17.本懐を遂げる
真っ白なドレスを身に纏う。
一年とは案外と早いのだなと求婚された日を懐かしんでしまいます。
人違いだと思ったのにそうではなく、話を聞くだけのはずが既に承諾済みと思い込まれ。
「あの時、一年をもぎ取った私はやはり間違っていませんでした」
この一年がなければフィザリス様を愛することは無理だったと思います。だって絶対に初夜から監禁まっしぐらだったと思うのですよ。
妻とはある意味夫の所有物です。味方がゼロのあの頃に閉じ込められたら、逃げ出すことはほぼ不可能。
マルグリット様だって跡継ぎを作る為だと言われたら、手出しは出来なかったかもしれません。
ただ、待てが長かったので今夜の私は生きていられるのか。それだけが心配ですね。
「病める時も健やかなる時も──」
そうなんです。心が病みやすい夫とは如何したものか。
こちらの武器は愛だけなので結構ハードかもしれないのが困りどころ。
末永く私にメロメロでいてほしいと懇願するのはどうかしら。
最初が肝心なのか、後の為に温存しておくべきかが悩みどころです。
誓いのキスは初めてではないのにグッと来ました。
これでもう逃げられないという実感なのかもしれません。
でも皆そうよね?政略結婚だろうが恋愛結婚だろうが、一生を共にするということは相応の覚悟が必要なのでしょう。
「やっと私のものになった」
フィザリス様が感極まったように呟くのがちょっと怖いです。
「幸せになりましょうね」
「すでに幸せだ」
「駄目ですよ。これからもっともっと楽しくて明るい未来が待っているのですから」
お部屋オンリーではなく、ちゃんと明るいお外にも出して下さいませね?
「フィザリス、ちょっと来て」
「嫌だ」
「ミモザとの更に幸せな生活の為の伝授よ」
「……嘘だったら許さんぞ」
リラ様がフィザリス様を連れ出しました。
これは私がお願いしたことです。
「これ。男性用の避妊薬よ。危険性はゼロだから安心して」
「必要ない」
「え?蜜月を逃すつもり?妊娠したら抱けないし、出産しても暫くは抱けないわよ?」
「何!?」
「だから1年くらいは避妊したら?ミモザだって慣れない公爵家なのに、すぐに妊娠したら負担だと思うわ。
妻の苦労を分かる夫であれば好感度が上がるわよ。私を上手く利用なさいな」
「何と……。君に感謝する日が来るとは思わなかった。これからもミモザと仲良くしてやってくれ」
「もちろんよ」
リラ様がニッコリと笑っています。
首尾は上々ということでしょう。感謝です。
さて。マルグリット様……ではなくてお義母様には3日経っても解放されなければ寝室に突撃して下さると約束を取り付けました。
打てる手は全部打った。と思います。
初夜に向け、丁寧に体を磨かれて、着用するのは持参した禁欲的な寝間着。ですが、『最後の最後まで煽るのですね』とダフネさんに言われたので、これは悪手だったのかもしれません。男女のアレコレは難しいです。
夫婦の寝室で一人待つ時間が居た堪れません。
ガチャリと回されるドアノブの音に軽く飛び上がったと思うわ。比喩では無く!
「ミモザ……、そうだな私が間違っていた。
あんなスケスケの品がないナイトドレスより、その清楚な寝間着の方が君に似合っているな」
あ、本当にあれもフィザリス様が用意したのですか。
ええ、あれは無いですよ。着る意味が無いような布切れでしたもの。
「だが、いつか着てくれると嬉しい」
「私の羞恥心が家出したら考えますわ」
たぶん、一生無いかと思いますが。
「ミモザ、触れてもいいか」
「…はい」
「緊張してる?」
「……フィザリス様も緊張して下さいませ」
「してるよ。だってようやくだ」
私の手を取り、ご自分の胸に触れさせたその場所は、ドクドクと強く鼓動を刻んでいました。
「……本当。同じですわね」
3回目だからと適当にされなくてよかった。
「私だけを見て下さいね。今までの方を思い出さないで。絶対に比べないで」
「……それは、」
「お慕いしております、フィザリス様。私を好きになってくれてありがとうございます」
愛される幸せを教えてくれた貴方を少しずつ好きになった。時々暴走するのが困りものですが、それ程求められるのはやはり嬉しいことですわ。
「ミモザ!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられると、コルセットなどの防御が無い為、フィザリス様の体温や腕の力強さが直に伝わってきて恥ずかしい。
「大好きだ、絶対に大切にするから」
「はい。信じておりますわ」
ちゅっと軽くキスをする。
「ミモザ、口を開けて」
「なぜです?」
「もっと本気のキスがしたい」
「…………嫌な予感がするのですが」
「私を信じて欲しい」
え、フィザリス様を?閨で信じていいものかどうか。
「……怖いことはしない?」
「暴発すると困るから可愛い言い方は控えてくれ」
まあ、そこからはアレでした。
本当にまあ、見事に食べられてしまいましたね。
「やっ、いや!駄目よ、ばっちいから」
「君に汚いところなど無いと言っただろう?」
「やだ、変態~~っ、フィザリス様がおかしいです!」
「大丈夫だ、これが普通だから」
本当に!?こんな、こんなはしたないこと、
「酷い!馬鹿馬鹿!!こんな破廉恥なことを何人もの女性と為さっただなんて酷いです!」
「いや、こんなことは君にしかしていない」
「じゃあ、普通じゃないじゃないっ!」
とまあ、ちょいちょい大騒ぎ致しました。
「……もうむり……しんじゃう……」
「駄目だ、君が死んだら私は生きていけない」
「じゃあもうやめてよぉ~~~」
最後は本気で泣いた。想像以上の執着だった。
初めてなのに酷いです。
ヨロヨロのボロボロの私をいそいそと浴室に連れて行って手ずから洗い、なぜか共に入浴という恥ずかしい真似をされ、出てきたらすでにシーツが綺麗に整えられていることに憤死しそうになりながら、お膝に抱えられたまま、あーん、と給餌されてからの。
「無理!絶対に無理だから!」
「大丈夫、最後まではしないから」
と、またペロペロペロリンと食べられまくり、なぜお義母様に3日と言ってしまったのかと後悔しました。