杖
「嘘だろ!? 無い! 無い!」
この冴えない田舎町の大樹の下に、一族に伝わる伝説の杖を埋めていたはずなのに、掘り返しても見当たらなかった。
心臓がどくどく鳴る。頭がくらくらしてきた。落ち着け、考えないと。
思わず頭を抱えながらも、頭を回転させる。
掘る場所を間違えたか?
そんなわけがない。家の傍の大樹の下。そこに埋めたはずだ。
いや、だけど最近ちらっと人に話したことがあるような
そう思っていると、ちょうど頭に浮かんでいた人物がやってきた。
「カイト! 何やってるの?」
振り返ると、幼馴染のルチアがいた。笑顔を浮かべ、俺を親しげに見てくる。
「ルチアか。実はここに伝説の杖を埋めてたんだけど。無くなってるんだ……」
「へえ、伝説の杖ねえ」
ルチアはふんふん頷く。
「それってこれのこと?」
ポケットから杖を取り出し、見せびらかしてくる。
「お前、それは俺が埋めといた伝説の杖じゃねえか!」
「あはは! だってカイトが言ってたじゃん。気になって掘り返しちゃったよ」
そう言いながらルチアが杖を持っている。
「返せ!」
「なんで?」
「いや、それは」
どうやってルチアを説得しようか考える。
するとルチアの目が細くなる。
「へえ? 私に隠し事するんだ? この幼馴染に?」
「別にいいだろ。ほら、返してくれ」
手を出して、杖を返すように言う。
「なんか怪しいな。嘘をついてる時のカイトだ。ちょっと使ってみようかな」
「あ、やめろって!」
慌てて取り押さえようとするが、ルチアが杖を振った。
すると杖の先から金貨が出てくる。
「え? 金貨?」
「ほらほら、返せ返せ」
体が止まったところで杖を奪い返そうとする。だけどひらりと躱された。
「ダメだよカイト! ……何この杖最高じゃん! 振ったら金貨が出てくる!」
言いながらもルチアが杖を何度も振るたびに金貨がぼろぼろ零れ落ちる。
「ダメだってルチア! それ以上使うな! 大変なことになるぞ!」
「大変な事? なんにも起きてないけど。別にちょっとぐらい良くない? あ、カイトの家がお金持ちなのもこの杖のお陰?」
「それは……」
両親から聞いた話だと、この杖のお陰で一族は財を成したそうだから、この杖が無かったら今の俺の生活は無いのは確かだ。
「ずるー。ちょっと使わせてよ」
「ダメだって!」
「いいじゃん、ほらほら!」
得意げに杖を振るルチアを見て、俺は身体を震わせた。悪寒がする。
「あ、ああ……」
「何? 化け物でも見たような顔をして」
ルチアがきょとんとする。
だけど俺はしっかりと見えていた。
ルチアの全身から白い毛が生え始めていた。耳も大きくなりその位置が頭頂部の方にまで動いている。
目は大きくなり、鼻は黒い突起が生えてきている。
そして気が付いたときには二足歩行の兎人間が誕生していた。
「お前。兎になってるぞ……」
「兎? 何を言ってるの?」
「見ろ! 鏡を!」
俺はちょうど偶々持っていた手鏡を見せる。
するとルチアの顔が驚愕に歪む。兎の驚愕って恐ろしい顔だな。
「何これ!」
「……言っただろ。大変なことになるって。それが代償だよ」
これが伝説の杖の呪いだ。一族の始祖はこれで財を成したが、代わりにその生涯をテーマパークのマスコットとして過ごしたという。……なんて恐ろしい。
「ちょっと! カイト! 戻してよ!」
「おい待て! 放せって! 苦しい苦しい!」
首を絞められ本当に息ができない。
必死に引き剥がし、言う。
「戻る方法ならある」
「本当? 何でもするから、教えて! こんな姿じゃカフェで異色のインテリアと間違えられちゃうよ!」
「そんな間違え方しないだろ!」
ルチアのズレた考えに驚愕しつつも、戻す方法を教える。
「『金貨よすべて消えろ』と言いながら杖を振るんだ。そうすれば、今まで生み出した金貨はすべて消えて、身体も元に戻る。まあ、その後は使用者は二度と杖の力を使えなくなるんだが」
「絶対ヤダ!」
「はあ!? 戻りたいんだろ? ならそうしろよ!」
「ヤダヤダ! 金貨欲しいもん!」
「だけどその姿じゃ使えないだろ?」
俺がそう言うと、ルチアは少し考え、手をパチンと叩く。……嫌な予感がするな。
「じゃあこの生み出した金貨を銀行で別の金貨と交換してきてよ! 交換した金貨なら消えないじゃん。その後で金貨を消せば大金持ちのまま!」
「絶対嫌だ! お前それ、銀行が大騒ぎになって俺が警察に追い回されるわ! そんなことやるか!」
「ええー? 少しくらいなら金貨分けてあげるよ?」
「分けてあげるよじゃねえよ。ほら返せ!」
「ヤダね!」
「あ! 待て!」
ルチアが逃げるのを追いかける。
田舎町をひたすら追い掛け回す。
「きゃああ!」「兎の化け物だ! みんな逃げろ!!」「今夜は焼き兎だあああ!」
案の定、町中が大混乱だ。
ルチアと俺は町中を走り回った挙句、大樹の元に戻ってきた。
息が切れ、汗がでて身体が熱い。目の前でへとへとになったルチアを見て、言う。
「分かっただろ。その姿じゃお前はまともに生きていけない。金貨なんて忘れろ」
「……」
ルチアはそれでも悩んでいたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「はあい。やめるよ」
そしてルチアは杖を持ち『金貨よすべて消えろ』と唱え、金貨を消した。
ルチアの姿は直ぐに元通りになり、杖も俺に返却された。これでひと騒動が終わったのだった。
***
「ふう、これでよし」
俺の家の中。リビングのテーブルの上には大量の金貨がある。
なぜなのかと言えば、勿論杖を使ったからだ。
近くにある全身鏡を見ると、俺の姿は黒い兎になっていた。
モフモフした姿もこれはこれで面白いが。当然このままだと困る。
「この上で、この薬を飲めば……」
俺はフラスコに入った薬を飲む。
すると全身に強い痛みが走る。
思わず叫びながら数分経つと、痛みが治まった。
「はあ、はあ。しんどいなこれ」
息も絶え絶えで全身鏡を見ると、俺の姿は元に戻っていた。そして白髪がまた一本増えた。
「流石、一族の悲願の研究成果なだけあるな。薬で姿を戻せば、金貨を消す必要もないし何度でも使える。よしよし、これで豪遊できるぞ。ルチアも誘ってどっか行くか」
俺は目の前の金貨を見ながらニヤニヤしていた。
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