表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

正直者が得をする幽霊の食費ドラフト

『食費ドラフト』と呼ばれる月に一度のイベントが幽霊にはある。

その名の通り他校と月に一度、次の食費ドラフトまでの間の食費の金額を決めるものだ。

野球に詳しくない私は、ただのくじ引きだと思って参加したことが間違いだった。


「ではルール説明を始めます」

スーツを着た男性がカンペを読み上げる。

「人間の野球ドラフトと同じように、一番魅力的だと思った金額を第一位希望金額として提出してください。ちなみに早い者勝ちのウェーバー制はありません。」

金額が表記されたプリントと、タブレットが配布される。

そこには『代表者つむぎで間違いありませんか』という画面で止まっていた。

はいを選択し、プリントに目を通す。

私は実際に食費ドラフトに参加したことはなく、ルールもやんわり教ええてもらっただけだ。できるかぎり大きな金額がいいって言っていたから、一番大きな金額を選ぼう。



「話し合っていただいて結構です。時間制限はありませんから、ご自由に」

…え、ドラフトってこんなんだっけ!?


私が人間の頃見ていたドラフトとはものすごく緊張感漂うものだった。

人間の野球ドラフトとは違い全員で話し合い解決策を見つける。なんて平和なんだ!

「皆さん優しそうな方でよかったです!ドラフトはじめてだからちょっと緊張してたんです!」

みんなに聞こえるように大きな声で話す。

スーツの男性が目を大きく見開いている。

「そ、そうだね!みんな正直者でたのしいなぁ!」

目の前に座るおじさんが大声で話しながら拍手をする。

どこか笑顔が引きつっているような…。


「どの番号で提出するかを皆で話し合いませんか?」

にこにことした笑顔が印象的なおばあちゃんが手を合わせながら見回す。

反論する人はいなかった。

「せーので言いましょうか。せぇーの」

一番大きな金額が書かれた番号を口に出す。

番号を聞き、一番多く番号が集まった番号を確認する。

No.2。そこそこ贅沢できるくらいの金額っぽい。

ここに集まっているのは11人。意外とみんな謙虚だ。

「一番大きな金額の番号言っちゃいました。強欲みたいで恥ずかしいです」

恥ずかしさを隠すようにへらへらと笑ってみる。


次々に理由を話していく。

けれどどこか、本音と嘘が混ざっているように聞こえた。

さっきNo.2を選択すると言い張っていた人が、今度は別の番号を必死に自分の番号にすると皆に高らかに宣言している。

―あれ、自分の番号から離れるの?

さっきまでその番号に必死だったのに。

違和感と胸のざわつきを抑えるように、机に置かれたお茶を一口含み、討論大会みたいだと眺めた。

隣の人が再び話しかけてきた。

「ねぇ、本当にNo.7にするんですか?」

「…?はい」

どういう意図の説明なんだろうか。


…長い。

芽衣と元気くんが私に行くように言ったのは長時間拘束されるからか。

だんだんと周りの人たちはわけのわからないことを言い出すようになった。

「ですから!うちは人数が多いのでNo.6を譲ってください!」

No.6はそこまで大きな金額ではない。

おもわず口を出した。

「人数が多いならNo.1にしたらどうですか?そこそこ金額も大きくて、ここにいる誰も選んでませんから」

また部屋がしんと静まり返る。

私変なこと言ってるかな。

もし重複したとしても抽選ができるのに。


この食費ドラフトは全国の様々な学校からランダムでマッチングされる。もう会うことはないだろう。


正直、もう帰りたい。番号を提出する話し合いは、もう1時間もたっていた。

「…あの、番号の話しませんか?」

ほんの少し空気がゆがんだ気がした。

うまく言えないけど、何かがずれてる。


その話し合いはそれから長く続いた。

あくびをかみ殺していたところ、だんだんとどういう発言をすればいいのか分かってきた。

その理由でその番号を選んでいるのか。

そういうやり方なら、私も話し合いに参加できそうだ。

「はい!私はルームメイトの笑顔が見たいのでNo.7を選びました!」

自信満々にはっきりと大きな声で発言できた。


楽しい!みんなのルームメイトの話や生活の話を聞いていると、私たちとは違う幽霊なのだと実感させられる。さっきの歪んだ空気なんて忘れてみんなの話に聞き入ってしまう。

「ちなみにNo.2を選んでいる方が2人以上いますが、譲る気はありますか?」

ちらりと私の方を見る。

「No.7にやっぱり変えようかなぁなんて」

「え、嫌です。大きな金額持って帰ってきてと言われているので」

こればっかりは譲れない。

そうですかと言いながら別のNo.の変更を試みる。

しかし金額が上がれば上がるほど重複は増えていく。

「あなた、本当にNo.7を選ぶつもりですか?」

訝しげに尋ねられる。

「はい。No.7以外考えてません」

それからも何度も本当に他の番号に興味はないかと聞かれた。

何度聞かれても私の意思は変わらなかった。


あっという間に提出をしようという話になった。

「皆さんと話すの楽しかったです!私は予定通りNo.7を提出します!」

しかし自分以外の誰も、何番に入れるか宣言していない。

さっきまで様々な意見を言い合いながら番号を言い合っていたのに、静かだ。

「僕、やっぱりNo.2で提出します!」

今頃何を言っているんだ!

「自分はNo.7失礼します!」

「えっ!No.7は私が提出するって決まったんじゃないんですか!?」

今まで話してきた時間はなんだったんだ!

「あ、あの!No.7で提出していいんですよね!?」

みんなに聞いても答えは返ってこない。

「私、やっぱりNo.2にしようかなぁ」

うふふと柔らかい笑顔を落とす。

うふふじゃない!しっちゃかめっちゃかだ。

その言葉を最後に、先程の騒ぎは無かったかのように静かになる。

「…私!No.7に入れますから!!!」

皆はちらちらと周りを見ながらゆっくりと提出ボタンを押す。

中には腕で画面を隠す幽霊もいた。


教室のテレビに結果が映し出される。

No1決まり

No.3抽選

「え?」

思わず声が出てしまった。

No.2で提出するといっていた人がいたのに、提出者がいなくて番号が飛ばされている。

背筋が冷えた。

…誰も本当の番号を言っていなかった。

話し合いなんて、最初から成立していなかったんだ。


―気が付いてしまった。

誰も同じ番号を選ばないようにしているふりをしてる。

譲り合っているようにみえて自分の第一希望を寄せ付けないようにしてたんだ。


今頃気がつくなんてなんて馬鹿なんだろう。

でも、重複しても抽選があるのにどうしてそこまで必死なんだろう。

―ああ、この感じ、人間だった頃にもあったなぁ。

なんだか少しうんざりした。

幽霊になっても本質は変わらないのだな。


No.4抽選、No.5決まり。

事実を知ると同時にだんだんと自分の番号が心配になった。

だから芽依と元気くんは"できるかぎり“大きな金額“って言ったんだ!

教えてよ……!


このまま抽選になったら泣きっ面に蜂である。

心臓が激しく、大きく動く。

私のせいで今月は節約中心の貧乏飯になってしまうかもしれない。

私がもっとはやくこの話し合いの真意に気がついていれば…。

今はどの音よりも心臓の音がいちばん大きく聞こえる。

こういう時の結果待ちは本当に時が流れるのが遅い。

No.7 決まり

「っし!!!」

思わずガッツポーズを決める。

「まじ?」

「アホなキャラ作ってたんじゃないの?」

周りからぶつぶつなにか声が聞こえてくるがそんなことは関係ない。

今月は食費に困らずにちょっぴり豪華な食事ができるのだ。

芽依と元気くんの元へ早く帰らなくちゃ。早く報告したい!

2人の笑顔を想像しながらにまにまと頬杖をついた。


「では決まった方は帰っていただいて大丈夫です。抽選の方は残ってください。」

今回決まったのは4人。

2番目に大きな金額とか、平均より少なめな金額を選んだ人が決まっていた。

扉から出ると、すぐに声をかけられた。

「金額、ちょっと分けてくれませんか?」

目が点になった。

そんな事もできるの!?

「嫌です、これは私が持ち帰るんです!」

そう言いながら金額が書かれた小切手風の紙を胸に抱きしめ、足早に車校をあとにした。


「もう行かない!」

芽依と元気くんはそれはもう喜んでくれた。こんど高級なお肉を買ってくれるそうだ。

けれど、久しぶりに人間だった頃の心理戦のようなコミュニケーションを思い出した。

毛布を体に巻き付けイモムシになる。

「まぁそんな怒んなよ。やっぱつむぎにして正解だったろ」

毛布にくるまる私の頭をぽんぽんと叩きながら元気くんに話しかける。

「ホンマやな、正直者やからこういうの向いてないかと思っとったんやけど」

ソファを独占しているため、絨毯の上から顔を覗き込むようにニカッと笑う。

「絶対もう行かないから!あんなとこ!」

「許してくれ、俺はああいうの考えすぎて抽選ばっかになってまうし、芽依は座ってるだけで圧がすごいから話し合いに参加させてくれへんし」


元気くんがご機嫌取りのためにとっておきのアイスをくれた。

少し根に持っていることを2人に話してみた。


「…アホっぽいって言われた」

「正直で可愛いってことだよ」

「それ褒めてる?」

「だからまた来月頼むで!」

「いや!!!」


評価やブックマークいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ