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一番ピッチャー、速井急則、主にヴォーカル担当。
大音量で感情をぶつける。真っ直ぐが俺の得意技。伝えたい想いをストレートに伝える。比喩には頼らない。変化球も好みじゃない。ラップのような喋くりは嫌いじゃないが、意味をなさない韻は踏まない。
一人で歌っていてもつまらない。
一人でのピッチングは疲れるばかり。
何の為に野球を始めた? 何の為にバンドを組んだ? 答えはまだ見つからない。
メンバー募集の張り紙は八枚。確実に出会えたと信じた奴にしか渡さない。ただひたすら待っている。
足腰を鍛える為、一人きりの投げ込みは意味がある。二時間を超える長丁場にも耐えられる足腰は、生半可な訓練では作れない。投げ込みだけでも意味はない。俺は毎朝晩五キロの走り込みを小三から続けている。それでも足腰に不安が残る。
一試合を投げ切るには、個人的な体力だけじゃダメだ。野球は最強のピッチャーが一人いれば無敵だという奴もいる。そんなのは嘘だ。一人きりの野球なら、俺は興味を抱かない。
歌うにも体力がいる。二時間超えのショウが目標だ。水すら飲まずに歌い続けるあの人が憧れ。水分補給なんてせずに歌い続ける体力と喉が必要だ。その為の努力は怠らない。
一人でも歌えるが、やっぱりどこか味気ない。仲間と共に歌いたい。派手な演奏に包まれたい。
俺は夢を叶える為のフィールドを探した。
ロックと野球は繋がっている。俺は野球をしながらロックする。ロックをしながら野球をする。それって最高だろ?
まずはロックナインを集めなければならない。たった一人では試合も出来ない。俺が目指す音楽も出来やしない。