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ベルの力

期待外れの様な眼差しで俺を見つめるベルさん。


「ふ~む……なるほどなるほど」

「何がなるほどなんです?」

「迅人様には女泣かせのオーラが見えます」

「な、なんですと⁈」


それって良くないオーラじゃないのか?


「あ、でも、勘違いしないでください。 女泣かせと言っても、悲しい涙を流している訳ではないので」

「なんだそれ⁈」


意味が分からん!

つか、今会ったばかりで急に失礼と取れる事を言い出したサラさんの孫娘であるベル。


「あ、すいません。私、その人のオーラを具現化して見えるんですよ」

「そ、そうなんだ。 ってなるか! ベルが言った内容があまりにも衝撃が大きくて、ベルさんとはお近づきになりたくないぁと考えてたんだけど」

「え、え、な、なぜ⁈ あ、あ~! すいません! 悪気はないんです! 気になる人の事をこうして見ちゃうと悪い風に例えちゃうんです! ほんっと悪気はないんです」

「実際は?」

「ちょいっとだけ悪意が入ってます。テヘッ」

「O~K。 お互い会わなかった。会話もしていない。 会ってもお互い関わらないって事で」

「冗談です! 冗談ですって!! そんなゴミを見るような目で私を見ないでくださいよ~⁈」


ベルは俺の服を掴んでどこにも行かせない様にしだす。


「分かったから、離してくださいよ」

「逃げませんか?」

「に、逃げま、せん」


クソッ、先に釘を刺されてしまったので、素早く逃げようと考えていた作戦がおじゃんとなる。


「クラナ様のいる診療所へ行かれるはずでしたよね?」

「あ、はい」

「先程の失礼な言動のお詫びとして、私がご案内いたしますので、、機嫌を直していただけますか?」

「……お願いします。 あ、別に怒ってはいないので、気にしないでください」

「フフッ。 今度はみんな優しそうな顔をしている」

「え? 表情は一定のままではないの?」


歩を進めながら、ベルのいう言葉が気になり、それとなく聞いてみる。


「はい。私はその人のオーラを具現化して見る事ができます。 しかし、私はそれと憶測ですが、その人が辿ってきたルーツに関連があると思っています」

「例えば?」

「例えば、その人の前世だったりとかですかね」

「前世?」

「はい。前世に濃く関りのある人達が、その人を思い、魂と共に一緒に現世に降り立つ! みたいな」

「それってつまり、守護霊的な?」

「まぁ、そう言われたらそう取れるとも思いますね。私は守護者と呼んでます」

「なんかカッコいいじゃないのよ」

「ははは。 でも、私自身、この力をまだ完全に理解していないもので」

「その守護者さんとは会話はできないの?」

「……」

「その無言はできないと―――」

「いえ! 今修行中なので、何て言ったらいいか悩んでいたんです! 微か~に聞こえたり聞こえなかったり~?」

「それって聞こえないって言うんでは?」

「で、でも、日々鍛錬は怠ったりはしていません!」


ベルの眼を見るが、嘘は言っていない目をしている。

ベルの気持ちは痛い程俺にも分かる。

だからバカにはしない。


「ベルの気持ちは俺にも痛い程理解できるよ。 俺もそうだったからさ」

「迅人様は力をコントロールできるようになったんですか?」

「いやいや、まだまだだよ。日々勉強ですよ。けれど、やっぱり努力は怠ってはいけないと思うよ。 だって、昔よりも、成長できていると実感できているから。 そして、俺だけが努力をしているのではなく、力も俺に応えようと頑張っているんだと気付けたし。けど、努力したからと言って報われるのかと言われたら、報われない事の方が多いと思う……。 けど、しなければ今の俺はいないし、力も俺に応えようとしている事に気付けなかったっと思う。 ははは……偉そうに聞こえていたらごめん。 とにかく、そういった努力を続けていけば、ベルの力もきっと応えてくれと思うよ」

「そ、そうでしょうか?」

「えぇ。これは本心です」


そう言うと、ベルの顔が赤くなっていた。


「大丈夫か? 顔が赤いぞ?」

「あ、いえ、何でもありません……やはり女泣かせ」

「はい?」


最後の言葉が聞き取れなかった。


「気にしないでください。 ご助言いただきありがとうございます! 私頑張ってみます!」

「お互い頑張っていこうな!」

「は、はい! それ以上私の顔をマジマジと見ないでくださしゃい⁈ あ、さ、さあっ! 着きましたよ診療所!!」

「お、思ったよりも早く着いた」

「ま、迷わなければすんなりつくもんですよ」

「慣れって事か?」

「そ、そうですね。ですが、迅人様は3日間しかいらっしゃいませんが、覚えられますか?」

「まぁ……意識すれば何とかなりそうかなと」

「ほほぅ。 記憶力がよろしい方なんですね」

「あ、いえ、そういう訳では……とにかく、頑張りますよ」

「そうそう! こちらは私の番号になります。 分からない事があればご連絡ください」

「ありがとう」

「この船、エンデヴァーから出た後からでもご連絡いただければ、すぐ出ますから、気軽にご連絡をくださいね」

「わかった。 ここまで案内してくれてありがとうございました」

「いえいえ。短い時間でしたけど、私は楽しい時間を過ごせました。 それに、まだ3日間もありますから、ご飯でも食べに行きましょう! 美味しい所を紹介しますから!」

「いいの? それは楽しみにしだ」

「では、こちらが私の番号とアドレスです。 ご都合いい日に連絡をください」

「うん。 必ず連絡するよ」

「お待ちしておりますね」


こちらに手を振りながら人ごみに消えていくベル。

案外話をしてみたら面白い人だった。


「さて、っと! クラナの様子を見に行きましょうか」


俺は診療所に入り、クラナが眠るカプセル室へ向かう。


「お、ここだここだ」


部屋に入ると、気持ちよさそうに浮かぶクラナが眠っていた。

みた感じ、傷は癒えている。

だが外は治っていても、内部は見えない分、治るのには時間がかかるもんだ。

幸い、ここの船員達は見るからに優秀だと目に見えて分かる。

この人達にクラナを任せても大丈夫であろう。


「クラナ……俺が弱いばかりに、クラナに負担をかけちまった……俺、少しは強くなったと思ってたんだけど、まだまだだったみたいだ。 自惚れは己の身を衰退させる。 傲りは周りを不幸にする。 初心に帰って己自身を見つめ直すよ」


クラナの前で言いたい事は言えた。

後は俺が行動に移すのみ。

こんな辛気くさい顔をクラナの前で見せるのはこれっきりだ。

意識を失っていないと言えないのかと思うかもしれないが、意識がある状態で言う事ではない。

俺が変わったかどうかを自分自身で決めつけるは愚の骨頂だ。

それは他人が決める事。

俺のこれからの姿を見てもらい、変わったかをクラナに決めてもらうんだ。

いや、クラナだけではなく、全ての人に認めてもらうんだ。

決心を決め、クラナが眠るカプセルを触る。


「また明日」


俺はそう言い、部屋を出ようと歩を進める。


コンコンッ


「うん?」


ノックオンが聞こえ、後ろを振り向く。


「うん? な、嘘、だろ……」


コンコンッ


俺はきっと驚きで間抜けな顔をしていたにちがいない。

目を開け、か弱い手で俺に手を振るクラナの姿に、目頭が熱くなるのを感じた。

予定とは違い、クラナは目を覚ましたのだ。


目を留めていただき、ありがとうございました。

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