18.それでも幸せな日々
「待て」
うん、お利口さんだわ。ピシッとお座りをしてジッと私の目を見ています。
「よし!おいで~〜」
途端に駆けり、撫でて撫でてと頭を押し付けてくるのが可愛過ぎます。
「キャプシーヌは本当にお利口ね。どこかのフィザリス様とは大違いだわ」
「ミモザ……もうやらないから許してくれ」
「どう思う?キャプシーヌ。今の言葉は2週間前にも聞いたと思うのよ」
キャプシーヌは初夜にはっちゃけ過ぎたフィザリス様からの謝罪として飼うことが許されたバーニーズマウンテンドッグの女の子です。
とっても賢くて、待てやお座り、お手などちゃんと覚えています。ついでに『GO!』というコマンドでフィザリス様に突進することも覚えました。
キャプシーヌの中で主人は私。フィザリス様は玩具という認識らしく、GOの合図は玩具で遊んで良し、という感じなのです。
「抱き潰さないでとお願いしておりますのにどうして守って下さらないの?」
「……だって好きなんだ。私しか見れない君の姿が嬉しくて愛おしくて……本当なら毎日堪能したいのを我慢してる……」
あの、ほぼ毎日致してますよね?
もしや毎日抱き潰したいと言っているのでしょうか。
確かにあんなあられも無い姿は人様には見せられませんが、出来得るなら貴方にも見られたくはないのですけど。
「さて問題です。見たい貴方と見られたくない私。どちらの方が優遇されるべきだと思いますか?」
「見られたくないのか!?」
「私の羞恥心はまだ在宅中で家出などしておりませんの」
「……でもそうだな。恥じらいながらも乱れる君が「反省してませんね?キャプシーヌGO!」
「えっ!?ちょっ、待てキャプシーヌ!まだ君とは遊ばないよ!?舐めないでくれっ!!」
フィザリス様は束縛というよりもやや変態寄りなのだと結婚してから気付きました。
知りたくなかった事実です。
それでも、キャプシーヌを押し退けるでも無く、結局は遊んであげているフィザリス様の優しさとお人好しでチョロいところは可愛いと思うので、私も大概なのでしょう。
「フィザリス様、月に一度、二人で日にちを決めてからならいいですよ」
「月4回!」
「では月2回で。あとは……もしかしたら私が我慢できなくてお願いしてしまう日が来ちゃうかも?」
「……ミモザがおねだりするだと?よし!それでいい。というかそれがいいです!」
かも。であって、するとは言ってませんけどね。
「約束を破ったらそれから一週間はキャプシーヌのベッドで寝て下さいね」
「え!?」
「え?まさか破るわけないのですから驚くことはないでしょう?
ね、キャプシーヌ。お前の大好きなフィザリス様は残念ながら私のものなの。譲ってあげられなくてごめんね?」
「ミモザが嫉妬……」
「嫉妬はしません。事実を申したまでですわ」
「そうだな、事実だな!」
まあ、嬉しそうだこと。
結局はフィザリス様は私の腰に腕を巻き付け膝枕状態。キャプシーヌはそんなフィザリス様の足をクッション代わりにして寛いでいます。
「幸せですね」
「私もだ」
結婚して半年経ちましたが、フィザリス様の愛は廃れるどころか増すばかり。これは流石に信用してもいいのかもしれません。
「明日はリラ様のお茶会ですの。また迎えに来て下さる?」
「もちろんだ」
私達夫婦はすっかりとおしどり夫婦として社交界に知られております。ですが、二人でお茶会や夜会など多くの場所で姿を見られている為、監禁公爵の名は消えたようでホッとしております。
「では、私のドレスも選んで下さるかしら。
どこかの誰かさんの所有印が多過ぎて着られる服があるか心配ですの」
「……キスマークを見せびらかしたいような恥じらう君を誰にも見せたくないような……、うん、見せては駄目だ、恥じらう君は私だけのものだから」
一人脳内会議は声には出さないのが基本だと、誰か教えてあげてくれないかしら。
とりあえず見せびらかすのは止めたようなのでこれで良しとしましょう。
それにしても、もう少し体力をつけなくてはそのうち腹上死してしまいそうです。
「キャプシーヌ、お散歩の時間を増やしましょうね」
「私との時間は?」
「一緒にお散歩しましょう、旦那様」
「ああ、お供しよう」
「でも今日は無理よ?体がつらいの。フィザリス様のせいですからね」
「……私のせいか。良い響きだ。
ああ、喜んでしまう私を許してくれ」
なぜ喜ぶのかしら。理解できません。
「許したくないかも?」
「そんな!」
「ですから私の代わりにキャプシーヌのブラッシングとお散歩をお願いしますね」
「任せてくれ!最高に美しくなるようにブラッシングしてみせよう」
「フィザリス様は良い父親になりそうですね」
「子供が欲しいのか!?」
あら、凄い食いつきですね。これは時期尚早なようです。
「子供は欲しいですがまだ少し怖いですし……フィザリス様と二人だけの時間をもう少し楽しみたいです」
「ミモザ!」
しまった。興奮させてしまいました。
やはり、待てを完全にマスターさせないと子作りは危険です。
「フィザリス様、私を見て?」
「……なんて可愛いんだ」
「フィザリス様も素敵ですわ。私をいつも大切にしてくれてありがとうございます。こんなにもお優しい旦那様に嫁げて、私は本当に幸せです」
おでこにチュッ口付ける。それからそっと唇にも。
「ああ、ああ、もちろんだ!これからももっともっと大切にするから!」
「はい、信じておりますね」
「よし、まずはキャプシーヌの散歩とブラッシングだな。後で君のマッサージをしよう。少しは楽になると思うから」
「ありがとうございます、嬉しいです」
行ってくる!と嬉しそうに出て行く二人を見送ります。
「マッサージ……暴走しないかしら」
まだまだ躾が足りないから少し心配ですが仕方がありません。
「だってそれでも幸せだわ」
暴走するほどの愛に包まれて幸せなのだ。
確かに私達は相性が良くて、彼の一目惚れは間違いなかったのでしょう。
「あと半年で待てを覚えてもらって、そうしたら子供も欲しいですね」
出来れば娘がいいわ。そうしたら愛さず触れない約束で少しいじめるの。
ああ、本当に幸せ。
「フィザリス様、大好きです」
【end】
名前の由来
【ヒロイン】 ミモザ…ミモザ
【ヒーロー】 フィザリス…鬼灯
【 執事 】 ロテュス…蓮
【メイド長】 ダフネ…沈丁花
【 友人 1 】 リラ…ライラック
【 友人 2 】 グリスィーヌ…藤
【 友人 3 】 ヴィオレット…スミレ
【 愛犬 】 キャプシーヌ…金蓮花