クビ、そしてメンバー購入
「クビだ。ストラ」
クエストを受けようとギルドに通勤したところ、出待ちしていたギルドマスターにいきなり解雇通告を下されてしまった。
「理由をお聞きしても」
「単刀直入に言おう。お前は役に立たない。お前のスキル『ステータスパネル』は、様々な対象物のデータを可視化するって代物だが、はっきり言って時代遅れだ」
そう言ってギルドマスターは、右腕についてる機械デバイスを俺に見せつけた。
「今や文化人であれば持っていて当たり前のこの【ステラデバイス】の一機能にほぼ同じものがあるのだよ」
「一応、強化とかもできますが…あと適正ジョブとかも…」
「お前は知らないかもしれないが、ステラデバイスには合成機能も搭載されている。唯一の取り柄と思っていた強化も、使うリソースに対しリターンが雀の涙すぎて話にならん。同じ量の資産でより強い武装を作った方が遥かに効率がいい。お前をパーティに編成するメリットが何も無いんだよ」
「…成程」
確かにギルドマスターの言い分ももっともだ。
だが、
「ステラデバイスの事は知っていますが、それでは人間やモンスターに対しての情報開示は…」
「ステータスを見られて気持ちが悪いという苦情が、特に女性レイダーから多数届いてる。モンスターに関してはライブラリを参照すればいいだけの事。モンスターライブラリが充実した今お前はもう必要無い!しつこいぞ!」
そう言って、マスターは俺に麻袋を投げつけてきた。
「金貨10枚ある。それ持ってとっとと消えろ。たく、なんで仮想通過のこの時代にこんな物用意せないけないのか…」
手切れ金まで渡されてしまったら、もう何も言えない。
「…分かりました。10年間、お世話になりました」
金貨を、手元に出現させた所持品パネルに放り込むと、俺はギルドを立ち去った。
さてこれからどうしようか。
確かに金貨10枚は大金だが、これで生活を立て直すと考えると途端に心もとなく感じる。
インフレーション許すまじ。
仕方ないので貧民街にでも流れてやろうか。
そう思い立った俺は、家のある方向へと向かった。
貧民街。
ステラシンギュラリティと呼ばれた時代の変革に取り残された者達と、その子孫達による吹き溜まりの街。
上空を鋼鉄の飛行船が飛んでいるのに、此処で行われているのは旧時代の延長だ。
脇を、奴隷商の馬車が通り過ぎていく。
一瞬視界の端に移った、白い肌。
「…月人か。初めて見るな」
天外に旅立った人類により故郷を征服された、白い肌、白い髪、白い瞳の亜人種。
エルフの近縁種らしいが、耳は尖っていない。
初めて見る物への半ば好奇心から、気付けば俺は無意識のうちにステータスパネルを開いていた。
数は三人。そこはかとなく似ていなくもないが、姉妹だろうか。
状態異常は≪薬剤昏睡≫。
パラメーターは…
…は?
おい、これ…
俺は走った。
馬車を引く奴隷商人の元へ。
「おいお前」
「うわ!何だい旦那!?」
「今運んでいる物はどこへ」
「えぇっと…売れ残ったから処分しに行こうかと…」
しめた。
俺は奴隷商に手のひらを見せ、金貨9枚をその上に積み上げるように出現させた。
「全員まとめて、これで買えるか?」
「…は!?…おお!勿論でございますとも!馬車ごと持ってきますか!?」
「大丈夫だ。悪いね、呼び止めて」
「いえいえ滅相もございません!この街に、あんたみたいな気前のいい旦那がまた居たなんて、まだまだ貧民街も捨てたもんじゃありませんな!これでやっと…娘に良いもん食わせられる…!」
奴隷商は箱だけ置いて行くと、馬をかって去っていった。
俺は当分目覚めない三人全員をかつぐと、足早に家に帰った。
一回が雀の涙だとしても、毎日積み重ねていればそれなりにはなる。
「さてと…衝動買いしたは良いものの…」
安アパートの一室で突然三人も増やせば流石に手狭だ。
一先ずは普段使ってるベッドに三人並べて、状態を詳しく調べる事にした。
先ずは一番大きな子からだ。
腰まで伸びた長く奇麗な白い髪。
かなり痩せているが、それでもまだ肉付きを保っている。かなり発育が良い。
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ルナ・エルクレス(Lv1/25)
300HP
筋力:50
靭性:50
魔力:0
速度:10
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見立て通りの高耐久高火力だ。
前衛として最適だろう。
さて次は中くらいの子。
見た目は16歳くらいか。
髪はうなじ程まで伸びていて、小さなゴムでその一部を留めてある。
何か高価なものでも付いてたのだろう、むしりとられた形跡がある。
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エリナ・エルクレス(Lv1/25)
60HP
筋力40
靭性10
魔力0
速度100
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やはり随分と身軽な子らしい。
特に言う事はないな。次。
一番小さな子。
まだ子供だ。俺の太ももくらいしか背丈が無い。
髪も短く、眠っていてもその顔立ちのあどけなさが分かる。
本命はこの子だ。
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ミーナ・エルクレス(Lv1/25)
10HP
筋力0
靭性0
魔力1200
速度0
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凄まじい魔力。
元居たギルドでも、500もあれば一流だった。
恐らく、この子はいずれ国家戦力級に達するだろう。
隷属の首輪は一応そのままにしておこう。
かわいそうだけれど、彼女たちが安全と分かるまでの間だ。
然し…だいぶ埃臭いな。まずは風呂と、それから食べ物からだ。