異形
久々の投稿となります。
ドスン、ドスン――
「はぁぁぁ、楽ちん楽ちん」
俺はクラナを右肩に乗せ、出口に向け、歩いていた。
現状、右腕は先程の戦闘により、使えないため、クラナを右肩に乗せてながら移動をしている。
左手に乗せていた場合、いざ、戦闘になった場合、クラナが危険に晒される上に、即座に行動に移せないからだ。
今アジーンが戦えるスペックは左腕に、この両足である。
不測の事態に対応すべく、現状を把握し、動かなければ、殺られてしまう世界である。
いかなる状況に対応す―――
「ねぇ、聞いてるぅ? 僕の話しぃ?」
「あ、はいッ⁈ 聞いていませんでしたッ!」
「す、清々しい程の返答だったね……普通はあ、ごめん、聞いてたけど、もう一回話してくれる? ってなるのが定番の流れだと思うけど」
「聞いていなかった俺が悪い! 悪いと思った事は即謝るべきだと思うんだ」
「うん、正論過ぎてこちらが申し訳なくなるほどだよ」
「いやはやいやはや申し訳ね! それより、何の話をしていたんだい?」
「あ、うん、実はね、この子の話をしてたんだ」
「アジーンの事?」
「うん……あのさ、迅人が良かったらなんだけどね……ここを無事脱出できたら……」
「できたら?」
クラナを数秒間黙り込んだが、覚悟を決めた様な眼差しを俺に向けてくる。
「僕を、この子専属のメカニックにしてくれないかな?」
「クラナがアジーンの専属メカニックに?」
「ダメ……かな?」
「うっ⁈」
そんな顔で俺を見つめないでくれ……そんなウルウルな瞳な上に、上目遣いをされちゃ~、冷静な判断ができなくなっちまうじゃないの。
しかし、困ったぞ……ここにはおやっさんがいない上に、俺の独断でいいよ~っなんて一言で済ましていいのだろうか? ここを無事脱出した後、クラナは絶対に真っ先におやっさんに報告をするであろう……そしたら、絶対におやっさんの事だ……変な誤解をするに決まっている。
それだけは避けなければ!
おやっさんには色々とお世話になった……恩を仇で返すわけにはいかない……くそ……ここは保留で……なんて……うん……保留……そうだ! 何を難しく考えているんだ俺は!
そうだ、保留でいいんだよ!
ここを出て、おやっさんに許可を得られたらいいよって答えればいいだけじゃないか!
答えが決まり、クラナを見ると、小刻みに体を震わしている。
きっと勇気を振り絞って俺に打ち明けてくれたのであろう。
そんなクラナの気持ちを無下に保留にしていいのであろうか?
さっき答えが出ていたのに、心が揺らいでしまう俺。
『カッコよく言い切っちまえ』と悪魔が囁き、『ダメです! ちゃんと保護者に許可を取るのが一番です!』 と天使が囁く。
俺は、俺はどうしたら⁈
そうして俺が出した答えは―――
「俺はクラナが専属のメカニックになってくれるのはとても嬉しく思う。 けど、その事は俺だけに決める事はできない」
「うん……そう、だよね」
この場で答えを貰えない事に対し、気を落とすクラナ。
「でも、おやっさんにクラナの気持ちを話して、おやっさんから許可が出たらアジーンの事をクラナに任せたいと思う」
「ほんとにっ⁈」
「本当さ」
「やったー! 今の言葉絶対に忘れないでね! 絶対だよ! ぜっっったいだからね!!」
「あぁ。 でもちゃんとおやっさんに許可を――」
「わかってるってぇ~。 えへへ~。」
俺が言い終える前にクラナが遮る。
まるで、もう許可を得た様な喜びようである。
「はぁ……さて、もう少しで出口だから、落とされない様に、ちゃんと座ってるように」
「はーい」
♦♦♦
歩き続けていると、前から陽の光が差し込んでくる。
「あ、迅人。 もしかして⁈」
「あぁ。 もう少しで外に出られるぞ」
「やったー! ここから脱出できるぞー!」
思っていたよりも早く外に出る事ができた。
だが、あれから48時間が経過していた。
クラナのはしゃぎようを見ると、そうは思えないだろうが、俺達はおよそ2日間の間、陽が差し込まない場所にいたのだ。
そして、外に出たはいいが、ここが今どこなのか見当もつかない上に、砂海を歩かなければいけない事を考えてしまうと、さらに時間を要しなければならない。
だが、オレオールさんはきっと俺を信じて目的地で待っていてくれているはずだ。
そして、おやっさん達もクラナを待っている。
一刻も早くみんなの下に帰らなければいけない。
「はぁー。 外の空気がおいしいなー」
肩に乗っていたクラナを下ろすと、大きく両腕を上げ、ぐぐぅぅっと伸びをするクラナ。
深く息吸い、勢いよく息を吐くクラナを見て、ようやく外に出たんだと実感が湧いてきた。
数日ぶりの太陽の日を浴び、人間は太陽の陽を浴びなければいけない理由が分かった気がした。
「さぁってと! ここで一息つきたいけど、もう少し先に進もうと思う」
「それ賛成! ここがどこか分からないもんね」
「そうそう。 それに、ここがどの辺か分かれば皆とも合流しやすくなる」
「うん、そうだね。それじゃまたよろしくね、迅人、それにアジーンも」
「あぁ。 それじゃまた手の平―――」
『グワアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――!!!』
「なっ⁈」
「キャアアア――⁈」
突如頭上から倒したはずのモンスターが現れたのだ。
大きな口を開け、アジーンの頭を食いちぎろうとしてきたので、俺は咄嗟にアジーンの使えない左腕を口に突っ込む。
「くっ⁈ お前はさっき倒したはず⁈ 何で動いて、い、る?」
俺は異変に気付く。
俺がモンスターに空けた穴は開いたままである。
だが、モンスターの眼を見るが、生気を感じらない。
瘴気も感じられない。
「な、なんなんだよお前は⁈」
「迅人⁈」
俺を心配するクラナの声が聞こえる。
『グアアアアアアアア!!』
「ぬおっ⁈」
ダメだ……圧されている。
それもそのはず。
先程の戦いの影響もあり、アジーンの体は悲鳴を上げているのだ。
長年メンテナンスを受けていないアジーンをクラナが急ごしらえで動けるようにしてくれたおかげで今何とか耐えられている。
「迅人っ⁈ アジーン⁈」」
「ぬおっ⁈」
どうやらモンスターの力に耐えきれず、アジーンの左膝が地に着いてしまった。
このままじゃ不味い。
「あの時を思い出せ」
俺はモンスターに空いた穴を見ていた。
そう俺が穴を空けた穴だ。
俺の考えた事に対し、アジーンは応えてくれた。
あの時アジーンは俺の考えに同調し、右腕から蒼い炎を纏い、モンスターに腹に穴を空ける事ができた。
俺はイメージをし、アジーンの左腕に蒼い炎を纏わせる事に成功する。
「よしっ! これで――」
シュルシュル
「なっ⁈」
なんとモンスターから触手が現れ、左腕を纏わり、そして覆い尽くしたおかげで、左腕が使えなくなってしまった。
どうやら、モンスターは俺が食らわせたパンチを大層警戒していたようだ。
こいつ、知能まで高いのかよ。
「くっそ、た、れ……」
何か手を……俺は何か手が無いか模索する。
だが、それを許さない様に、アジーンの体から煙が噴き出し、警告アラート音が鳴り響き始める。
うん?
モンスターの様子がおかしいぞ?
まさか⁈
俺はクラナに指示を出す。
「クラナ逃げろっ!! 今すぐ逃げろ!!」
「は、迅人――」
俺が逃げろとクラナに指示を出すと同時にモンスターから触手が現れ、クラナへと襲いかかろうとしていた。
「ぬおあああああああああ―――!!」
『グアアアアアアアア⁈』
「きゃあっ⁈」
俺は覆い尽くされた左腕に火力を上げ、盛大に触手を灰にし、モンスターの顔面に一発入れる。
そのおかげでクラナに襲いかかろうとしていた触手はクラナから大いに外れる。
だが、モンスターの顔面に一発入れたと同時に左拳も砕ける。
顔面に一発入れたおかげで、モンスターとの間に距離ができる。
だが、左足は動かない。
両腕は砕け散っている。
『グルルルゥ……』
少しずつ距離を縮めにきているモンスター。
「クラナ……逃げろ」
「え、で、でも⁈」
「俺もすぐに後を追うから。 今は俺の言う事を聞いてくれないかな」
「迅人……わかった。ごめん」
「謝る必要はないさ。 さぁ行くんだ」
『グオオオオオオオオオオ―――!!』
クラナが走り出したと同時にモンスターももの凄い速さで突っ込んで来る。
俺は残された右足に力を込め、全てをかけ、タイミングを見計らう。
『グオオオオオオオオオオ―――!!』
「ここだああああ――!!」
ガクンッ
「噓だろ⁈」
左足が耐えきれず、バランスを崩してしまった。
そのせいで見計らっていたタイミングを逃してしまう。
目の前を見ると先程よりも大きな口を開け、俺を噛み殺そうとするモンスター。
今回ばかりはヤバそうだ。
食われても『順応』は機能するのだろうか?
そんなバカな事を考えてしまった。
そしてすぐに思考を変える。
クラナを逃がす事はできた。
本当はちゃんと送り届けなければいけないのに、このような無責任な終わり方をした俺を卑下する。
「迅人おおお―!」
「なっ⁈」
逃げたはずのクラナの声が聞こえ、一瞬で妄想にふっけていた俺の思考は元に戻る。
そして咄嗟に体を倒し、動く右足でモンスターの強襲を防ぐ。
だがこれも時間の問題だ。
「な、なんで戻ってきたんだ⁈」
「先に謝ったでしょ!! 迅人を一人にはできないよ!! もう逃げたくはないんだ!」
「なんってこったい。 クラナさんはとんだ頑固者だったんだな」
「そうだよ! 僕は頑固者なんだ! 今知れてよかったと思うんだね! 『細胞分子の修復』」
クラナは自身の力を使い、アジーンを修復していく。
だが、それはあくまでも急ごしらえ。
やられるのも時間の問題である。
両手も砕け散り、足も上手く動かない。
どうしたらいい……どうしたらいい……どうしたら……
「は、迅人……」
「クラナっ⁈」
クラナの鼻から血が流れている。
どうやら、強い負荷と、修復を繰り返しているせいで、クラナに大きな負担がかかっているという事がすぐにわかった。
「は、迅人……や……カハッ⁈」
口からも血を吐きだすクラナ。
「クラナ喋るな! 今からでも逃げ―――」
「や、槍……」
俺はクラナが絞り出した言葉を聞き逃さなかった。
俺は瞬時にコックピットを開ける。
そして―――
「貫け、グングニル!!」
『グオオッ⁈』
指輪へと変化していたグングニルを、最初アジーンに刺さっていた程の大きさにし、そしてモンスターの大きな口目がけ伸びていくグングニル。
「グ、オ、オ、ォォ……」
グングニルはモンスターの口を貫き、モンスターは動かなくなった。
「お、終わったぁ……」
「ははは……やった、ね……」
ドザッ
「クラナ⁈」
クラナはその場に倒れる。
俺は急いでクラナの下に駆け寄る。
「クラナ大丈夫か⁈ クラナ⁈ あれ? 寝てるのか?」
「すぅー、すぅー」
ちゃんと呼吸もできている。
どうやら限界がきて意識を失ったみたいだ。
「まったく……お疲れ様クラナ」
『グオオオオオオオオオオ!!』
「な、嘘だろ⁈」
息絶えたと思っていたモンスターはまだ生きていた。
先程よりも大きくなった口を開け、俺達を丸飲みしようとしている。
クソったれが!!
イグとドラを出そうにも間に合わない。
俺はどうなってもいい。
なんとかクラナを、クラナだけでも助けなくては―――
「伏せろ」
「えっ⁈」
「グオ⁈」
どこからか声が聞こえた瞬間、俺はクラナを抱き込む。
その瞬間、俺達を飲み込もうとしていたモンスターが一瞬で塵となる。
一瞬の事だったので、何が起きたのか分からなかった。
そして、頭上に視線を向けると、そこには赤い機兵が浮かんでいた。
目を留めていただき、ありがとうございました。
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