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束縛強めの溺愛公爵とのんびり令嬢の恋愛(調教)物語  作者: ましろ


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16/18

16.ファーストキス

ずっとずっと不思議に思っていること。


それは──


「キスって気持ち悪くないですか?」

「え!?」


ずっと思っていたのです。だって唾液が付いたら汚いですわよね?


「口と口を付けたら唾液が付いてしまうかもしれませんでしょう?

それなのに、何故そんな危険な行為をせねばならぬのかとずっと疑問ですの。

フィザリス様は経験がお有りでしょう?どうして口付けたいと思うのか教えて下さいますか」


あら。フィザリス様が固まってしまいました。


「もしもーし」

「っ!すまない、驚きのあまり……。

あの……もしや私がキスマークを付けた時、汚いと思っていたのか?」


どうだったかしら?汚いとは思いませんでしたが、そっとハンカチで拭いた覚えが……。


「いえ。不思議と汚いとは思いませんでした」

「……よかった、汚いと思われていたら死にたくなるところだったよ」


よかった。拭いたと言わなくて。

まさか命を奪う言葉だとは思いませんでした。

もう少しで未亡人……にはなりませんね。


「なら大丈夫だ。たぶん、キスをしても……その、気持ちがいいと思えるよ」

「まあ、キスとは気持ちがいいのですか?それはどんなふうにです?」


私が知る気持ちのいいことは、春の日差しや初夏の風。真冬のお布団も捨て難いです。あとは、にゃんこさんの腹毛や肉球も素敵ですわ。メイド達がしてくれるマッサージも最高ですよね。


「大切な人と一つになれる喜びというのかな。

側にいるだけでは足りなくて、抱きしめるよりもっと近くにいたい。いっそひとつになってすべてを取り込みたいとすら思う。

それは安心であり、幸福なんだ。

だってミモザが言うように、普通、人とは出来ない行為だろう?

愛しているから出来るし、愛があるから安心して癒やされる。

まあ、もともと口は感覚が敏感だから快楽を得やすいということもあるかな」


なるほど。舌は感覚器官です。だからフィザリス様は食欲が増すのかしら。でも食べられるのは痛そうで怖いから止めて欲しいわ。


「フィザリス様はキスがお好き?」

「……うん。愛情を伝える行為だと思っているよ」


そうなのね。愛情の伝達方法でもあるのね。


「教えて下さりありがとうございます」


ちなみにここは馬車の中。リラ夫人のお茶会の帰りの道中で、そろそろ屋敷に着くかな?という頃。

フィザリス様のお顔を見る。


──うん。大変お美しくていらっしゃいます。




ちゅっ




ん~~?ふにっとします。唾液は付きませんでしたが、気持ちがいいかはちょっと?


ちゅっちゅっちゅっ


ああ、ちょっと楽しいかもしれません。

ところでフィザリス様の息が止まっていないかしら?


「もしもーし、起きてますか?」

「…………………………え」


よかった。目を開けたまま寝てしまったのかと思いました。


「キスはちょっと楽しいですね。気持ち良さは分かりませんけど」

「………え!?今、何がおきたんだ!?」

「ごめんなさい、お試しでキスをしちゃいました」

「おためし……」

「はい。誓いのキスに嫌悪感があったら嫌だなと思いまして」


あ、紅が移っちゃいました。

ハンカチを取り出し、ソッと拭う。


「何故拭くんだ」

「紅が付いてしまいましたの」


ほら、とハンカチを見せれば、そこには薄らと紅が付いています。


「………では………夢じゃない?」

「やっぱり寝ぼけていたのですか?現実ですよ?」


目を開けたまま眠るだなんてフィザリス様はとっても器用ですわね。


「待て待て待て待て。ファーストキスじゃないのか!?」

「え、初めてですけど何か?」

「その、あこがれのシチュエーションとかは!?」

「ありませんけど」

「綺麗な夜景を見ながらとか、海辺でとか」

「そんな屋外でだなんてはしたないです」


誰に見られるか分からない場所で口付けるだなんて絶対に嫌ですが、フィザリス様はまさかそういうことに興奮するのでしょうか。


「……そういう方向性なのか」


どういう方向性でしたの?


「フィザリス様は屋外派ですか?」

「いや、ロマンティックなのがいいのかと」


以前馬車の中で迫られましたが、あれはロマンティックでしたっけ?


「それは気が付かず申し訳ありませんでした」

「いや!もう一度!」

「え?もう感覚は分かりましたから結構ですわ」

「違うんだ、あれはキスだけどキスじゃないというかキスには種類があって」

「誓いのキスは先程のでよろしいのですよね?」

「ああ、そうだけどキスというものは」

「大丈夫です。神のみ前で不快な顔さえしなければ問題ありませんわ」

「いや!慣れないあまり、また私が一時停止してしまったら神様も慌ててしまうかもしれない!」

「大丈夫です。儀式とはゆっくりと(おごそ)かに行うものですから、多少止まったとしても問題はありませんよ」

「お願いします!一回!あと一回だけ!」


ちゅっ


「はい、おしまい」

「どうしてそんなにサラッとしてしまうんだ!」


フィザリス様は本当にキスがお好きなのね。


「予行演習ですもの」

「予行演習なら一方的なキスではなく、お互いに向き合って瞳を見つめながらゆっくりと口付けるべきだ!」


なるほど?確かに一理ありますね。


「では、あと一回だけですよ?」

「ありがとうございます!」


えっと、瞳を見つめながらゆっくり……


え、すっごいギラついてて食べられそう。


「ストップ。そのお顔は駄目です。食べられちゃいそうで怖い」

「……台詞の破壊力」

「えっと(たぎ)っちゃいますか?」

「え!?」

「フィザリス様のフィザリス様が元気になる?でしたっけ」

「えっ!?!?」


あら?使い方を間違えたかしら。


「……………………誰に教わったんだ」

「滾るはフィザリス様が使った言葉です」

「ぐっ…、もう一つは?」

「ダフネさんです」

「あの人は本当にもう」

「叱ってはいやですよ?」

「…呆れているだけだ」


呆れちゃうような意味なのかな。


「意味がよく分からなくて、リラ様にはフィザリス様に直接聞くようにと言われましたの」

「……どいつもこいつも」

「教えて下さいます?」

「…………結婚したら分かります」


ん~~?何かしら。面と向かって言えないということは恥ずかしいことなのかしら?


「あ、もしかして勃「どうしてそういう言葉は知っているんだっ!!」

「嫁ぐのですから閨教育くらいは受けていますわよ?ですが、隠語は習っておりませんの」


男性の体のつくりとかは学習しました。もちろん女性もですけど。


「おかしい……。恥じらいとか初々しさはどこに行ったんだ」

「それは初夜に取ってあります」

「……本当に?」

「はい。だって恥ずかしいですしちょっと怖いです。でも、フィザリス様を信じておりますわ」

「……抱きしめても?」

「いいですよ」


フィザリス様に抱きしめられるのは嫌いじゃないです。

何となく安心するもの。


「気持ちがいいってこういうことですか?」

「ん?」

「フィザリス様に抱きしめられるとホッとするの」

「それは嬉しいな」


あ、馬車のスピードが落ちた。


フィザリス様と目が合う。


綺麗な青だわ。


その瞳に自然と吸い寄せられた。


ふにっと柔らかな唇の感触がやっぱり面白いです。


それに──


「幸せです」


自然と言葉が溢れ出ました。







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