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残念だが、俺は偽物だ。それでいい。俺はゼロから何かを生み出せない。模倣を繰り返しながらほんの少しの違いを楽しむ。俺ならこうする。俺達はこうやって表現する。元からある枠の中で遊ぶんだ。時にはほんの少し足を踏み出したりしながら。
所詮偽物だと分かっている。新しい音楽を望まないなら、音楽なんてしなければいい。傍観者でいる方が楽でいい。
そんな思いもあるが、新しい音楽を生み出すなんて俺には出来ない。
そもそも俺は、元から何も生み出すことが出来ない。赤ん坊だって、男の俺には生み出せない。新しい言葉も思考も出てこない。自分の意見は言える。そんなのは絶対に誰かと重なっている。毎朝出している排泄物だって、俺が生み出しているわけではない。身体に取り入れた物の中から無駄になった部分を出しているだけ。しかもその無駄だと思っているのは俺の身体だけであって、この星にとっては立派に役立つんだから不思議だよ。
俺は毎日夢を見る。その夢をしっかりと覚えてもいる。曲を作ったり、ロックナインを楽しんだりもしている。新しい何かを生み出している気分にはなる。けれどそれは、やっぱり夢だ。新しい物のように感じるだけで、どこかに溢れている物の焼き直し。起きている時の俺が見たり聞いたりしている事がほんの少し姿を変えたり混じりあったりしながら具現化しているに過ぎない。夢も所詮は現実の一部なんだって思うと、儚いよな。
俺は一度宇宙人に拐われた事がある。それこそ夢のような現実だった。ん? 待てよ、あれは現実のような夢だったのか? どっちでも構わない。初めは俺ってやっぱり特別なんじゃないかって感動をしたが、所詮はありきたりだってすぐに思い知らされたからな。
因みにだが、幽霊にだって犯されたことがある。っていう事は、分かるだろ? この時は宇宙人に犯されたって事だよ。
現実とも夢とも判別は難しい。感触のある夢は普通にある。夢でも痛みは感じる。何度頬っぺたをつねった事か、その度に痛みに涙を浮かべていた。
俺が見た夢は、それが例え現実だったとしても、やっぱりありきたり。
俺が経験した事は、テレビや雑誌の世界に溢れている。よくよく考えると、そんな類が好きだったりする。特に意識はしていなくても、そんな特集を知ると必ずチャンネルを合わせる。雑誌も手にして、時に購入する。夢に見たとしても、不思議はない。音楽だって同様だ。毎日数十曲を聞いている。意識と無意識とをごちゃ混ぜにね。夢で作曲をしていたとしても不思議じゃない。パクリじゃなくても、そもそも音階の数は決まっている。組み合わせも無数じゃない。似たり寄ったりでも、その場では新鮮に感じる曲は沢山ある。
俺の作る曲は、不完全だ。
メンバーが揃っていないからではあるが、そもそもきちんと記録はしていない。この頭と指が覚えているだけ。テープに吹き込んだりするのは恥ずかしい。音符はまだ勉強中。俺には向いていない。微妙なニュアンスを記号で伝えるのは難しい。
それでも多くの曲を生み出している。無数と言える程のメロディーが頭に浮かんでいる。
不完全な曲を一人きりで形にするつもりはない。俺のメロディーは、ロックナインでの演奏を想定している。だからどうしても、ロックナインを結成する必要があるんだ。
メンバー探しに何をすればいいのか? それが最大の難問だ。俺にも友達はいる。音楽の話をする事も多々ある。ロックナインを知っている者もいる。聞かせた事もある。けれどあまりいい予感はしていない。
メンバー集めは直感に頼ると決めている。友達作りでも変わりはない。初対面の印象で大体分かる。最初に違和感を覚えた奴とは、その後仲良くなったとしてもいつかはその違和感の正体に気がつき、大抵はがっかりする。時にはいい違和感の場合もあるがな。
隣のクラスのあいつに、物凄い違和感を覚えた。出会った入学式のその日にだ。それから二年が過ぎて、ようやくその正体に気が付いた。あいつとなら楽しめる。そう感じている。