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廃棄鉄騎

「ねえウェリス」


「何ですの?エリナさん」


「ストラがあの獣人の子を連れて来るのに幾ら賭けれる?」


「んー…金貨20枚は硬いですねー」


「同感ね」


玄関のドアが開くと、予想通りの光景が飛び込んできた。


「ただいま。みんな」

「帰ったぞー!」


ストラと、黒いビキニアーマーみたいなのを着たエルズペス。

そして


「………」


小麦色の髪に獣耳。

伏せられたエメラルドグリーンの瞳。

ふわふわの細長い尻尾。


「は…始めま…して…」


「テレビ中継、見てたわよ。随分ひどい目に逢ったみたいじゃない」


冥王騎士団である事を示す重厚な鎧は着てなかったが、数枚の金貨で膨らんだポケットが見えた。

軍需品を買い取るアホなんてグリブ以外居ないわね。


「済まない。立て続けで悪いが彼女を…」


「もう部屋は用意してあるわ。ほんと、呆れるほど予想通りね」


呆れるほどのお人よし。

それともただ単に舎弟範囲が広すぎるだけ?

なんにせよ、ストラを中心としたハーレムが確実に拡大し続けてる。


「…ま良いわ。ご飯作って来る。ちゃんと食堂が使えるか確かめないと」


半分逃げるように、アタシは三人から離れる。


キッチンを掃除したのも、料理ができるかを確かめたいのも本当だけど、ただ、少し考える時間が欲しかった。

本当にアタシは、ドーナツホールは、このままの方向で良いのかしら。


コンロを点火し、フライパンに油とにんにくを敷き、茎を切り落としたムーンマッシュの傘を何枚か敷く。

ムーンマッシュは大きな白いきのこで、アタシ達月人の主食。

勿論他の種族が食べてダメと言う訳ではないんだけど…

ただ単に、これ以外の料理を知らなかっただけだ。


香ばしい匂いがしてきたらかさをひっくり返し、大豆を発酵させて作った調味液を差す。


思えば、ドーナツホールになってから今まで、カップ麺やレトルト、冷食しか食べてなかった。

記念すべき初のまともな食事がこんなので良いのかしら。

一抹の不安がよぎる。


「あら。美味しそうなキノコですこと。ではわたくしも何か作りますわ」


ウェリスがそう言って、アタシの背後を通り過ぎて行った。

そのまま水道で野菜を洗い始める。


「このままでは野菜しかなくなってしまう。妾も手伝わねばな」


エルズペスは肉を切り始めた。


「あら。エリナが料理なんて珍しいわね。私も手伝いましょう」

「ミーナも手伝うー」


姉さんとミーナは、アタシが切り落として積んでおいたムーンマッシュを手で裂いてボウルに入れていく。


「お…俺も何か…」


「残念。キッチンは満員よ。あんたは皿でも並べときなさいリーダー」


不思議な気分ね。

種族も、生い立ちも、欠けてるモノも、ぜんぜん違うアタシ達が、同じ場所で集まってみんなで料理してるなんて。

目を閉じれば、いやその姿を確かに見ても、アタシ達が別種だなんて思えない。

いや、それでいいんだ。


「その通りじゃ。姿かたち、文化、肌の色など関係ない。皆同じ人類なのじゃから」


「勝手に心読まないで。エルズペス」


「すまんのぅ。妾の事を思う思念は特に強く伝わってしまうのじゃ。人ごみの中でも自分の名前ははっきり聞き取れるあれみたいなもんでのぉ」


両面が焼き上がった所で、リーダーがいつのまにか用意した皿の上にマッシュを乗せる。

エルズペスは焼いた肉。

ウェリスはサラダ、裂いたムーンマッシュが上に散らされてる。


「分かった。じゃ心読んでも良いけど言語化しないで。あとできればアタシの考えてることは気にしないで。プライバシーって奴よ分かる?」


「ふぅむ。魔人領にはあまり無かった文化じゃ…努力しよう」


各々料理を持って食卓に並べる。

獣人の子とリーダーが先に席についてた。


各々自分の分を取って席に着く。


「はぁ…それじゃ、拠点のキッチン初稼働記念兼新人加入パーティー、始めましょ」


何かが欠けたストラに集まった、何かが欠けた人達。

それがドーナツホール。

きっとみんな、ストラの色んな部分がそれぞれ好きになったんだ。

出会った時期が違うだけで、みんなストラを思うのは一緒。


独り占めなんて、虫が良すぎるわよね。


§


「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前はアリアンローズ。しがない獣人です」


漸く気を取り直したのか、ローズが自己紹介をしてくれた。


「よろしく。ローズ。あと、此処では人種は不問よ。みんな人なんだから」


「みんな…人…う…うぅ…」


…そうだった。

あの式典はみんなで見てたけど、流石にちょっとあれは酷かった。

しかもプラントじゃ天涯孤独でしょうに、あれじゃ野垂れ死ねって言ってるような物じゃないの。


「ともかく、これからよろしくね。ローズ」


「はい。よろしくお願いします」


凄くかっちりした子みたいね。

それこそ、女騎士とかそう言う属性かしら。

本当にいい子そうなのに、どうしてあんな…


「ふむ。妾が思うに、あやつは最初からあれ目的だったと思うぞ」


あ、馬鹿エルズ

「何でもよいので亜人を拾い、忠誠心を高め、相応の地位に上がらせた末にそれを人類同盟の為に切り捨てる。手間こそかかるが、さぞ良いパフォーマンスになるじゃろう」


「………っ」


「お陰で、冥王星とプラントは仲睦まじそうじゃ」


エルズペスは、ものすごい勢いでモラルの無い事を言いまくる。

これもう止まらない…


「…私を拾って、育ててくれたプルートスには感謝してる。プルートスの未来のためだったら、何でもできた…だけど!」


ガンッ

思い切り、机をたたく音がした。


「せめて…教えて欲しかった…それならもっと上手く悪役をできたし…心の整理だってついた!お別れも言えた!なのに!…なのに…」


「あやつからは害意を感じた。今すぐにでもお主を引き離したいと言う、作為がな」


「…へぁ?」


「悪意は総じて力強いが、あ奴のは格別じゃったのぉ。心の底から亜人の事が嫌で嫌で仕方なかったのじゃろうな。故にあ奴は、お主を最も深く傷つける方法をとったのじゃ」


心の底から、本気で頭に手を当てた。

これも文化の違いだって言うの?


「そんな…わ…私は信じないぞ!私は…私は…!」


「心当たりはないのか?例えば、不自然なタイミングでの昇進とか…」


「嫌だ!いやだいやだいやだ!プルートスは私の全てなんだ!それが抜け落ちてしまえば…私は…………嫌だ……壊れたくない………」


「…まあ、信ずるかどうかはお主の……」


「…嫌だ…私の人生が…嘘になってしまうなんて…」


ローズは頭を抱え、顔を伏せる。

空気は最悪ね。


「アリアンローズよ。悔しくは無いのか?」


「……悔しい……?…この無能に…そんな事を思う資格など……」


「全てを否定され、怒りのはけ口として捨てられたのじゃぞ?何も思わんのか?」


「思わないわけないだろう!憎いさ!冥王星を宙図から消し飛ばしてやりたいくらいに!」


「宜しい。ローズや、その復讐心を大切にせい。復讐は何も生まぬと良く言うが、とどのつまりやり方次第じゃ」


「やり方…?」


エルズペスが全ての腕を組んで、得意げに背伸びする。


「思うに、妾達は人類同盟の落とした影そのものじゃ。せっかくじゃ、妾達で人類同盟の逆をやってみんか?」


「人類同盟の…逆…?」


「妾達には、あやつらが守らねばならぬ世間体とか、そう言う物が無い。そもそも大衆の何かを聞き入れなければならぬと言う事も無い」


エルズペスが、四本の腕全てを広げた。


「目指さんか?人類同盟が捨てて行った者達全ての為の安住の地を!」


何言ってんの?

その言葉がでかかった時、ふと冷静な思考が走った。

忘れそうになるけど、このアジトもずっと安全って訳じゃない。

かといって大所帯で放浪するのも無理がある。


「それは…」


「アリね」


「!?」


リーダーがびっくりしてる。

アタシがまっさきに反対するとでも思ってたんだと思う。


「考えてもみてみなさい。ここに居るのは国家…ていうかこの世界の反対の存在。完璧な円を描くために排斥されたはずれ者たち。普通に生きてたって平和なんて来ないわ。だから」


親指を、あさっての方向に向ける。


「プラントなんか出て、適当な岩石惑星にアタシ達の拠点を作る。そうね…地球くらいの広さもあればきっと充分ね」


§


<火星>


打楽器の奏でる乾いた音に合わせ、硬い荒野で二人の獣人少女が舞い踊る。

片方は振袖と異様に短い振りの和服の様で、もう片方はひらひら舞うアラビアンな衣装。

周囲には火星に根城を構える盗賊達。

皆笑顔を浮かべながら、二人の飼い主に鉄貨や銅貨を投げる。


皆二人に対し、害を加えようなどとは少しも思っていなかった。

だがそれが、人が芸をする犬や猿に抱く感情そのものであり、彼女たちが人として尊重されている訳では無かった。


戯曲が佳境に差し掛かり、観衆のボルテージが上がっていく。

然し外野とは裏腹に、舞い踊る少女たちは笑顔を崩さないまま、今にも泣きたい気分になっていた。

散々扇情したのだ、この後に待つ事など決まっている。


「…ん?」


観客の一人が、地平線の彼方より迫る茶色い壁を目撃した。


「気を付けろ!ストームだー!」


人類はテラフォーミングによりあらゆる惑星を寝床と変えたが、それでも自然の驚異を完全に制御しきれたわけではない。

惑星固有の災害などを含め、自然は依然として人類に牙を剥き続けていた。


観客達は一斉に転移し身を護る。

火星を行く者であれば、転移用の道具を持ち歩くのは常識だった。


「おい!スナネコ!早く掘れ!」


「あ…はい…!」


スナネコと呼ばれたアラビアンスタイルの少女が急いで素手で穴を掘ると、ものの数秒で3m程の穴ができた。

スナネコ少女はもう片方の少女の手を引き、急いで穴の中にすっこむ。


「よし…それでいい…」


飼い主も穴に入ろうとしたところで。


「…!」


スナネコは入り口を閉じてしまった。


「な!?おい!早く入れろ!悪ふざげはよせ!」


飼い主は必死に土をかくが、爪が剥がれる以上の事は起きない。


「おい!おい!飼い主に逆らうつもりか!おい!」


応答は無い。


「頼む!おい!畜生がああああああああ!」


高温と、弾丸のような砂利を伴ったストームが迫る。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


そのまま、ストームは周囲を呑み込んだ。

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