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ダークレイダーの結成

「アタシには何しても良い…でも、ミーナと姉さんには手を出さないで」


ルナについでエリナも目を覚ました。

そして開口一番がこれだ。

自我を取り戻すのと状況認知能力が高い、が…


「いや何もしねーよ。これから俺達は一蓮托生だってのに」


「…何の話よ。言っとくけど、幾ら(なぶ)られてもアタシは絶対に屈しないから。飽きる事は無いんじゃないかしら」


「いや何の話はこっちのセリフだよ。…ま良い。先ずは食え」


「…お姉ちゃんはどこ」


「風呂」


俺達が大騒ぎしたせいか知らないが、ミーナも目を覚ました。


「…ん…神様…ミーナをお姉ちゃんたちの妹に…」

「人間…こんないたいけな子に手をだそうだなんて、心は痛まないわけ?」


「だからちげーって!」


状況認知能力は高いが、思い込みが激しい所があるな。

この欠点は少々見過ごせない、最悪命に係わる。


「…お前は少し教育が必要かもしれないな…」


「な…何よ…あんたに従順になるくらいなら壊れた方がマシよ!」


そんな言い合いをしている最中、最悪のタイミングでルナが帰ってきた。


「あら…?起きたのね!エリナ!」


バスタオル一枚で。


「な…お前ぇ!お姉ちゃんに何させるつもり!?」

「…エリナお姉ちゃん?ミーナ、またお姉ちゃんの妹になれた…?」


だがいい機会だ。

そんなに知りたければ教えよう。


「何させるつもりかって?知りたければ教えてやろう」


物置から急いでホワイトボードを取り出し、ペンを走らせる。


「俺達四人で、ギルドに所属しないレイダー。ダークレイダーを結成する!」


「ダーク…」

「レイダー?」

「れいだーってなにー?」


後から目を覚ました二人に、ルナにしたのと同じ説明をした後。


「うま…」

「これおいしー!」


俺渾身の手料理、カップ麺を振舞ってやった。

そのまま風呂に行ったが…


「ルナ。ちょっと良いか?」


「え?やはり…」


「サイズを教えてくれ。お前の服を買って来る。あの二人には、お前が買ってやれ」


「あ…はい!」


生まれて初めて使うパネルのメモ機能にしっかり書き留めると、俺はそのまま家を出た。


月人だからと身構えてはいたけれど、何だ。

皆いい子じゃないか。

一体人間と何が違…


「…そっか。そうだよな」


何も違わない。

ただ、生まれた場所と見た目が少し違うだけだ。

月人だろうと獣人だろうと人間だろうと、同じ人だ。

何も違わない。


「首輪もとっとと外してしまおう。あんなもの不要だ」


「ちょいちょい。そこのお兄さん」


「ん?」


声をかけられたが、その方向を見て見ても路地しか無い。

いや、その路地の闇から手招きする小さな手が見えた。

子供か、或いは小さな種族か。


「何故俺に用がある」


「見ましたよ。月人のお嬢様がたを攫ってしまわれたところを。ギルドをクビになった上に独り身の貴方がですよ?」


「何が言いたい」


「そのたくらみ、是非とも協力させてください」


「………望みは」


「一枚噛ませて欲しいのです。奇抜な行動とは裏腹にフラットな視野をお持ちになられるそんな貴方は、何かを成し遂げるお人に見える。長年の勘がそう言っております」


無視しても良かったが、正直今は猫の手を拒めるほどの余裕も無い。

仕方なく俺は、その誘いに乗る事にした。


路地裏を進み続け、やがて小さな雑貨屋の様な物に辿り着く。

本当に小さい。かがまなければ入れない程だった。


「いらっしゃいませストラ様。ようこそグリブの便利屋へ。雑貨は勿論、仕事の斡旋にコネクションの紹介、情報販売までなーんでもござれ」


団子ヘアな茶色い髪。

緑色の瞳。

凄く長い耳。

一見すれば少女に見えるが。


「ノームか」


「おほ。ご名答。昔は森の妖精とか恵みの精霊とか色々言われておりましたがねぇ。人は大地を捨て工場で作物を育てるようになってしまった。わたしらみたいなのはもう文明のお払い箱なので、自力で生きる道を探すしか無いのです」


俺は近くにあったカウンター席に着く。


「それでぇ、サイズは?」


「ん?」


「お嬢さんの御召し物が欲しいのでしょう?」


「なんで分かった」


「独り身の貴方が女物のお洋服を持ってる訳がありませんので」


「全部お見通しって訳か…だがそう簡単に情報を共有するわけ…」


店主は俺の前に三着の服を並べた。

全て真っ白なワンピースだったが、ぱっと見で分かる。

全部あの子達にぴったりだ。

然もこの縫製、きっと妖精の仕事だろう。


「んふ。どうです?私目測が得意なんですよ。遠くの物の大きさを正確に測るのは、森で暮らす小人種にとって必須の能でしたからね」


「…お代は」


「結構です。今後ともうちをごひいきにして欲しいのです。これはちょっとした求愛行動と思ってください。んふふ」


「分かった」


俺は三着全てを持ち物パネルに放り込み、店主に向き直る。


「俺達は、ダークレイダーになろうと思ってるんだ」


「ほうほうやはりですか。では、明日また此処に来て下され。表向きには依頼できない案件を集めておきますわ。それではまた」


店主がそう言った瞬間、俺の居る場所はただの廃墟に変わっていた。

やはり、小人の奇術にはいつも驚かされる。


とにもかくにもこれは嬉しい誤算だ。


最後の金貨を消費する事無く、一先ず最低限の服を手に入れる事ができた。

普通は下着を買ってやるのに使うべきなのだが…


「………」


…やむをえない投資だ。

俺はそのまま、ギルド時代から世話になってる武器屋に向かった。


「おうらっしゃい。聞いたぜ。クビになったんだってな」


「まあな。まあ、いつかこんな日は来ると思ってた」


鍛冶師の名前はおやっさん。

本名は誰も知らないので、皆からそう呼ばれている。


「んで今日はどうした。まさか…弟子入」


「武器が欲しい。そうだな、戦斧と大盾、双剣、それから杖だ。金貨一枚で足りるか?」


「おうおうどした急に。今度は雑用でもやってんのか?」


「まあ、今はな。準備期間って奴だ」


「へっへっへ。そうかい。ちょっと待ってな」


そう言っておやっさんは、その場で鍛え始めた。

手早く、しかし精確。

相変わらず物凄い効率だ。

普通なら三日は要する俺の注文も、


「っし。こんな感じでどうだ?軽くダンジョン1000周は耐えれると思うぜ」


僅か2時間だ。


「ありがとう。おやっさん。ほんと、いつ見ても凄いな」


「なあに。こき使われまくったせいで場数が重なっただけよ。それに」


ぽんぽんと、ごつごつとした手が俺の肩を叩く。


「目の前でお得意様が困ってりゃ、ついつい精が出ちまうもんってんだ」


「ありがとう。本当に、恩に切るよ」


よく見ればこの武具、どれも金貨3枚ほどの価値はありそうだ。

本当に、彼には頭が上がらない。

転売なんてもってのほかだ。


随分軽い足取りで、俺はまっすぐ家に帰った。


「ただいま。早速だけど明日に初仕事が決まった」


バスタオル姿の皆の元にパネルからワンピースを出し、俺はテーブルに着いた。


「初仕事…ですが私達、戦いなんてやった事もありません」

「ふぅん。奉仕奴隷じゃなくて奴隷騎士にしようってわけね。モンスターに襲われて酷い目に逢うアタシ達を見て楽しむつもりだ」

「ミーナも、おしごとするの?おとなみたい!」


テーブルにホワイトボードを置き、ペンで図を交えて説明を始める。


「ルナは前衛を張れ。エリナが主に敵と戦って、ミーナが適時魔法を…」


「待って」


富めたのはエリナだった。


「あんた、なんでミーナが魔法使いだって知ってるの?」


「そう言う、スキルなんだ」


「そう言うスキル…?つまりジョブは指揮者(コンダクター)…待って。なんでそんなあんたが無職なの。アタシらの故郷では即刻王家のお抱えになっててもおかしくないスキルよ。それがどうして…」


「人の技術が、神の定めたスキルを追い越した。それだけだ」


「何よそれ…そんなの………勝てるわけないじゃない………」


「…続けるぞ」


最初は俺が戦線に出て、三人のレベル上げに徹する。無能者でも戦闘経験くらいはあるからね。

で、三人のスキルが順次開花し次第、俺は後方へ、そしていずれは戦線を離脱し後方指揮に徹する事になる。


「異論は?」


「私は…無いわ。それに…」

「あんたが何言おうと、アタシ達はあんたを信じるしか無いの。分かる?」

「ミーナ、お兄さん好きよ?」


「分かった。今日はゆっくり休んでくれ。明日、最初のレイドをする。リリース」


そう唱えると、三人の首輪は破壊された


「…!」

「…」

「わぁ!」


俺が居ても休まらないだろう。


席を立ち、物置になってる隣の部屋に移動した。

だいぶ狭いが、今夜は此処で寝る事にしよう。


適当な布を被り、床に身を倒し目を閉じる。


………


「ルナか」


白ワンピース一枚のルナが、俺を見下ろしている。


「ストラ…いえ、ストラ様」


「様?」


ルナはそのまま、俺の横に添い寝してきた。

更に狭い。


「…どういうつもりだ?」


「私に、愛着を持ってもらおうと思って」


「何故」


「貴方はきっと、私達を道具だと思ってる。お金を稼ぐための、道具。でも…」


ルナが密着してきた。

暖かく、そして、


「鼓動です。分かりますか?私達も生きているんです。血の通った、人なんです…」


「…分かってる…分かってる…つもりなんだ…」


「…どうしてダークレイダーなんですか?私達の身体があれば、もっと安全に稼げるのに」


「レイダーとして認められれば、いずれこのプラントを飛び出し、外星への渡航も許される。俺は、作り物の箱庭じゃなくて、本物の星に行きたい。それだけだ」


「………」


分かっている。

人間の俺がこれを言うのは、あまりに自己中心的だ。

人類は自らの意志で、母星を出たと言うのに。


「俺は…自分も…誰も人間だと思えない…この箱庭で生まれて…育ったモノは…果たして…」


「私達の流す血を見れば、私達も人だって分かります?」


「…そう言うつもりじゃ…」


「なら、仕方ないので行くしかありませんね。本物の星」


「…え?」


「私達はただ、貴方に大切にされたいだけなんです。もし本物の星に行く事で人だって再確認できるなら、行くしかないでしょう?」

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