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ランス

「あ、あの―――」

「自己紹介は私だけで結構だ。 先ほども言ったが、君がここに居られる時間は少ない。 アンジーが君に推薦書を渡したのは、君の力になってくれと頼んでいるからだ」

「え、力を貸していただけるんですか?」

「まぁ。 会ってすぐ力になろうと言われたら混乱するのは当たり前だろう。 強いて言うなら、君の戦いを見ていたから、力になりたいと思ったんだ」

「俺の戦いですか?」

「僕もね、君たちが異形なモンスターを相手している時、若と一緒に一部始終見ていたんだ。君たちの互いを思いながら戦う姿を見て、年甲斐もなく心が震えたよ」

「いや、俺はただただ必死だっただけで……俺は普通の事をしたまでです」


仲間が窮地に立たされたら助けるのは普通の事であろう。

だが、助けるに値しないゲスな外道は助けない。

外道を助けるために、命は張れない。

俺はその辺の区別はちゃんとしているつもりです。


「死と隣り合わせの状況の時、人の本性は曝け出される。 君たちの本性、行動は信用するに値すると私は感じた」


優しそうな表情から、鋭い眼光へと変わるランスさん。


「普通の事を普通に行動に移せる者は数少ない。あの状況では自分の保身に走るものだ。 だが君はそれをしなかった。 迅人君、人はそれを勇気と言うんだ」

「俺はランスさんが言う様な男ではありません。 ただ、人がやられたら嫌だなと思った事はしたくないと、日頃から考えていたおかげなんです」

「謙虚なんだねぇ、君は。 迅人君……機兵乗りで、大事な事は何だと思う?」

「大事な事ですか? それは機兵を上手く乗りこなす事でしょうか?」

「うん。 それも間違ってはいない。 機兵ができたのは、最初、人の為、人の暮らしを良くするためにできたんだ。 その事は知ってるね?」

「はい」

「しかし、今の世は、機兵を戦いの道具としか見ていない。 私はそれがとても悲しくてね……。 だが、君達の姿を見た時、人間と機兵は君達二人の様な関係でなければいけないと、私に思い出させてくれた……ありがとう」 

「え、ええぇ⁈ ちょ、ちょっと、ランスさん⁈ 頭をあげてください!!」


突如、椅子から立ち上がり、俺に頭を下げてきたのだ。


「君達は、私に初心を思い出させてくれた。 そのおかげで、私は更なる高みへと足を踏み入れる事ができた。 まさか、この歳で、まだまだ上に行けるとは思いもしなかったよ」


会った時は何も感じなかったのに、今ではランスさんの存在自体が大きな砦の様にビリビリと感じ取れる。

それに、俺達のおかげで成長したみたいな事を言っていたが、俺達の戦いを見て悟りを得てここまでの覇気を放つとか半端ないな……


「迅人君、君は、機兵は好きかな?」

「大ッ好きです!!」

「ハハッ。その気持ちを忘れないようにね。 さて、話はこれぐらいにして、早速訓練を開始するかい?」

「はい! よろしくお願いします!!」

「さて、歩きながら話をしようか。 付いて来てね」


部屋から出ると、付いて来るよう言われたので、後を付いて行く。


「迅人君の機兵を見させてもらったよ。 よくあの状態であの異形なモンスターと戦えたね」

「いや、あれはクラナが壊れては修復を繰り返してくれていたおかげです」

「クラナ君はアンジーと同じ、ナノテック族の生き残りだったね」

「知っていらっしゃったんですか?」

「そりゃね。 アンジーは私の奥さんだからね」

「そうでしたか。ランスさんの奥さんはアンジー……さん……ええっ⁈」

「驚いたかい?」

「そ、そりゃ驚きましたよ」


突然のカミングアウト……そりゃ驚くだろうが……


「周囲はもうその事は知っているからねぇ。 ここに初めて来る人達に伝えるのが私の楽しみでもあるんだ」

「お茶目な一面もおありなんですね」

「ハハハッ。 常に驚きのある日々をってね。 楽しい驚きは周囲を和ませるからってね。 あ、そうそう。 アンジーに君の機兵を鑑定してもらったところ、だいぶ古い時代から放置されていた機兵だって分かったよ」

「どれぐらい放置されていたんですか?」

「細かくは分からないけど、数千年ってとこかな」

「そんなにもですか?」

「逆にそんなにも放置されていたのにも関わらず、あそこまで動いたのが不思議だって事もアンジーは言っていた」

「奇跡って事でしょうか?」

「奇跡で片付けていい程、あの異形のモンスター相手にあそこまではできないよ」

「そう言われたらやはり―――」

「『古代機兵』の可能性は十分にある。けど、そうじゃないかもしれない」

「期待はしない方が良いって事ですね」

「そうゆう事! さ、着いたよ」

「うわぁぁ……こいつは凄い」


一気に太陽の陽が俺を覆い尽くし、陸、空には訓練中の機兵達が機敏に動き回っていた。


「迅人君。 君にミッションを言い渡す」

「ミッションですか?」


着いて早々に、ランスさんからミッションを言い渡される。


「この機兵の中で、君が気になる機兵はいるかな?」

「気になる……ですか?」


それなら、いの一番に目に入った機兵が一機いた。

空にも関わらず、余分な動きがなく、さらには正確無比な攻撃で、相手の隙を一瞬で仕留める機兵。


「あの、空でこちらを見ている機兵でしょうか?」

「フフッ。 やはり良い目をしている。 そう……あの機体が我が隊のエースであり、今から君が、挑戦する好敵手となる者だよ」

「やっぱりエースでしたか……今何て言いましたか?」

「いやだからね! 君が挑戦する好敵手って言ったんだ」

「俺に何をさせたいんですか?」

「迅人君には時間がない。なら一番成長する方法は何か? それは実戦だよ」

「実戦ですか⁈ 俺はてっきり、基礎から教えてもらえると思っていましたよ!」

「基礎は確かに大事だよ。 けど、実戦は時に、全てを凌駕する。 君にはうちのエースに一撃を入れてもらう。それが私から、君へのミッションだ。 それと、君には機兵に乗る資格がある。」


その言葉は俺の心を奮い立たせるのには十分だった。


「顔つきが戦う男の顔になったね。  時間は少ないけど、やってみるかい?」

「やらせてください」

「良い返事だ。 お、こっちに来たね」


エース機がこちらへと降り立つ。

コックピットが開くと、驚くことに、コックピットからは綺麗な女性が現れたのだ。

その女性はゆっくりとこちらへと歩を進める。

しかも、俺から視線を逸らさず、射殺されそうな目付きで見られていると感じる。


「紹介しよう。 彼女は、我が隊のエースである。 マーヴェリックだ」

「はじめまして。 自分は―――」

「知っています。 私もあなたの戦いは見ていました」

「あ、そうだったんです―――」

「あの無様な戦いは見ていられませんでした」

「えっ⁈」


突然非難する言葉を発してきたマーヴェリックさん。

しかも今度は軽蔑の眼差しを俺に浴びせてきた。


「あなたは機兵に乗る資格はありません」

「えっ、えっ?」


初対面でいきなりそんな攻撃的に攻めてきますか?

ランスさんを見ると、笑顔のままで黙っている。

助けてくれないの?

マーヴェリックさんは言いたい事を言うと、機兵に乗り、こちらを一瞥して、コックピットの扉が閉まる。

そして、また空へと飛びだっていった。


「悪気はないんだ」

「いや、確かに、俺はあぁ言われても仕方がないと思っていますが、何でフォローしてくれなかったんですか⁈」

「いや~。 あの子もあんな顔をするんだと見入っちゃってね~」

「怒ってましたよ」

「怒ってたねぇ~。 けど、ツンな所はあるが、カワイイ所もあるんだよ」

「デレは無いんですね……綺麗なのは否定できませんが」

「惚れちゃダメだよ」

「惚れませんよ……どこに惚れる要素があったんですか⁈ 先程、あちらからあなたの事嫌いですって言われた様なもんじゃないですか!」

「そんな事ないと思うんだけどな~」

「ランスさん、ちゃんと聞いていましたか? 解釈の違いどうのこうのの話じゃありませんよ」

「あんな顔をさせたのは迅人君が初めてなんだけどな~」

「あんな顔をその辺の人にさせていたら、相当傲慢な人だと思いますよ。 普通は」

「ごめんねぇ……私の娘は普通じゃなくて」

「あ、いえ、言い過ぎました。 ランスさんの娘さんは傲慢なんかではなく、ただコミュニケーションが下手なだけか、も………………ハァァァ……」

「ムフフッ」

「その顔やめてください。 会って間もないですけど、グーで殴りますよ」


ここでも爆弾を投下してきやがったランスさん。

ランスさんのしてやったりとほくそえんだ顔が俺に殺意を抱かせた。

まさか、ランスさんの娘がエース機のパイロットだった……だったんかい!!


「ははは。 あ、そうそう! マーヴェリックは彼氏もいなーーー」

「聞いてません!! よくもまあ、自分の娘の情報を聞いてもいないのにペラペラと言えますね」

「いや〜、それほどでもないよぉ〜」

「逆に聞きますけど、どこに褒められるようなフレーズがあった?!」


先程まで、クルーに対し、気配り、思いやりがあり、凄味のあったランスさんはどこに行ったのだろうか?


「あ、危ないよ」

「えっ?」


チュイーンッ


俺の横顔を何かが物凄い速さで通り過ぎたみたいだ。

それと同時に爆発音が鳴り響いた。

後ろを見てみると、訓練用の的があり、見事に頭に命中していた。

いや、爆ぜていた……

恐らく、俺の横顔を通り過ぎたのは弾丸であろう事が容易にわかった。

ランスさんが俺を引っ張ってくれていなければ、あの的と同様に無惨な姿になっていただろう。


「ハハ……ハァ……」


この親にしてこの子あり。

そう思った瞬間、ため息が自然と溢れると同時に、少し、少〜しだけ怒りが湧いた。

目を留めていただき、ありがとうございました。

あと少しで節目の100話となります。

読んでくれている皆さんに頑張る力をいただいでいます。

頑張ります。


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