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その日は違っていた。初めて見る映像に釘付けだ。CDも手に取った。帯のコメントを裏までじっくり読んでいた。
背後に感じた父親の存在は無視をする。というか、正確には気がついていなかった。なんとなくの雰囲気に包まれていただけ。俺はロックナインに夢中だった。小さな画面に映る映像を見ながらヘッドホンでその映像に映っているアーティストのCDを聴いていた。
ふと感じた雰囲気に、身体は反応する。すぐにではなくても、身体が自然と動いてしまう。
最初にその雰囲気を感じた時は、身体が動きを止めていた。思考だけが残っている状態だ。その雰囲気に包まれながらもロックナインに夢中でいられた。まるでおっぱいを貪る赤ん坊ようだったなと今では感じている。
その雰囲気が、突然遠ざかる。どうして? 行かないで! そんな感情と共に身体が反応する。どこを向けばいいのか、身体が理解する。自然と顔を向けた先に、父親の背中が見えた。
父親の背中を見つめるだけで、声もかけず、追いかけもしない。ただ、突然蘇った昔の記憶を思い出した。
ロックナインの特集コーナーの前に立つ父親が、ヘッドホンを頭に乗せながら身体を揺すっている。俺はその様子を遠巻きに眺めていた。何故だか分からない。近づいてはいけないと思った。父親があんな風に音楽を聞いている姿を見るのは初めてだ。
俺は自分の小遣いでその手に取っていたCDを買った。ロックナインを世界で初めて提唱したバンド。全ては彼らから始まっている。
バンド名がそもそもロックナインだったのは言うまでもない。ロックナインが始めた新しい形がそのままショウの名前になっている。
つまり俺達は、彼らのパクリってわけだ。