7.丸呑み注意
「苺のタルトが食べたいです」
そう。食べるものは私ではなくタルトです。
美味しいお茶も所望致しますわ。
「……ミモザは中々に難攻不落だ」
「まだお会いするのは2度目です。フィザリス様のことを知らな過ぎですもの。そうそう全てを明け渡すわけには参りませんわ」
「…私を知りたいと思ってくれているのか」
「未来の夫ですもの。当然ですわよ?」
フィザリス様はちょいちょいおかしなことを言いますよね。というか、私のようなよく分からないものを丸呑みしようとするあたりが駄犬……いえ、無知な子犬さんですわ。
「フィザリス様ももっと私を知って下さいな。
甘い砂糖菓子だと思っていたら、本当は胡椒がたっぷりのスパイシーな味だった。なんてことがあるかもしれませんよ?」
だって私はあまり甘い夢を見ませんもの。
フィザリス様のように一目惚れで突き進むほど、甘々な甘ちゃんでは無いのです。
「そうだね。君はスパイスが効いているチャイみたいだ。甘いだけでなく刺激があってクセになる」
「チャイ……飲んだことがありません。フィザリス様はお好きなのですね」
「うん、今日好きになった」
そう言うと、頭を私の膝の上に乗せ、甘えるようにスリスリと頬を太ももに擦り付け落ち着いてしまわれました。
……公爵様を床に座らせている現状は可笑しくないかしら。
というか、人の大腿部を堪能しないで欲しい。
次に会う時は、ペチコートの重ね履きが必要ですわね。防御力を上げねば。
「……どうしようか」
「何をですか」
「君を大切にしたいと思うけれど、大切過ぎてこのまま部屋から出したくない。この家で大切に大切にお世話して磨き上げて愛を注いでドロドロに甘やかしたい」
「あ、私は甘いものは好きですが1日1個までと決めておりますので、際限のない甘味攻めはお断り致しますね」
「……ミモザはどこまで私を翻弄するのだ」
だんだん会話が怪しくなってきましたわ。ここはやっぱりお外ライフのプレゼンをするべきかしら。
「ああ、ミモザ。その可愛らしい姿を誰にも見せたくない………このまま閉じ込めてしまおうか」
「フィザリス様。楽しそうな私と陰鬱な私、どちらがお好き?」
「どんなミモザでも愛している」
「あら駄目ねえ。何でもいいなんて女性が言われたくない台詞のトップ3に入りますわよ?
もう一度お聞きしますわね。楽しそうか陰鬱。どちらがお好き?」
「…………笑顔の貴方が一番好きだ」
「ふふっ。では、私が笑顔になれるように美味しいケーキを食べに行きましょう?」
「王都中のケーキを屋敷に運ばせよう」
「もう、違いますわ。貴方と二人でお出掛けをしたいと言ってますの。街を歩きながらたくさんお話をして、目に映る景色を楽しみながらのデートがしたいのです!」
「……でえと」
「私とのデートはお嫌ですか?」
「行こう。今すぐにでも行こう!」
よし。これで部屋から出られますね。
「すまない。ドレスにシワが付いてしまったな」
「あら」
ずっとフィザリス様がくっついていたせいで、確かに不自然なシワが寄ってしまいました。
「よかったら用意したドレスに着替えないか」
「まあ、見せて頂いても?」
そういえば誂えたと手紙に書かれてありました。気になってはいたので、一度見せていただきましょう。
「えっ、こんなにもたくさん!?」
ドレスルームには、私の家よりもたくさんのドレスや靴などが収納されていました。
「気に入ってもらえたかな」
「はい、というか申し訳ないほどです」
「君に似合うものを探したり作らせるのはとても楽しかったよ」
ごめんなさい。首輪や足枷だったらどうしようとか思っていましたのに。
「メイドを呼ぶから待っていてくれ」
「あ、お願いします」
待っている間に見させてもらいましょう。
それにしても凄いわ。溺愛というのはこういうことを言うのでしょうか。
でも、閉じ込めてしまいたいと言いながら、こんなにもたくさん服を用意するのだから矛盾していて面白いわ。
……全部サイズが合っているのよね?
引き出しの中には下着まで入っていて少し引きました。
すべてあの方が選んだ?探したり作らせるのが楽しかったと……いえいえ、まさか。
女性に必要なものを一式、と注文しただけよね?
「あらあらあら………」
ナイトドレスも充実しています。
透けていたり布の面積がおかしかったり……
一年後にこれを着るの?私が?
……見なかった。私は何も見なかったわ。
嫁ぐ時は必ず、生地が厚めの夜着を多めに持って来ることに致しましょう。