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俺の高校3年生  作者:
1/4

1クォーター:始まっていた試合

 ある日、至の携帯電話に着信がはいった。書類に目を通してた至は、一瞬怪訝そうな顔をしてから、机の上に無造作に置いてある携帯電話を手に取った。


「もしもし」


仕事からのストレスのせいか、乱暴に受け答えをする。が、一瞬にして声が跳ね上がった。


「おっ、久しぶりだなぁ! どうした? …あぁ忘れてたよ、分かった。明日だな」


短い会話を終えたあとの至の顔は、少しだけウキウキとしている気がする。そんな至に気づいたのか、隣の席の同僚・北島は、パソコンから一瞬も目を離さずに忙しそうに手を動かしながら短くこう言った。


「どうした?」


「ん? ちょっと高校のときの友達から連絡が来てな。明日、仲良かった連中だけで集まるんだ」


さっきとはうって変わって嬉しそうに仕事をする至。北島はつまんなそうな顔をして、ちらりと至を見た。


「……仲良いみたいだな」

「あぁ、なんだかんだ言って、俺たちずっと一緒にいるからなぁ」

「ふ〜ん…」

「……」


すると、また至の表情が変わった。イライラしてた時とは違う苛立ちの顔。

北島は不思議に思う。


「そういえば、ずっとお前と一緒に職場だけど、お前から昔話聞いたのこれが初めてだな」

「…そうだったか?」

「あぁ、お前気づいてないのか。昔話になるとすぐお前逃げてくんだぜ」


北島は冗談っぽくそう言ったつもりだったが、また至は黙ってしまった。それを見た北島は、文字を打っていた手をキーボードから離した。そして椅子をくるりと回転させ、至と向き合うようにした。


「昔、何があったんだ……?」


他の社員のキーを打つ音だけが響く無造作な部屋。その音にかき消されるかのように、北島の言葉は飲み込まれていく。

至は、書き終わった書類を整理する。北島とは目も合わさない。それでも真っ直ぐ見てくる北島に、至は苦笑いした。


「興味本位か?」


「あぁ」


きっぱりとそう言った北島に、至はまた苦笑いをした。そして手に持っていた書類を引き出しに入れると、北島と同じように椅子を回転させ、2人は向き合った。


「聞いても、何の特にもなんねぇぞ?」

「別に…暇つぶしのつもりで話してくれれば良いさ」


実際仕事はたんまりある。全くといって良いほど暇じゃない。しかし、そう言い切る北島。至はため息をつく。


「そいつらとは、バスケ部でずっと一緒だったんだ。でも」

「でも…?」


緊迫とした空気が2人の間に流れた。


「……やっぱやーめた」

「はぁ?」


北島の間抜けな声。そんな声を聞くのは、入社当時から一緒である至も初めてだろう。


「やめたって言ってんだよ」

「は? ここまで来てか?」

「ここまでって…まだ全然話してねぇぞ」

「そうだけど! 何でやめんだよ!」

「気分」

「はぁ!?」


それだけ言うと至は椅子を机に向き直してしまった。それを呆然と見ている北島は、先ほどの至のようなため息をついた。

そんな北島を見た至は、また苦笑いをした。





 次の日、至はいつもより遅く起きた。仕事は休みをとり、今日は友人に会いに行く。歯を磨き、髪や服装を入念にチャックし、いざ出陣。


至が待ち合わせ場所に行くと、すでに1人の人物が立っていた。


「陽一!」


至が思わず叫んでしまうほどの人物。陽一と呼ばれたその男も、至に気づくと顔を明るくさせた。


「至!」


至は思わず駆け寄る。


「お前っ…変わってねぇ!」

「なっ、それは陽一もだろ!」

「いや、俺はかっこよくなった」


そう言い切る陽一に、ついつい吹き出してしまう。それを見た陽一もまた、顔がほころんでしまうのは言うまでもない。


「他のやつらは?」


至は言った。

それに対して陽一は首を振る。


「帰るぞ」

「は?」

「何、間抜けな声出してんだよ。里帰りだよ、里帰り」

「はぁ?」



それから数時間がたった。そして今、至は半ば無理やり連れてこられ、故郷にいる。


「着いたな」

「いちいち言わなくても分かってるよ」


2人は、自分たちの故郷にいた。いや、帰ってきた。


「何が目的だ?」


「…なんだと思う?」


挑戦的な言葉を投げかける陽一。至は今日1回目となるため息をつく。


「俺って苦労人だよな」

「何言ってんだよ、至。“俺たち”だろ」

「…そうだな。それにしても」

「ん?」

「帰ってきたんだな……」


 風が吹いた。田舎ならではの優しい風。空気が澄んでいる。汚染されていないきれいな空気。ここは紛れもない、至の故郷。


「いずれは帰ってこなきゃいけなかったんだよ」

「分かってるさ。行こうぜ」


2人は歩き出した。

至は思った。本当に帰ってきてしまったんだ、と。


田舎だから、バスもないし地下鉄もない。交通手段は自分たちが持っているこの2つの足だけだ。

歩いているうちに、至はだんだん口数が減り、表情も硬くなってきた。きっと、子供のころのことを思い出しているのだろう。でも、至が思い出すのは、あの日のことだけだった。




それは、10年前の夏。当時18歳、高校3年生。至たちは受験生。最後の夏のことだった。


こんいちは。読んでいただいた方、ありがとうございます。これは4話くらいで終わる予定ですので、どうか最後まで見ていってくれると嬉しいです。

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