不確実な力の導き
「モグモグッ……意識を覚まそうにも、ングッ、プハーッ! これ美味しいね! それでさ、誰かが僕の目覚めを邪魔してくるから、僕の力で対抗したんだ」
「つまりは自力で目覚めたって事か」
「そう言う事!」
ローガンの話では三日間は目を覚まさないと聞いていただけに、クラナが目を覚ました時は大変驚いた。
だが、俺以上に驚いていたのが、医療スタッフの皆さんだ。
過去に遡っても、この様に自力で目を覚ました人はいないと言っていた。
「本当にどこも痛くはないのか?」
「うん。 どこも痛くはないし、いつもと同じで元気リンリンだよ」
見た通り、元気なのだ。
医療スタッフの皆さんから聞いた話だと、カプセル治療は治癒能力に特化した医療機器だそうで、怪我も通常の治療よりも早く治癒すると言ってたが、ここまで早く治癒する人を見たのは初めてだそうだ。
「もうね、目を覚まそうにも頭の中でアラーム音が鳴り響いてて、目を覚まさないでくださいって指示が出てくるわ。 こっちはもう大丈夫だって言っても、そういう訳にはいきませんて言われるし、じゃぁ誰が僕を目覚めさせないのって聞くと、お教えできませんってそればかりで、イタチごっこだったから、もうあったまにきたから、コンピューターをハッキングして―――」
「強制的に意識を取り戻したと」
「そう言う事!」
用意された食事を頬張りながら、満面の笑みを見せるクラナ。
うん、頬張る姿がリスみたいでカワイイなぁ……じゃなくて、この子はまぁ……何と言うか、うん、目を覚ましてくれてよかったという気持ちが強すぎて、この後の事なんかどうでもよくなった。
ローガンには悪いが、当初の計画とはだいぶ変わる事は決定だ。
だが、そうだとしても、クラナのこの姿を俺はきっと、早く見たかったんだと心の底から思えた。
◆◆◆
「なるほどね……助けてもらった対価として、ここでの事は口外しないでって事だね」
「そうなんだ」
「問題はオレオールさんに嘘を見破られるかもしれないって事だよね」
「そう言う事! この腕輪がもう1つあればいいんだけど」
「その腕輪はまだあるから安心してくれ」
「あ、ローガン」
後ろを振り返ると、ローガンがいつの間にかいた。
ここの人達は何でこんなに気配を消して、いつの間にか背後にいるんだよと思いながら、それに慣れてしまった俺。
「医療スタッフから連絡をもらい、半信半疑でここに来てみれば、本当に意識を取り戻しているとは」
「あなたがローガンさん?」
「あぁ。 俺はローガン。 はじめまして、クラナ君」
「僕の事はクラナって気楽に呼んでくれていいよ」
「それなら俺も気軽にローガンと呼んでくれて構わない」
「うん、わかった。 よろしくねローガン。それと、僕達を助けてくれてありがとう」
「こちらこそよろしく頼む。 しかし、クラナ。 俺に礼を言う必要はない。俺はクラナの目覚めを妨害した張本人だ」
「理由は迅人から聞いたから、僕は気にしてはいないよ」
「そう言ってもらえると助かる」
あっという間に打ち解け合う二人。 何の弊害もなく、話は進み、当初の計画通り、とはちょいっと異なるが、計画を進める方向で話は終える。
「あのさ、アジーンは今どこにいるの?」
「アジーンはこちらで回収し、ドックに移し終えている」
「この後、アジーンの所に行ってもいいかな?」
「ドクターからは退院許可は出ている。 また、施設は好きに使うといい」
「ほんと⁈ わーい! ありがとうローガン」
「うむ。 俺はこの後やらなければいけない事がある。 これにて失礼する」
「うん! またねローガン」
ローガンはそのまま部屋を出て行った。
「さて! お腹も満たされたし、アジーンのいる所に向かいますか!」
「本当にもう行くのか?」
「だって、早くアジーンを診てあげないと可哀そうだよ。完全ではない状態で目覚めて、あんなに酷使したんだ」
「アジーンも早くクラナに見てもらいたがってるかもな」
「そうかな? そうだといいなぁ~。へへへ」
俺とクラナは診療所を出ると、クラナは立ち止まる。
「す、すごいね。 こんなに人が行き交う船は見たことがないよ」
「そうだよな。 船の中に国1つが収まっているんだから」
「おじいちゃんの船もすごいと思うけど、このエンデヴァーは異なる意味ですごいと思う」
「おやっさんが効いたらきっと嫉妬するだろうな」
「おじいちゃんはそんな事で嫉妬はしない……と思う。けど、みんな生き生きとしてる」
クラナが見ている瞳は、生き生きとしている人々を映し出していた。
色々な人達にドックの場所を聞き、やっとの思いで辿り着く。
「あの、すいません」
「うん? 何だい? あれ、君たちは確か?」
「あ、若に助けていただきました―――」
「あー! 君たちね! あれ、そちらのお嬢ちゃんはもう目を覚ましたんだ」
「はい! 助けていただきありがとうございました」
「いやいや、助けたのは若だから。 でも二人とも元気で良かったよ。 ここに来たのはあの機兵を見に来たんだろ?」
「うん! アジーンは今どこにいるの? アジーンの専属メカニックは僕なんだ。 他の人に任せっきりは嫌なの!」
「あはは。専属のメカニックがいるのなら、心配する気持ちは分かるよ。 アンジーが今見てると思うから、付いて来てよ」
「わかりました」
俺とクラナは青年の後を付いて行く。
周囲を見渡せば洗練された機兵がズラリと並んでいた。
テンションあがるわ~!
そして、各々に動き回るクルーを見るに、おやっさん達のスタッフ同様に一流のクルー達が揃っているのが見て分かった。
「若からのお達し通り、やり過ぎは禁物だ。 だからと言って、手を抜く事はしないよ。 いいね?」
「うっす」
「了解」
「はい!」
アジーンが移送された場所に到着すると、オレンジ色の髪色をした妖艶でガタイのいい女性が腕組をしながらクルーに指示を出していた。
「アンジー、若のお客さんがお見えになったよ~」
「あん? 若のお客人はまだ目を覚まさないはず……あれ? ほんとだ。 計画が変わったのかい?」
「初めまして。自分は迅人と言います。 そして、こちらが―――」
「初めまして。僕はクラナと言います。 僕がアジーンの専属メカニックです!」
「あぁ。 ちゃんと聞いてるよ。 あたしはアンジー。 ここのドックの長を任されてる。 お~いお前達! 休憩に入りな~!」
「うっす」
「了~解」
「今日の飯は何にすっかな~っと」
クルー達が作業を終え休憩に入っていく。
アンジーさんは残り、俺とクラナの3人だけとなる。
「あんた、意識を失ってまで、この子を心配していたって子だろ。メカニックの鑑じゃないか」
「いや~、そんな事ないですよ~。 えへへ」
メカニックの鑑と言われ、言葉とは裏腹に顔がニヤけるクラナ。
「しっかし、まさかこんなカワイイ子がこの子を動かせる様にしたとは、正直驚いたよ」
「あ、アジーンはどんな状態ですか?」
「ざっと見た感じ、大丈夫。 あと少し、無理をしていたらヤバかったかもね」
「よかった……。 あの、アジーンを診てもいいですか?」
「あぁ。 構わないよ。 ちょうどあそこに調べた情報がアップされ―――」
「細胞分子の修復」
「かぁ~おったまげたねぇ~。 まさかナノテック族の生き残りに会うとはねぇ~」
クラナが力を使い、アジーンが光に包まれていく。
その姿にアンジーさんは驚き、そして、聞いたことの無い種族名を口に出す。
クラナはと言うと、アジーンを診るのに夢中である。
「あの、アンジーさん。 ナノテック族って何ですか?」
「何だい? あんたそんな事も知らずに、この子と一緒にいたのかい?」
「あ、すいません。 クラナとは会ってまだ間もないんです」
「そうなのかい? なら仕方がないのかもね。 この子、クラナはね……古代種・ナノテック族なんだよ」
「古代種? ナノテック族?」
「そうさ。 古代種ってのは希少な種族でね。 とんでもない知識・技術・力を用いた種族と言われている。 その古代種の中にも様々な分野に分かれた種族が存在するんだけど、その中に、機械に滅法強く、とんでもない技術力とナノテック族しか使えない不思議な力を使い、古代機兵を生みだしたとされている一族が、ナノテック族なんだよ」
「マジっすか⁈」
「マジだよ。 しかし、迅人。 これは大問題だよ」
「大問題ですか?」
先程とは打って変わり、アンジーさんの表情が険しくなる。
「ナノテック族はこの世界にはもう存在しないと言われていた。 いや、もしかしたらいるのかもしれない。 迅人……その言葉の意味が分かるかい?」
アンジーさんの言いたい事はすぐに理解した。
アンジーさんの言いたい事はこうだ。
ナノテック族はすでに滅んでしまったと言いたい……が、もしかしたら生きているかもしれない。
もしくは種族を偽り、生きている可能性も無くはない。
だがもし、世に出ていれば、耳に聞こえてくるであろう程のナノテック族のインパクト性。
それが聞こえなくなると考え得ることは、拉致されている可能性も高い。
古代機兵を作り上げたのはナノテック族だと聞いたら、野心にまみれた国や人間からしたら喉から手が出るほど欲しい逸材だ。
俺もクラナの力を初めて見た時、とんでもない事が起きていると感じていた。
そして、この力は軽はずみに見せびらかしていい様な力ではない事も。
「どうやら理解はしているみたいだね。 まぁ、この力を見せたのがあたし達でよかったよ。 あんた達の事は絶対に喋らない」
「分かってます。 ローガンとも約束しました」
俺がそう言うと、数秒俺の眼をジッと見つめ、笑みを見せるアンジーさん。
「察しがいいね~。 それじゃもう1つ、ここで見た事、聞いた事は秘密にしといてもらうよ」
「はい?」
「まぁ見てな」
アンジーさんはそう言うと、クラナの肩に手を置く。
すると、アンジーさんもクラナと同じ様に輝きだす。
嘘だろ……アンジーさんもクラナと同じナノテック族なのかよ。
「うわ~、すごい! 今まで以上に鮮明に内部を見れるようになったよ! え、アンジーさんどうして僕の肩に手を? え、え、ちょっと待って⁈ アンジーさんも僕と同じ⁈」
「良い集中力だよ。 あたしもお嬢ちゃんと同じ種族の血を引いてるんだよ」
「そうなんだ! 僕と同じ人間はそうそういないっておじいちゃんに言われてたから、こうして会えて僕とっても嬉しい!」
「そうかい? ならもっと喜ばせてあげるよ。 おーい、お前達! 同族のクラナに挨拶しな!!」
休憩中のクルー達がアンジーさんの声を聞くと、クルー全員が輝きだす。
「うそ……みんな……」
「あぁ、そうさ。 ここにいるクルー達はあんたと同じ同族だよ」
「すごい……すごいよ……ハハッ」
これは驚いた。
ここにいるクルーは全員ナノテック族なのである。
みんなクラナに様々な声をかけたり、手を振ってくれている。
その光景を見て、クラナは涙を流していた。
目を留めていただき、ありがとうございました。
あと少しで節目の100話となります。
読んでくれている皆さんに頑張る力をいただいでいます。
頑張ります。
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