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魔王城に連れて行かれた俺、女魔王の婚約者にされました

作者: Romanoff726
掲載日:2026/05/10


「お前は――今日から余の夫だ」


……は?


目の前でそんな意味不明な宣言をしているのは――


人類最大の敵。


女魔王ヴェルミアだった。


腰まで届く艶やかな黒髪。


宝石みたいに赤い瞳。


頭から伸びた黒い角。


そして、やたら色気のある顔。


どう見ても恐ろしい魔王のはずなのに――


「よし! これで余も子孫を残せるな!」


なぜか少し顔が赤い。


……いや待て。


話についていけない。


俺、カインは勇者でもなんでもない。


魔王討伐軍に所属する、ただの一般兵だった。


そして戦争中、


俺は女魔王ヴェルミアに捕まった。


当然、待っているのは拷問か処刑。


……そう思っていた。


なのに。


「というわけで結婚だ!」


「はい?」


「拒否権はないぞ!」


返事が早すぎる。


いやそもそも、


なんで魔王が人間に求婚してるんだ?


混乱する俺をよそに、ヴェルミアは上機嫌で言った。


「結婚式の日取りも決めねばな! 配下たちも全員呼ぶぞ!」


……これ、もしかして断れないやつか?


「さあ! 次はウェディングドレスを選びに行くぞ!」


ヴェルミアはそう言うなり、俺の腕を掴んだ。


「……いや、なんで俺まで?」


すると彼女は当然のように言い放つ。


「夫だからに決まっているだろう!」


いやその理論はおかしい。


そして俺は、そのまま強引に連行された。


――魔界へ。


空は赤黒く染まり、見たこともない建物が並んでいる。


道を歩いているのは、


悪魔。


獣人。


サキュバス。


どう見ても“人類の敵”みたいな連中ばかりだった。


しかも全員、


ちらちらとこちらを見てくる。


……いや、正確には。


俺ではなく、ヴェルミアを見ていた。


「ヴェルミア魔王様だ!」


「魔王様、お疲れ様です!」


ヴェルミアが通るたび、


魔族たちが一斉に頭を下げる。


するとヴェルミアは、さっきまでの様子が嘘みたいに威厳ある声で言った。


「うむ。我が配下たちよ、今日も励むがよい」


……誰だこのカッコいい女。


さっきまで「結婚だ!」とか騒いでたやつと同一人物か?


すると、一人の悪魔が恐る恐る俺を見た。


「ヴェルミア様……その人間は?」


「うむ」


ヴェルミアはなぜか誇らしげに胸を張る。


そして――


「余の夫だ!」


「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」


魔界中に響きそうな勢いで、驚愕の声が重なった。


「結婚式の日取りは後日伝える」


そう言いながら、ヴェルミアは俺の腕にぎゅっと抱きつく。


「さあ行くぞ、カイン!」


そして俺は、


女魔王に腕を組まれたまま――


魔界中心街にあるウェディングショップへ連行されるのだった。


「どうだ!? このドレス、余に似合っているか!?」


ヴェルミアは白いウェディングドレス姿で、くるりと回ってみせた。


……いや。


これ絶対、もう何十着も試着してるよな?


店員のサキュバスたち、若干疲れた顔してるし。


「似合ってますよ、ヴェルミア様」


俺がそう答えると、ヴェルミアはじーっとこちらを見つめてきた。


「……それだけか?」


「え?」


「もっと大きな声で褒めろ!」


面倒くさい彼女か。


「ほ、本当に綺麗です! めちゃくちゃ似合ってます!」


するとヴェルミアの顔が一気に赤くなる。


「――よし! これにする!」


どうやら今の回答が正解だったらしい。


こうしてヴェルミアは、満足そうにウェディングドレスを選び終えた。


そして――


魔王城へ戻った、その夜。


「今日は余が夕食を作る!」


ヴェルミアが高らかに宣言した。


「えっ、ヴェルミア様が?」


「当然だ! 夫に手料理を振る舞うのは妻の務めだからな!」


そう言って現れたヴェルミアは――


なぜかピンク色のエプロン姿だった。


長い黒髪。


色気のある顔。


魔王らしい威圧感。


……なのにピンクのエプロン。


ギャップがすごい。


「人間の料理を作るぞ! ステーキだ!」


やたら楽しそうに笑うヴェルミア。


……女魔王って、こんなに可愛くていいんだろうか。


「さあ、食べるがよい!」


ヴェルミアが自信満々に皿を差し出してきた。


そこに乗っていたのは――


黒かった。


……いや、ステーキなんだけど。


かなり黒い。


絶対焼きすぎてる。


たぶん頑張って作ったんだろう。


でも、どう見ても炭に片足突っ込んでる。


「どうした? 早く食べろ!」


期待に満ちた目で見つめてくるヴェルミア。


……食べないという選択肢、ある?


相手は女魔王だぞ?


しかも俺の“婚約者”らしいし。


俺は覚悟を決め、ステーキを一口切って口へ運んだ。


――しょっぱい。


いや待て。


めちゃくちゃしょっぱい。


しかも普通に焦げの味がする。


「どうだ?」


ヴェルミアがきらきらした目で聞いてくる。


その視線があまりにも真っ直ぐで――


俺は無理やり笑顔を作った。


「……すごく、美味しいです」


「本当か!?」


ぱあっと表情を明るくするヴェルミア。


……うん。


世界最強の女魔王も、


料理だけは壊滅的らしい。


そして――


ついに結婚式当日。


女魔王ヴェルミアと人間の結婚式は、魔界中でとんでもない話題になっていた。


魔王城には悪魔族、サキュバス、獣人たちが集まり、豪華すぎるほどの祝宴が開かれている。


「本当に結婚するのか……」


「しかも相手、人間らしいぞ」


「魔王様、本気だったんだな……」


ざわめきが広がる中、俺は黒い礼装に身を包んでいた。


そして――


大広間の扉が開く。


現れたのは、純白のウェディングドレスを纏ったヴェルミアだった。


長い黒髪。


赤い瞳。


魔王らしい圧倒的な存在感。


なのに今の彼女は、どこか年相応の女の子みたいにも見える。


……綺麗だった。


普通に、見惚れるくらいには。


ヴェルミアはゆっくり俺の前まで歩いてくると、不安そうに視線を揺らした。


「……どうだ?」


「え?」


「余は……ちゃんと美しいか?」


いつもの偉そうな態度なのに、少しだけ声が弱い。


たぶん、緊張しているんだろう。


だから俺は、今度は迷わず答えた。


「はい。すごく綺麗です」


「っ……!」


その瞬間、ヴェルミアの顔が真っ赤になる。


でも彼女は誤魔化すように胸を張った。


「そ、そうか! なら問題ない!」


そう言って笑うヴェルミアを見て、俺も少し笑ってしまう。


……ああ。


たぶん俺は、もう結構この人のことが好きなんだと思う。


結婚式は、厳かな空気の中で進んでいた。


司式を務めるのは、長い白髭を生やした老悪魔。


いかにも“魔界の重鎮”といった雰囲気だ。


老悪魔は杖を鳴らし、厳粛な声で問いかけた。


「花嫁、ヴェルミア。汝は夫カインを永遠に愛すると誓うか?」


するとヴェルミアは、一切迷うことなく答えた。


「誓う!」


即答だった。


しかも妙に嬉しそうだ。


会場の悪魔たちがざわつく。


「魔王様があんな顔を……」


「完全に恋する女の顔では……?」


そんな声まで聞こえてきた。


そして次に、老悪魔は俺を見る。


「花婿、カイン。汝は妻ヴェルミアを永遠に愛すると誓うか?」


俺は――


少しだけ、ヴェルミアを見る。


黒髪。


赤い瞳。


圧倒的な力を持つ、世界最強の女魔王。


なのに今は、不安そうにこちらを見ていた。


……ああ、本当に。


この人は俺の返事を、ちゃんと気にしてるんだな。


だから俺は、もう迷わなかった。


「はい。誓います」


その瞬間、ヴェルミアの顔がぱっと明るくなる。


老悪魔が静かに頷いた。


「では――誓いの口づけを」


俺はヴェルミアの前へ歩み寄る。


そして、そっと唇を重ねた。


ヴェルミアの肩がびくっと揺れる。


……下手だ。


女魔王のくせに、キスは驚くほどぎこちない。


でも。


その唇は、少し熱いくらいに温かかった。


その瞬間――


会場中から、大きな拍手が巻き起こった。


「ヴェルミア様ー! お幸せに!」


「ついに魔王様が結婚か……!」


「おめでとうございます!」


悪魔たちも、サキュバスたちも、皆どこか嬉しそうに笑っている。


最初は“人間との結婚”に戸惑っていた連中も、今では完全に祝福ムードだった。


そんな中。


ヴェルミアがそっと俺の袖を引っ張る。


そして、周囲には聞こえないくらい小さな声で囁いた。


「……余は、お前の花嫁になれて幸せだ」


その赤い瞳は、さっきまでの“女魔王”ではなく――


ただ、一人の恋する女の子みたいだった。


だから俺も、自然に笑って答える。


「俺もです。ヴェルミア様」


もう、迷いはなかった。


最初は突然すぎて振り回されているだけだと思っていた。


でも今なら分かる。


俺はきっと――


この世界で一番強くて、一番不器用で、一番可愛い女魔王に、本気で惚れている。

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