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得体の知れない怪物

突如壁が崩れ、その奥からけたたましい鳴き声が洞窟内を覆い尽くす。

それと同時に、崩れた壁の奥に巨大で、得体の知れない何かが蠢いていた。


「な、何あれっ⁈」

『グルルゥゥゥ』


クラナから驚きの声が聞こえる。

驚くのも無理はない。

クラナを襲ったモンスターが崩れた壁の奥から、徐々に姿を見せた。

だが、姿形は変わり果てていた。

多少なりとも原形を残していたからわかったが、この短時間で、姿形、大きさまでもが変わっている事に、俺とクラナは驚いていたのだ。

だがそれと同時に、とんでもなく力を付けた事も伺えた。


「こいつ⁈ あれだけ入り組んでいた道を、壁を壊しながら突き進んできたのかッ⁈」


そう。

こいつは入り組んだ道を迷わず来たのではない。

片っ端から壁を壊し、俺達のいる場所までストレートでやってきたのだ。


「ここまで俺達を追いかけ回す理由がよく分らんな……しっかし、見るに無残な姿をしている」


体中におびただしい程のモンスターの姿が露わになっているからだ。

まだ吸収されて間もないからか、吸収され、表面に露わになっているモンスターからは呻き声が聞こえる。


「モンスターを吸収したのか? そのおかげでここまで大きくなったてぇのか⁈ そんなモンスター聞いた事がな……いや、まさか『穢れた者』⁈」


次々と自身に吸収したであろうモンスターを見るに、その要素は十分に考えられた。


「こんな所でも『虚ろわざる者』達が暗躍しているのか?」


ここ最近目にしていなかったから、当面の間は出くわさないだろうと高をくくっていた。

それが今現状、クラナを危険にさらしてしまった。

警戒を怠った自分に対し、自分自身をぶん殴ってしまいたい思いを抑える。


「今は後回しだ」


今現状をどうにかしなければいけないからだ。

だが、俺は穢れた者の対処方法を知っている。

俺はすぐにコックピットから出る。


「『蒼龍の震脚(ドライグ)』」


俺はドライグを呼ぶ。

前回と同じだ。

前回、穢れた者へと姿を変えた夜峩さん達を元の姿へと戻した浄化魔法で、巨大化した状態を元に戻そう。


「『蒼炎の地癒震(ブルージョイ)』」


地面を強く踏みしめると、蒼き炎が当たり一面を覆っていく。


『グオオオオオオオオオオオオオオ―――⁈』


巨大化したモンスターも炎が体全体を覆っていく。


「これで元の大きさに戻るだ――」


シュルシュル――


「うおっ⁈」


無数の触手が俺に向かって襲ってきた。

それと同時に、巨大なモンスターを覆っていた炎が消えていく。

だが、モンスターは元の原形を留めていた。


「な、効いていないッ⁈」


俺はすぐに異変に気付く。


「瘴気が感じられない?」


そう。

このモンスターからは感じられない。

穢れた者達からは感じられる瘴気が感じられないのだ。

こいつは穢れた者ではないのか?


『グアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!』

「まずいっ⁈」


俺が考え事をしていると、モンスターが巨体らしからぬ勢いで向かってきた。

初動が遅れた俺は、もろに攻撃を喰らわないため、ドライグでモンスターを蹴る。

だが、初動が遅れたせいもあり、全ての衝撃を殺す事ができず、壁に吹き飛ぶ。


「くっ⁈ なんだよ……あの巨体であの速さって……ヤバいッ⁈」


俺の眼前にはすでにモンスターが次の攻撃を繰り広げようとスタンバっていた。

息をつく間を与えない。

これが本当にモンスターかよ⁈

まるで人間同様に知能があるかの様な動きをしやがる。


「『蒼龍の(イグニア)――』」

『グアアアアアアアアアアアア―――!!!』


ダメだ!

『蒼龍の爪拳』を出す間がない!

俺はドライグで攻撃を防御するため、足を前に出す。


シュルシュル


「なっ⁈」


だが、それはさせまいと、俺の足に触手が絡まり、足を使えなくさせてきた。

マジかッ⁈

大きな口が容赦なく俺を喰らおうとしている。

何か⁈

何か方法が――


ドゴォォォ―――ンッ⁈


「グオオオオオ―――ッ⁈」


俺の目の前から一瞬でモンスターが消え、勢いよく壁へ吹き飛んでいった。

一体何があったんだ⁈

俺が視線を戻すと、とんでもない光景が飛び込んでくる。


「ア、アジーン⁈」


俺の目の前に、誰も乗っていないはずのアジーンがいたのだ。


「お、お前……俺を助けてくれたのか?」


返事は返ってこない。

アジーンはモンスターが吹っ飛んでいった場所から目を逸らさずにいた。


プシュゥゥゥ――


突如コックピットが開く。


「お、俺に乗れって言っているのか⁈」


返事はない。

だが俺にはそう感じ取れた。

俺は真っ先にコックピットへと乗り込む。

乗り込んだ瞬間、一瞬で全ての五感が研ぎ澄まされた感覚に陥る。

拳を握るとアジーンも握り返す。


『グルルゥゥゥ……グアアアアアアアアアアアア―――!!!』


そんな事をしていると、再度モンスターは土煙から勢いよく突進してくる。

俺は瞬時に構え、モンスターの顔面めがけ、蹴りを繰り出す。


『グアアアッ⁈』


もろに蹴りを喰らったモンスターは再度壁に吹っ飛んでいく。

土煙が舞い、その奥から、モンスターがゆっくりと立ち上がり、こちらを睨んでいる。

だが、先程とは違い、すぐには襲ってはこない。

どうやらアジーンを警戒しているみたいだ。


「モンスターと大きさは同じってとこだな……どれ!」


シュッシュシュシュッ!


俺は軽くジャブを素早く撃つ。

寸分の誤差もなく、アジーンは俺が動く動作で動いてくれる。


「うん……悪くない。 よし……これなら行ける!」


俺は構え、そして左手を前に出し、モンスターに向け挑発をする。


『グルルルル―――』

「どうした? さっきまでの威勢の良さはどこいったよ? かかってこいよッ!!」

『グワアアアアアアアアアアア―――!!!!』


俺の挑発にのったモンスターは変わらず、突っ込んで来るかと思ったが、無数にある触手を伸ばし、こちらの動きを妨害しようとしてきた。


「さっきは生身だったから対処が難しかったが、今は同じ大きさ! そんなもんで止められると思うなよ!」


無数の触手が襲ってくる……触手は多い……だが、速さはない。


『グアアアアアアアアアアアア――⁈』


モンスターは触手を避けられる事に対し、怒りが爆発しているのが分かる。

俺は触手の隙間を縫うかのように搔い潜っていき、どんどんモンスターとの距離が縮んでいく。

距離を縮められたくないんだよな?

それだけアジーンの攻撃が効いていた証でもあり、脅威と感じているのだ。

しかし、俺は機兵がここまで動けるのかと感心していた。

俺は初めて機兵を操縦している。

それなのにも関わらず、思い通りに動いてくれているから、尚更心が躍る。

俺は『順応』の力の凄さを改めて感じていた。


『グアアアアアアアアアアアア―――⁈』


モンスターから焦りが見られ始める。

先程まで優位な立場にいたもんな。

まさか俺が機兵に乗って、お前を窮地に追い込むとは思わなかっただろう?

まだその姿に慣れていないんだろ?

体が上手く動かせなくて歯がゆい気持ちなんだろ?

分かるよ……けど、その気持ちを理解しろだなんて思うなよ。

お前は――


「お前は手を出してはいけない子に手を出したんだっ!!」


関係のないクラナに手を出し、そして危ない目に合わせた!

その罪を、その命で償え!!!


ボォオッ!!


怒りが臨界点まで達した時、アジーンの拳に蒼い炎が纏い出す。


『グアアアッ⁈』


モンスターは伸ばした触手を戻し、自身を覆い尽くす。

どうやら守りに徹する様だ。

だが、それはこちらにとっては好都合だ。

俺は一気にモンスターとの距離を縮めるために一気にスピードを上げ、手の届くところまで近寄る。

そして、地を強く踏みしめ、スピードに乗った右腕を鞭のようにしならせ、更にスピードを加える。


「『憤怒の衝撃(アンガージョルト)!!!!』」


自身を覆った触手が砕け散り、モンスターの懐が露わになり、モンスターの懐に、アジーンの拳がめり込んでいく。

そして――


グググッ……ドパアアア―――ンッッッ!!!!


途轍もない破裂音が響き渡る。


『グ、オ、オ、ォォ……⁈』


アジーンの拳は、モンスターの懐を破壊し、大きな穴が空いていた。


ズズズゥ……ドシィィイ―――ンッ!!!!


モンスターはゆっくりと横たわり、動く事はなかった。


目を留めていただき、ありがとうございました。

ブクマ、★★★★★で応援いただけると、励みになります!


「Fly Daddy Again」・「万遊の写狩」も掲載しております。

よろしければお読みください。



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