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「では、時間になりましたので、第3クオーターを振り返って、定例の四半期報告会を始めます。まずオンコロジー部門からお願いします。」
広報の部長が司会をしている。これから各部門の報告か、退屈だなぁ、どうせ派遣なんだし、給料もらえれば会社の動向なんてどうでもいい。オンコロジーってガンとかの病気の部門だったな。
「昨日、データを受け取りましたが、第3クオーター終了の時点でガンの完治率が1%上昇しました。これはガン全体の統計ですので、各患部によっては5%上昇しているものもあります。私たちはこの結果を受けて、昨年発売した新薬ルナンオーガの効果であることを広報と連携して積極的にプロモートする計画でおります。私たちの毎日の努力の成果が・・・」
これが製薬会社の醍醐味ってやつなんだろうなぁ。病気を治して患者さんに感謝されて。私は漠然とよそ者らしく傍観していた。オンコロジーの部長はあんなに給料貰っているのに、この成果でインセンティブとか更に貰えるんだろうな。私は人の懐を計算して一人羨ましがる。
次は感染症の部長だ。若そうに見えるけど50くらいなのかな、四十代後半だろうか。定年まであの給料をもらい続けたら、一体いくら貯金できるんだろう。
「今季はインフルエンザ感染が予想値をかなり下回ってしまったために、タフレンザの売り上げがフォーキャストに全く届かないという事態になってしまいました。本当に遺憾です。大変申し訳なく・・・」
私は違和感を感じ、混乱した。なんか変な気分だ。インフルエンザが流行らなくて良かったではなくて、この人謝っている。人が病気にならないと、この会社は儲からないのだ。私は不可思議な仕組みに改めて気付いて戸惑った。
こんなこと考えてみたことがなかった。人が困ったときに助ける仕事は、人が困らないと商売上がったりってことだ。製薬会社には病気が必要不可欠なのだ。世界中の人が病気になればなるほど売り上げが上がって、給料が増える。本当にそれで喜べるのだろうか。