうか?
<ネリエルside>
「はぁはぁ、なによこの化け物・・・。」
既に夥しいほどの死人が出ている。ネリエルも数度攻撃を仕掛けたが、防御も何もしていないのに、魔族の肌に当たった剣はそれ以上傷も付けられない。
ネリエルは歯噛みする。
敵の強さに。
己の無力さに。
更に追い討ちをかけるかのように、ネリエルの周りの人間達がドンドン死んでいく。
そして、とうとう魔族の少女がネリエルの前に立つ。
「う、恨みはないんですが、これもお仕事なので・・・ご、ごめんなさいっ・・・!!」
振りかぶられる腕。あぁここで自分は確実に死ぬ、ネリエルは眼を閉じた。
「やっと見えたぁぁ!オラァァァ!!」
誰かの叫び声、次いで打撃音。
恐る恐る眼を開くと、昨日見た黒ずくめの男。
(あ・・・れ?私死んでない?魔族はどこ?)
横に目をやると、地面に倒れ伏す魔族。顔を押さえてうずくまっている。
(まさか・・・コイツが吹き飛ばしたの!?)
呆然としているのはネリエルだけではない。
周りの戦士達も、これまで何をしても傷つけるどころか一歩も動かすことが出来なかった魔族を『蹴り飛ばした』男の出現に頭が追いついていない。
「ふぅ、ようやくたどり着いたぜ。さぁ、伯爵級の魔族ってのは、俺を楽しませる『強者』かなぁ?」
男はニヤリと笑った。
次回、『地球最強』vs『伯爵級魔族』
さぁ主人公が暴れます。