今できる成長を
「気持ちは落ち着いたかい?」
クラナは同族と出会った事で、感極まってしまい、泣き止むまでアンジーさんがクラナの背中を擦ってあげていた。
「うん……もぅ大丈夫。 ねぇねぇ、アンジーさん。 さっきのってどうやったの?」
「『細胞分子の虫眼鏡』の事かい? 驚いたかい?」
「うん、それそれ! うんうん! スッゴイ驚いた!! なぜか急に、アジーンの体がより鮮明に見える様になったんだもん!」
「それはね~。 さっきクラナの肩に手を置いた時、あたしのナノ細胞を流し込んだんだよ」
「僕にナノ細胞を?」
「そうさ。 別に体を悪くする事はないから安心しな。 まぁ、あんたはまだ自分の力を完全に引き出せていなかったからね。 だから、あたしのナノ細胞を流しこんだ事によって、クラナ、あんたの眠っている力を目覚めさせる手伝いをしたまでさ」
「僕にそんな力があったなんて知らなかった」
「知らなくて当然だよ。 これは一族の者でしか知らない事だからね」
「そうなの⁈」
「そうさ。 クラナは、あんたは既に『細胞分子の修飾』を使えていた。 それは目覚める準備はできていたサインなんだ。 けど、次の力に目覚めるための条件があってね。 それは同族のナノ細胞を取り込まないと、次の段階には上がれないんだよ」
「じゃ、じゃぁ、もし、アンジー達に会えてなかったら、僕は力に目覚める事は――」
「クラナが使っていた『細胞分子の修飾』はどんどん使えなくなり、ナノテック族だとしても、次の段階に進めなければ二度とナノテック族の力は使えなくなっていた」
「うわ……あの時迅人を助けに飛び込んでよかった」
「おい」
「冗談だってば~テヘッ」
クラナは悪戯っ子のような笑みを見せる。
俺はと言うと、あの時の事を思い出すと、寿命が縮まる思いである。
「さて、残りの時間はどうしたい。 クラナは?」
「僕は時間が許す限り、アンジーさんや、クルーのみんなから色々と学びたいです」
「あんたがヤル気ならあたしや、クルーもあんたの力になってあげるよ」
「ありがとうございます!! あ、アンジーさんの事を師匠とお呼びしてもいいですか?」
「よしてくれよ、師匠だなんて。 あたしの事はみんなアンジーって呼んでるんだ。 気軽にアンジーって呼びな。 迅人、あんたもね」
「え、俺までいいんですか?」
「あたしが良いって言ってんだ
「わ、わかりました。 アンジー」
「その方があたしとしてもしっくりくる。 時間も少ないんだ。ビシビシ叩き込んであがるから、ちゃんと付いて来るんだよ」
「そのつもりです! 僕はこの機会をちゃんと自分の物にしてみせます!」
「さて、さっそく作業に取り掛かるとするかい?」
「はい!」
俺をよそに、やる気に満ちている二人。
クラナの成長を邪魔する訳にはいかない。
俺は二人に気付かれない様に部屋を出ようとする。
「おっと。 迅人、あんたどこに行くつもりだい?」
「あ、俺は――」
「行く当てもないんだろ? あんたはここに行くといいよ」
そう言うとアンジーさんは俺に紙を手渡す。
「これは?」
「そいつはあたしの推薦証だよ」
「推薦証ですか?」
「それを持って、訓練所に行くといい」
「訓練所ですか?」
「そこは機兵の操縦士を育成する場所だ。 あんたはこれから機兵を乗りこなす事も覚えないといけないんだ。 あんたは既に機兵乗りとしては遅れを取っている。 やるなら早い内がいいよ」
「そんな施設がここにあるんですか⁈ 教えていたただきありがとうございますアンジーさん!」
「迅人もやる気に満ちているのが分かるよ!!」
「クラナ、お互い頑張ろうぜ!!」
「うん! 僕も迅人に負けないぐらい頑張るよ」
お互いに固く握手を交わし、健闘を祈り合う。
まさか、艦内に操縦士の訓練所があるとは……恐るべしエンデヴァー号。
俺はクラナ達と別れ、訓練場へと急ぎ足で向かった。
♦♦♦
「ここが操縦士を育成する訓練場か……すごいな」
門を潜ると、一瞬で外の景色が広がる。
先程まで潜水艦の中にいたのにも関わらず、まるで外にいるような錯覚が俺を飲み込む。
これもアーティファクトとこの潜水艦のクルー達が成せる技術なのであろう。
「おーい、そこの君、止まりなさい」
優しそうな警備員さんに呼び止められる。
「君は確か若のお客人。ここには何しに来たのかな?」
「あ、実はここに行くと良いとアンジーさんに言われまして」
「アンジーに? しかし、そう言われてもここは――」
「あ、アンジーさんにこれを貰いました」
「うん? これは⁈ ハハッ。 アンジーが推薦書を寄越すとは……わかった。 入室を許可しよう。 着いてきたまえ」
「あ、はい」
もし許可を貰えなかったらどうしようかと内心ハラハラしたが、俺にも絶対に引きたくない思いがあり、ダメもとで駄々を捏ねようかと考えていた。
入室し、さまざまなクルー達が切磋琢磨しトレーニングを行っていた。
そして、上空を見上げると、機兵達が空を飛び交っていた。
「うわー、見るだけでも勉強になる」
「君は機兵が大好きなんだな」
「はい! 大好きであります」
「あ、いや、口調はいつも通りで大丈夫だから」
「あ、すいません。つい癖が出てしまいました」
「まぁ、そう肩に力を入れずに……気楽に、ね」
「すいません」
「お疲れ様です」
「おう。 お疲れ」
「お疲れ様でーす」
「はい、お疲れ様。うん? 顔色が悪いな? 体調はどうだ?」
「い、いえ、大丈夫であります!」
「いや、訓練中に何かがあってからでは遅い。 私が許可するから、今日は帰ってゆっくりと休みなさい」
「いえ! 私は――」
「今は無理をする時ではない。いつかその時が来る。 それまで、ちゃんと自己管理をしっかりとするように」
「恐れ入ります。 お言葉に甘え、今日は帰らせていただきます」
「うん。 お大事に」
「お気遣い感謝いたします。 失礼します!」
「うん。気を付けて帰るんだよ」
内部に入るにつれ、警備員さんに挨拶していくクルー達が増えていく。
しかも、ちゃんと立ち止まり、挨拶をしていくのだ。
それだけではなく、クルーを思いやる姿勢と、体調が悪いと見抜く洞察力……これはもしかして……
「礼儀、挨拶を徹底的に、自然とできる様、体に染み込ませ、さらには仲間を思いやる気持ち……そうして立派な操縦士を育成すると……ここはそこまで考えている……すごい場所だ」
「うん? 何か言ったかい?」
「あ、いえ、何でもないです」
「そうかい? さぁ、ここだよ」
立ち止まると、そこに書かれていたのは機兵長室と書かれていた。
とうとう俺は機兵乗りのトップと話をする。
あぁ~、どうしよう⁈ 緊張してきた。
ガチャッ
「え、ちょ、えっ⁈」
俺をここまで案内してくれた優しそうな警備員さんは、ノックもせずドアを開け入っていく。
「あ、あの、ノックもせず入るのはさすがに、あれ? 誰もいない?」
「さぁ。 気を楽にして、そこに座るといいよ迅人君」
「え、え……ま、まさか……」
優しそうな警備員さんは、俺を見てしてやったりと言わんばかりの笑みを見せる。
「はじめまして。 私が機兵訓練場の機兵長を任されている、ランス・ガンナーだ。 さて、迅人君。 ここにいられる時間は少ない……早速だが今後の話をしようじゃないか」
優しそうな警備員さんは、ただの警備員さんではなく、機兵訓練所のトップだった。
何でトップがあんな所にいるんだよ。
目を留めていただき、ありがとうございました。
あと少しで節目の100話となります。
読んでくれている皆さんに頑張る力をいただいでいます。
頑張ります。
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