相談
「いやー、すまねぇ! とんでもない事を聞いちまって、驚いちまった」
そう言うのはローガンの右腕的存在のロイドだった。
「……」
ローガンはというと、顎に手を置き黙り込んでいた。
「少し時間をやってあげてくんねぇか?」
「はぁ……」
俺がオレオールさんの話をした瞬間、二人してこの様な反応をしだした。
結論からすると、この二人はオレオールさんの事を知っている。
まぁ、オレオールさんは第一騎兵隊・隊長である。
有名なのだから、みんな名前を聞けばすぐに分かるのであろう。
だが、この二人の反応を見る限り、そういった類の話ではないと思った。
この二人は、オレオールさんと面識があると俺は思った。
「いや、しかし、俺の知っている情報だと、オレオールは弟子を取らないと聞いていたからよ~。 そうかそうか。 オレオールがねぇ~」
「あの、オレオールさんの事をご存じなんですか?」
俺がそう聞くと、ロイドさんの表情がガラッと変わる。
「俺にそれを聞いちまったら、迅人、おまえを最悪殺さなきゃならなくなるが、命と代償にその話を聞くかい?」
「はて? 俺何か言いましたか? 最近物忘れが激しいもので」
「ぶあっはっはっは! 物分かりが良い奴は好きだぜ! まぁ、その内分かるからよ! ただ、今は話せないんだ。許してくれや」
一瞬で射殺されそうな程の殺気を放ち、俺がボケると一瞬で和やかな雰囲気へと変わる。
まぁ、知れたらいいな的な感じで聞いたから、別に今は知らなくともいいや。
それに、その内分かるとも言っていたわけだし、命を代償に話を聞くには余りにも代償がデカすぎる。
「すまない。 久々に聞いた名だったもので、少々取り乱してしまった」
「あ、いえ、お気になさらず」
「すまないが、俺と会うまでの経緯を聞いてもいいだろうか?」
「いいですよ。 実は俺達は―――」
俺はおやっさんの船に乗り、『無限に巡る場所』へと向かっていた事を話した。
「なるほどな……あの異形なモンスターに襲われ、流砂に呑まれたと」
「はい」
「これも運命の流れなのだろうか……」
「はい? 今何て?」
「いや、気にしなくていい。 それで、結論から言わせてもらうが、君たち二人を『無限に巡る場所』まで送ろうと思っている」
「ほ、本当ですか⁈」
「あぁ。 それに、まだクラナ君も目を覚ましていない。 目が覚める間、そちらに向かう方が良いと俺は判断した」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「ただし、条件がある」
「条件……ですか?」
ローガンは真剣な眼差しを俺に向け、その後ろで笑みを見せているロイド。
「目的地までは送っていく。 だが、ここで、目にした事、聞いた事は他言しない事を約束してもらいたい」
「俺は構いませんけど、クラナの方はどう言えばいいのか?」
「それなら問題はない。 目的地に着くのは3日後。 だから、3日間目を覚まさせないようにと医師たちには報告してある」
「覚まさない? とは?」
「意識を眠らせておく事も俺達には可能、と言いたいところだが、彼女の場合、それだけのダメージを負っているため、養成を兼ねて、眠っていてもらう事にした」
「そんな事までできるんですか?」
「我々のクルーは世界最高峰の技術を持ち合わせている。 まぁ、今回は彼女の状態が状態なだけに、この様な処置を施したと思っておいてほしい」
「なるほど……クラナが目を覚ました時に、何を聞かれても、目覚めたばかりなら知らない、覚えてないと突き通せると」
「そういう事だ」
「ですが、問題が少々」
「オレオールの力の事だろう」
「はい」
オレオールさんは嘘や、格下相手なら思考を読む事ができる。
そんな人に俺なんかが太刀打ちできるわけがない。
これだけの設備と技術が備わっているんだ。
記憶を消す方法とかあるんじゃないか?
「うん?」
俺がそんな事を考えていると、ローガンは俺の前に腕輪を出してくる。
「これは阻害効果を持つ腕輪だ。 これならオレオールの力を防ぐことができる」
「ほんとですか⁈ 俺はてっきり記憶を消すとかそんなのあるかなって考えてましたよ」
「記憶を消す方法はある」
「あ、あるんですか⁈」
「あるにはある。 が、もしかしたら後遺症が残る場合もある。 そんなリスクは避けたい。 それに、迅人には俺、いや、我々の事を忘れて欲しくはない」
「はうっ⁈」
唐突に現れたこの表情。
まるで子犬の様な表情で俺を見つめるローガンにキュンッとしてしまう俺。
「お、俺もローガン達の事は忘れたくないです」
「迅人……すまない。 こんな事を頼んでしまって」
「色々とご事情があるんですよね。 命を救っていただいた人達に恩を仇で返すような真似はしません」
「今はまだ我々の存在を公にする事はできない。 とくにオレオールにはな」
「わかりました。 じゃぁ、記憶を消された体で話をしようかと思います」
「無理を言ってすまない」
「いえいえ。 それじゃ、この話は終わりで、他に何かありますか?」
「これで以上だ。また何かあれば呼ぶ。 この後は好きに俺の船を見回るといい」
ロイドを見ると、俺はとくに言う事はないという様な素振りを見せる。
「わかりました。失礼します」
俺は扉を出て、クラナのいる診療所に向かおうと歩を進める。
あれ……どうやってここまできたっけか?
「クラナ様の所に向かわれるのですか?」
「ぬわいっ⁈」
背後から声が聞こえ、振り向くと、いたずらっ娘みたいな笑みを見せる可愛らしい女の子がいた。
「ふふ。 迅人様は面白い驚き方をされますね」
「いやいや、いつの間に俺の背後にいたんですか? つか、どちら様でしょうか?」
「私は執事長である祖母の孫娘であります。 名をベルと申します」
「べ、ベルさんですね。 俺は――」
「市原迅人様ですね。 存じております」
「あ、さいですか……。 そ、それで、俺には何か?」
「道に迷われているのかと思いまして、お声がけさせていただきました。 あ、私のことはベルとお呼びください」
あ、なら俺も迅人と呼んでーーー」
「それはできません。 あ、あと、私には敬語は不要ですので」
「え、そういうわけにはーーー」
「いいんです!」
「あ、はい……わかり、いや、わかったよ」
すごい圧により、言い返すことができない。
「そ、それで、俺になにか?」
「興味があったのです」
「興味?」
「はい。 若が助けに入る程の方が、どの様な方なのか……を」
なるほど……俺を見に来たと!
俺はその言葉を聞き、ベルの顔を見ると、ちょっと考え込んでいた。
え? その反応って、え、待って、それってどう見ても期待外れの反応じゃん!
目を留めていただき、ありがとうございました。
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