グングニル
「大丈夫?」
「うん? あ、俺は大丈夫だよ」
そう言い、俺はクラナの方へと降り立つ。
「その槍、あんなに大きかったのに、こ~んなに小さくなったね」
「あぁ……不思議だよな」
「僕がやってもビクともしなかったのに、迅人がやったらすぐに抜けた。 これって呪いじゃなくて、ただ単に、迅人がここに来るのを待っていたみたいじゃない?」
「そう……なのかな?」
クラナの言葉に、どこかそうなんじゃないかと思う所もあり、否定はできなかった。
「ま、それより、槍も抜けた事だし、僕は作業を再開するね」
「あ、あぁ、よろしく頼むよ」
クラナはすぐに作業を再開しだす。
俺はクラナの邪魔をしてはいけないと思い、少し離れる。
そして、俺の手に握られた槍を見つめ、なぜ、俺の頭の中に『グングニル』と聞こえたのか考えていると、淡い光を帯びだす。
「な、なんだ⁈ え、嘘だろ⁈」
槍はさらに小さくなり、指輪へと形が変わる。
「す、すごいな……ここまで形が変わるのか? まるで生きているみたいだな」
意思がある様に感じた俺はもう一度、槍が出せるのか試す。
だが、槍は指輪から槍には変化しなかった。
「何でだ? どうしたら槍に戻るんだろうか?」
ふと、俺の頭に聞こえた言葉を思い出す。
「グングニル」
そう言った瞬間俺の手に槍が現れる。
「そうか……お前の名前はグングニルなんだな……そうか……名前があったらちゃんと呼んであげないとな」
そして、心の中で、試しに戻れと唱えると、グングニルは指輪へと戻っていった。
「はーい。 とりあえず、できる事はやってみたよー!」
どうやらクラナの作業が終わったみたいだ。
俺はグングニルを親指に嵌める。
「意外と早かったな」
「そーかなぁ? 今ある物で出来る事なんて限られているからね」
「それでも、見違える程綺麗になったな」
「その辺は抜かりなく施しました」
「えらいえらい」
「えへへ~。 それほどでもないよ~。 だって今からお世話になるかもしれないんだから、これぐらいはやらないとね。 けど、あまり無理はできないからね! 今現状できる事をやっただけだから!」
「あぁ。 わかったよ」
先程まで砂埃を被っていたとは思えない程見違えた機兵。
俺は機兵にそっと手を添える。
「お前にも名前があるんだよな……アジーン……で、いいんだよな」
俺がそう呟くと、胸の辺りが開きだす。
「うわ~……迅人の言う通りだぁ。 この子、迅人の声に反応したんだよ」
「そうだといいんだけどね。 さて、初めてコックッピットに入るから、すごいワクワクするよ」
「あはは。 存分に楽しんできてね」
「あぁ。 行ってきます」
俺はそう言い中に入る。
中に入ると、扉が閉まる。
中は暗いが、徐々に明かるくなっていく。
すると、赤い光が現れ、俺の体全体を覆い尽くしていく。
「今、俺の体を調べたのか? この後は、うん? 『名を』と書いてあるな?」
目の前のスクリーンに文字が浮かぶ。
「名を呼べって事なのか? もしかして……これで合ってるよな? アジーン」
俺がアジーンっと呟いた瞬間、頭の中に何かが流れ込んでくる。
「これは外の景色か?」
下に視線を向けるとクラナが心配そうにこちらを見ている。
そして――
ウィィィ―――ン……ゴゴゴゴォォォ―――
「⁈」
徐々に稼働音が響き渡っていく。
それと同時に、体全体の感覚が鋭くなっていくのを感じ出す。
指を動かした瞬間、機兵が地面に手を置いている感覚が体中を駆け巡る。
「ここまで鮮明に感じる事ができるのか?」
始めて機兵に乗る事がこんなにも凄い事なのかと驚くと共に、今まで夢に見ていた事が現実となった今、リアルに機兵と俺は繋がったんだと実感する。
「本当に俺は機兵に乗る事ができたんだな」
クラナに視線を向けると、大はじゃぎでこちらに手を振っている。
俺はその姿を見て自然と笑みが零れる。
ゾクッ
一瞬、背筋に冷たいものが走る。
……ゴ……
「うん?」
何か小さな音が聞こえたよな?
気のせい?
……ゴォォ……
いや、気のせいなんかではない?
徐々に音が大きくなっている。
「しかも音が近く……こちらに向かっている…… ッ⁈ まさかッ⁈ クラナッ!! 隠れろッ!!」
「えっ⁈」
俺はクラナに隠れろと指示をだす。
クラナは俺の大きな声に一瞬だが驚いていたが、俺の声にすぐに反応し、物陰に隠れる。
そして―――
ボコッ⁈
ドガアアアアアアアアアアアア―――⁈
『グアアアアアアアアアアアアアアアアア―――!!!!!』
突如壁が崩れ、その奥からけたたましい鳴き声が洞窟内に響き渡る。
俺は警戒を怠った自分をすごく悔やむと共に、すぐに思考を戦闘へと切り替えた。
目を留めていただき、ありがとうございました。
ブクマ、★★★★★で応援いただけると、励みになります!
「Fly Daddy Again」という作品も掲載しております。
よろしければお読みください。
また、「万遊の写狩」という作品も近々掲載予定です。




