はじまりはじまり③
盛り上がりってなんだっけ(笑
南門にてギルドカードを見せて、クルフ街道に出た和真。視界には広がる草原。
(すぐ近くが荒野なのに、ここは緑が生い茂ってんのか。)
少し先に見える森林を見ると、この世界に来た時のことを思い出す。
(まぁここが異世界だってのはいい、今更だ。だけどなんでだ?どうしてこうなった?)
分からないことだらけで、和真の頭の中は「?」だらけだ。
そんなことを考えながら街道沿いに進んでいくと、遠くに人が1人いるのが見えた。実際はかなりの距離があるのだが、和真にとってはどうという事がない距離である。
(ん~?なんか死合の気配。)
人間の女のようだ。周りには20匹程の・・・犬?狼?が見える。
(おっ、あれってワーウルフじゃないか?)
手元の絵と見比べるとどうやら間違いないらしい。
分かった瞬間、和真はその場から『消えた』。
<ネリエルside>
「はあっ!・・・あぁもう!なんでクルフ街道にこんな数のワーウルフがいるわけっ・・・!?」
女冒険者『ネリエル・カンドロフ』は剣を振りながら悪態をつく。彼女はDランクの冒険者で、『クルフ街道付近に出没する赤いゴブリン1体の討伐依頼』を受けていた。
赤いゴブリンは普通のゴブリンとは違う亜種で、普通のゴブリンはG~Eランクでも狩れるのだが、赤いゴブリンはE~Cランク相当の魔物である。 楽な依頼だと思い街道に出て来た彼女を待っていたのは、ワーウルフの大群。ワーウルフは単体では強くないが、群れの数が多いと難度が跳ね上がる。
「くっ・・・この数はツラいな。一旦退きたいんだけどっ・・・。」
しかし周りをワーウルフに囲まれている現状では、それも叶わない。
リスクは高いが、自分の持てる最大の技で突破しようかと思った、その時。
「はい、依頼完了~。」
目の前にいたワーウルフが5体『消滅した』。
「・・・はい?」
少し横に視線をずらすと、黒のコートに黒の手袋、黒のブーツ、挙げ句の果てに黒髪と、全身黒で固めた男が立っていた。 突然の闖入者に驚いたのは彼女だけではない。仲間を殺したのは男だと気付いたワーウルフ達も、男を警戒している。
「いや~楽な仕事だった。」
そう言う男の手には10本の牙。
(ま、まさか今の一瞬でワーウルフ5体を仕留めて、牙まで手に入れたの!?)
彼女の驚愕を余所に、男はそのまま街の方へと歩き出す。
焦ったのは彼女だ。ピンチに颯爽と現れた救世主かと思いきや、もう帰ろうとしているではないか。
「ちょっ、ちょっと待って!助けてくれるんじゃないの!?」
「はぁ?なんで俺がアンタを助けるんだよ。」
「どう見てもピンチでしょ!助けてくれたっていいじゃない!」
男は、そんな彼女のその言葉に心底呆れたような顔をする。
「え?こんな奴ら瞬殺出来ないのか?」
「は・・・はぁ!?」
かなり蔑んだ目で見られた彼女は、そのまま怒鳴り返そうかと思ったが、今にも襲いかからんとするワーウルフを見て、男に助けてもらおうと怒りを飲み込み下手に出ることにした。
「で、出来ないのよ!お願い助けて!」
「あ~マジか・・・。」
どうにも踏ん切りがつかない態度の男にイライラしている間に、ワーウルフが襲いかかってきた。数は4。避け、手に持つ剣で受け流し、なんとか回避する。
「お願い!礼はいくらでもするから!」
その言葉を受け、目に見えて乗り気じゃない態度で男が動き出した。
「はいはい、面倒だが仕方ない。」
男は、男に向け飛びかかったワーウルフを手刀で縦に『割った』。
「・・・!?」
もはや彼女の理解の範疇を超える出来事の連続。呆然としている間にも、男の『虐殺』は続く。
頭を踏み砕き、首を握り折り、殴り、蹴り・・・瞬く間にワーウルフは全滅していた。
<side out>
「ざっとこんなもんか。」
女が呆然としている間にワーウルフを片づけ終えた和真は、女に声をかける。
「よう、これでいいのか?」
「えっ、あ、うん、ありがとう・・・。」
「んじゃ、俺行くわ。」
用は済んだと歩き出す和真。そこに焦った声をあげる女。
「ちょっ、ちょっと待って!どこ行くの!?」
またも引き留められ、いい加減イライラしてきた和真は荒い口調で言葉を返す。
「なんだよ、まだなんかあんのか?こっちはとっくに依頼は終わってんのに、わざわざ手伝ってやったろうが。これ以上まだなんかさせる気かよ?」
さっさと報酬を貰いたい和真はそれだけ言うと、街に向けて歩き出した。
「このワーウルフの牙、全部貰っていいのかな・・・。」
そんな女の呟きは和真には聞こえない。
[クアラの街]
街に帰ってきた和真はその足でギルドに来た。
「すんませーん、依頼完了しましたー。」
「はーい・・・え?カズマ様?」
「ワーウルフ5体討伐終わったよ。」
採取のための袋などを全く用意していなかった和真は、そのまま手に持っていた牙をゴロゴロとカウンターに置く。
「え?もう終わったのですか?」
「街道に出たらたまたまワーウルフ見つけてね。速攻で狩ったんだ。」
驚くミリーにしれっと経緯を説明する。ちなみにあの女冒険者の事は敢えて言わない。どうでもいい事と和真が認識していたからだ。
「はい、確かにワーウルフ5体討伐確認いたしました。こちらが報酬の1銀貨です。」
(1銀貨ってことは100銅貨?ボロい仕事だな。)
「どーも。あ、ミリーさんのオススメの宿屋とかってある?」
あの後ミリーのオススメの宿屋を聞いて少し雑談をした後、和真はすぐにその宿屋《荒野の一輪花亭》に向かっていた。
《荒野の一輪花亭》は二階建ての木造の建物で、一階が食事スペース、二階が宿になっている。宿を仕切るのが女将、食堂を仕切るのが主人となっているようだ。
もうすでに夕方だということもあり、食堂では冒険者らしい男達が酒を飲んで野太い声で笑い声をあげている。
「すいません、宿をとりたいんですけど。」
「はいはい、宿泊だね?一泊朝食付きで5銅貨、昼食と夕食は別料金だよ。」
恰幅のいい、宿屋の女将然とした女性が対応する。
「それじゃあ、とりあえず3泊で。昼食代と夕食代は今払っても?」
「あぁ、昼と夜の食事代は最後にまとめてで構わないよ。」
「わかりました。じゃあとりあえずこれで。」
3泊分15銅貨を支払った和真は、そのまま夕食を食べることにした。
夕食はパンが二切れに、なにかの肉が入ったスープ、それにサラダだった。
食事をしている和真の後ろから、誰かが宿に入ってくる音が聞こえた。
どうやら入ってきたのは女性らしく、酔った男達がはしゃいだ声を上げる。
「おー!我らがアイドル、ネリエル嬢のお帰りだー!」「今日は何を狩ってきたんだぁ!?」「ネリエルちゃーん!こっち来て酌してくれやー!」
(うるっせえなぁ。まぁいいけどよ。)
急に騒がしくなった食堂に眉を寄せる和真だが、酔っ払いに何を言っても仕方がないかと諦める。
その時入ってきた女が声を上げる。
「あーーーっ!?アンタさっきの!?」
「あん?」
ふと横を見ると、どこかで見た顔の女が大口開けてこちらを指さしている。
(・・・あぁ昼間の。)
納得した和真は再び食事を始める。
「ちょっと!無視しないでよ!!あの後大変だったんだからね!!」
和真に女―――ネリエルと言うらしい―――が詰め寄る。
それに和真は鬱陶しそうに目を向ける。 ネリエルは長い金髪を後ろで軽く結い、白い肌、蒼い瞳に整った顔立ちをしており、なかなかの美人だ。歳は17、8といったところか。
「何か用か?」
「何か用か?じゃないわよ!なんであのまま帰るのよ!あんたが倒したワーウルフの牙集めるの大変だったのよ!?」
「いいじゃねーか、それで儲けたんだろ?」
「このネリエル・カンドロフがそんな真似するか!換金はしたけど、アンタに渡すために探そうとしてたのよ!」
ネリエルはテーブルにガンッ!と硬貨が入っているらしい袋を叩きつけた。結構な量が入っているようだ。
「そりゃどーも。有り難くいただいとくわ。」
「えぇ、元々アンタの物だしね。・・・そんな事より!普通、ピンチの女の子を助けてそのまま放置して行く!?」
どうやら放置して来たのがマズかったらしいと気がついた和真は、早々に謝ることにした。・・・これ以上騒がれるのも面倒なので。
「あ~悪かった。初依頼で緊張してたんだ。許してくれ。」
思ってもいないことを口にする。これで用件は済んだ、と和真は食事を再開しようとしたのだが、
「はぁ!?アンタ初依頼!?ってことはGランク!?嘘!?」
(うるせえ女だなぁ・・・ちょっと話付けるか。)
サッと夕食を食べ終えた和真はネリエルを誘って、静かなところへ移動することにした。
連れてきたのは自分のとった部屋。和真自身初めて中を見たが、綺麗に手入れがされているようだ。
部屋に入りドアを閉めると、すぐに本題に入る。
「ここなら構わないから、好きなだけ質問しろ。ただし騒ぐなよ。騒いだら叩き出すからな。」
「うっ、分かったわよ。じゃあまず一つ目、アンタ、ホントにGランク?」
素直に答えて良いものと悪いものがあるだろうと考える和真。これは答えて良いものだと判断。
「あぁ、事実だ。ほら、ギルドカード。」
そう言って、名前とランクが書かれたカードを見せる。
「うわっ、ホントだ。Gランクであんなに強いの・・・?」
「んで、二つ目は?」
さっさと終わらせたいが為、先を促す。
「あ、うん。二つ目は・・・アンタ何者?武器も使わず素手で魔物を倒すなんて、御伽噺の『三大英雄』の一人みたい。」
「そんな大層なもんじゃない。俺は格闘家なんだ、珍しいもんじゃないだろう?」
実際に格闘家が珍しくないかなど、もちろん和真は知らない。
「たしかにファイターは珍しくないけど、ワーウルフを手刀で『割る』ファイターなんて見たことないわ。」
(あちゃあ、あの程度でやりすぎなのか。)
「俺の師匠が凄い人でな。物心ついたときからその人のところに居たから基準が分からないんだよ。」
もはや嘘八百並べ立てる以外に手はなかった。
「は~そんな人っているのね・・・ちなみにその師匠って?」
「言わない。言うなって言われてるから。」
「そう・・・。」
和真は今度こそ終わりだと、彼女を追い出すことにした。
「もういいだろう。俺は疲れてんだ。あぁ、ちなみに他言無用で頼むぜ。」
「え、あぁ、ごめんなさい。もちろん誰にも言わないわ。」
「そりゃ良かった。じゃあな。」
「あ、うん。また・・・。」
挨拶もそこそこに彼女を外に出してドアを閉める。
(は~・・・。どうもこの世界に関する情報が足りなさすぎるな。明日は依頼よりも情報収集するとしようか。)
次の日。
和真は冒険者ギルドに来ていた。なにかこの世界の資料があるはずだと考えたからだ。まずミリーに聞いてみることにした。
「おはようミリーさん。今ちょっといいかな?」
「おはようございます、カズマ様。依頼ですか?」
「いや、なんかこの国に関する資料とかないかな?」
「資料ですか?でしたら、二階の冒険者用の待機部屋に資料冊子がいくつかございますが。」
「二階か、そういや何があるか聞いたことなかったな・・・ありがとう、ちょっと行ってみるよ。」
和真は二階に上がる。するとかなり大きい本棚が10ほどあり、テーブルやイスがいくつか用意してある部屋を見つけた。
(ここかな。結構広いなぁ。)
いくつかの資料を手に取り、パラパラめくってみる。『ミランディリオン王国の成り立ち』『伝説の三大英雄』『人間と魔族』等々・・・。
そこで和真は気付いた。
(んん?そういや文字が読める。っていうかこの世界の人間と話せる・・・?)
ここでようやく和真は気付いた。何故かこの世界の言語が理解できる。文字は見たことのないモノだが、意味が理解できる。会話はどうなっているのだろうか?
更に疑問点が増え、悶々と考えていると俄に下が騒がしいことに気が付いた。
和真は下に降りてみた。そこには、傷だらけでボロボロの男を多くの冒険者達が囲んでいる光景があった。様子を見てみる。すると、ボロボロの男は絞り出すように叫んだ。
「ま、魔族だ!!伯爵級の魔族が出た・・・っ!!」
風雲急を告げる。
急展開m9(^Д^)プギャー
ネリエルたんの活躍はまだまだ先です。