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俺の高校3年生  作者:
3/4

2クォーター:10年前の自分からの贈り物

「おっ、あれ美奈じゃねぇ?」


至が現実に引き戻されたのはこの陽一の一言。顔を上げるとそこは見覚えのある町並み、そして目の前には誠の家の前に立っている美奈がいた。


「本当に何のつもりだ…?」

「ん? 何が?」

「俺は仲良かった連中だけで集まるってお前から聞いたぜ?」

「は? 美奈だって仲良いだろ」

「違う、俺が言ってるのはそうじゃない。…なんで誠の家なんだよ」


至のこの言葉で陽一の顔つきが変わった。至は俯いてなんともやるせない表情をしている。


「…誠とずっと親友だと思ってたのは俺だけかよ」

「え…?」

「仲良かった連中って言うのは、誠とも仲良かった連中なんだよ。今日は…誠について話があったから呼んだんだ」


至の心はなんとも複雑になっているだろう。陽一はそれだけ言い終わるとすたすたと歩いていってしまった。至は重い足取りで美奈が待っている誠の家に向かう。そこで何があるのか、至は不安でしょうがないのだ。



中にはすでに他の同級生もいた。


「おっ、やっと来たかぁ! 至は久しぶりだな。お前大学生になって上京したきり帰ってこねぇんだもんな」

「悪ぃ、悪ぃ。ところで、誠の事についてって何なんだ? いまさら話すことなんて無いだろう?」


冷たいとも思われる至の言葉に、みんなは怒りもせずに苦笑いしている。といっても陽一は怒っているのだが。


「至は呼ばなくて良かったかもな。どうせ誠のこと忘れてたんだろう?」


至は眉をひそめた。他の連中は驚いた顔をしている。


「誠のことで話があるのはいい。でもなんで誠の家でやる必要があるんだって言ってんだよ」

「それは誠の存在を拒否してるのと同じだろ」

「んだと…!」


2人は睨み合った。他の連中はまだ驚いた顔をしている。陽一がそこまで言うのが珍しいのだ。緊迫した空気の中、一番最初に発言したのは1人の元同級生Aだった。


「陽一なに怒ってんだよ。大体、至が誠の家に入りたがらないのもわかるだろ?」

「わかんねぇよ」

「何言ってんのよ陽一。だって至は……」


そこで口ごもる美奈。そんな美奈に至は苦笑する。陽一はまだ口を尖らせているようだ。


「第一発見者かなんだか知らねぇけど、そんなの関係ないだろ」


一気に静まり返る空間。やけに時計の音が大きく聞こえる。


「…だって陽一、ここだぜ?」


至がぼそりと陽一に呟く。陽一は何が、と短く切り返す。そんな陽一にまた苦笑しながら、部屋を見渡して呟いた。


「ここで誠が死んでたんだぜ?」


重い沈黙を必死に破りながら、至が言葉をつなげる。


「ここで、誠が自分の胸に包丁突き刺してたんだぜ? お前が俺だったら、そんな生半可な気持ちでこの家にまた入れるか?」

「……さあな」


至の必死の思いは陽一に届かなかったのかもしれない。陽一は立ち上がってどこかへ行ってしまった。

俯いている至に声をかけたのは美奈で、昔から優しいとこは変わってないなと至は思った。


「おい」


どこかへ行っていた陽一がすぐに戻ってきた。乱暴にもといた席に座りなおすと、どこかから持ってきた茶色い長細い封筒を机の上に置いた。


「何だよこれ…」


不思議に思ったのは至だけだったようだ。他のものは話も前もって聞かされていたようだった。


「至、お前が読め」


命令口調でそう言った陽一。昔から喧嘩っぽいことをした後の陽一の態度はえらそうだった。机の上においてある封筒を手に取り、中を開ける。


「“俺が殺した”…? “ごめんな” 何だよこれ…」

「見てのとおりよ。陽一がね、10年前のあの日に誠の家で見つけたらしいの。中に書いてあることはすでに読んだらしいんだけど」


美奈がていねいに説明をする。でもまったく至は理解できなかった。なぜ陽一は黙っていたのか・何がこの中に書いてあるのか。


「早く読めよ」

「あぁ…。“ほんとうにごめんな”」



『俺が殺した。

 ごめんな。

 ほんとうにごめんな』


たったこれだけか、至は思った。至からは何の感情もわいてこない。


「誠は10年前これ読んだとき、なんて思った?」


気づくと口が動いていたという至の表情。そこからは少しの後悔も表れている。陽一は机に顔を伏せながら、少し間をあけてこう言った。


「最初はムカついたさ」


「…ムカついた?」

「あぁ…今は、何の感情もわいてこない」


至からは陽一の表情は見えない。でも陽一が泣いているように至は思えた。普通ならそんな陽一に少しだけでも気遣いはするだろう、でも至は口を開いた。


「何で黙ってんだ?」

「…だってあの時これ見せてたら、お前らみんなもっと苦しむだろ」


疑問文ではない陽一の言葉。でも多分その通りだと、その場にいる皆が思っているだろう。

しばらくの間、沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは、意外にも陽一だった。


「何お前ら気ぃ重くしてんだよ!」


思った以上にその声は明るくて、それが至にとってもっと辛かった。


「タイムカプセル開けに行くぞ!」


「……は?」





至たちが向かった先は高校の中庭。学校には誰もいなく車の音もしなく、やけに静かだった。


「そういえばタイムカプセルなんて埋めてたなぁ」


友人Bが言う。それに続いて美奈が発言する。


「私もすっかり忘れてたわぁ。陽一よく覚えてたわね」


だろ?と自慢げに美奈に返事をした。その場の空気はさっきとは打って変わって爽やかなものとなっていた。


「俺なに入れたか覚えてねぇや」


これは至の言葉。至もさっきとは違う空気にほっとしている。


「覚えてたらつまんねぇだろ? さっ、さっさと掘ろうぜ」

「でも陽一、どこにあるか覚えてるか?」


至の言葉に、冷たい風が吹いた気分になった陽一。

皆の冷たい目線が陽一に降り注ぐ。


「お、覚えてるに決まってるだろ。き、きっとこの木の下だったさ」


「違うわよ、そこの木の下じゃなくてあっちの小さい木の下よ」


美奈に視線が集まる。その美奈はそんな視線もろともせずに、小さい木を指さしている。

一同は美奈の記憶力に感心したそうな。


そして時間は過ぎていった。

タイムカプセルが地面から出てきた頃には、もう夕日が沈もうとしていた。

地面から出てきたのは、ビニル袋にしっかりと包まれた大きいゴミ箱だった。


「うわ、汚ねぇ」

「だねぇ。さっ、早く中見ようよ!」


美奈の言葉にあおられて、友人Aがふたを開けた。中には、6つの箱が入っていた。その中のひとつの箱を美奈が手に取る。


「あっ、それ俺のだ!」


挙手したのは陽一だった。箱を開けると、中にはたくさんのおもちゃが入っていた。


「うわっ、ガンダム・セーラームン・ゴジラ・仮面ライダー…」

「だぁ! いちいち言わんで良い!」


思いっきり顔を赤らめる陽一に、至は口元を緩ませた。

それから次に美奈が取り出したのは、美奈自身のものだった。中には小さいぬいぐるみや写真が入っていた。


「あ、これ小さいときに買ってもらったぬいぐるみだ。こんなとこにあったんだぁ」


ぬいぐるみを手にはしゃぐ美奈、至は一緒に入っていた写真を見る。


「うわ、みんな若い!」

「どれどれ? うわぁ、皆しわひとつねぇぞ!」


数枚の写真の中には、体操服や制服を身にまとった至や陽一、美奈はもちろん、誠の姿もたくさん映っていた。


「……みんな幸せそうだな」

「だねぇ…」


しんみりとした空気が至たちを包み込む。そんな空気に我慢できなくなったのはもちろん陽一だった。

次行くぞ、と言って適当に箱を手に取る。

友人2人の箱も開け終わり、みんな懐かしい気分になっていた。


「残り、2つだねぇ」


美奈が名残惜しそうにひとつの箱を手に取る。

大事そうにふたを開けると、そこには分厚い本があった。


「何これ、至の?」

「いや、俺のじゃないはず」

「ってことは、誠のかぁ…」


至は本を持ち上げる。それは意外にも重く、そしてところどころ破けていた。


「……日記?」


表紙をめくると、そこにはDiaryと書かれていた。

丁寧に1枚1枚ページをめくる。


『○月○日

 

 今日は至と陽一と3人で町に出かけた。2人ともはしゃいでたなぁ。俺も楽しかった。

 また行きたい。

 でも寂しい。寂しいよ。



 ○月○日


 今日は部活があった。すごくきつかった。何で俺こんな部活に入ったんだろう。

 本当に嫌だ…。



 ○月○日


 成績が下がった。何で俺はこんなんなんだろう。

 本当に死にたい。お母さん…。


 

 ○月○日


 美奈が家に来た。元気がなかった俺を心配して来てくれたみたいだ。

 美奈が帰った後泣いちゃったな。すごく嬉しかった。



 ○月○日


 キャプテンになった。やだなぁ。俺より至や陽一のほうが適任だと思うけど。

 何で俺をコーチは選んだんだろう。



 ○月○日


 親父とけんかした。些細なことだったのになぁ。

 早く仲直りしたい。



 ○月○日


 誰か俺を殺してください。



 ○月○日


 死にたい、死にたい。



 ○月○日


 殺せ殺せころせころせ



 ○月○日


 何で死にたいなんて思ってたんだろう。こんなに仲間がいるのに。

 こいつらは一生の友達だ。大好きだ。

 


 ○月○日


 今日も楽しかった。今日至に嬉しいことを言われた。

 「お前がキャプテンに選ばれたのは、お前がバスケがうまいからとかじゃない!

  お前が良いやつだからだ!」って。俺より至のほうが良いやつだよ。



 ○月○日


 大好きだ。陽一も美奈も至もバスケ部の皆も、みーんな大好きだ。



 ○月○日


 今日試合があった。でも負けた。3年生最後の試合だったのに。

 悔しい悔しい悔しい。悔しいよ。

 でももう受験だし頑張らなくちゃいけない。

 至と陽一泣いてた。励ましてやったけど大丈夫かな?

 しかも帰りの道、間違えそうになったし。



 ○月○日


 今日再認識した。

 至と陽一がしっかりするまで、俺まだまだ死んじゃいられねぇな。』




そこで日記は終わっていた。


読んでくださった方、ありがとうございます。

次回最終回です。どうぞごゆっくり見ていってください。

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