voice
「クラナが喋ってるっ⁈」
「ホントだッ! 僕喋れてるっ! 喋れてるよッ!!」
俺の感じていた違和感はクラナが普通に喋っていた事に対してだった。
だって、あんなに流暢に喋れているんだもん。
すぐには気付か……いや、気付かなければいけないとは思うが、こんな状況と、クラナの流暢な口調が相まって気付くのが遅れてしまったんだと思う。
「あはは。 久しぶりに喋ったせいか顎が痛いや」
久しぶりという単語に、若干引っかかる物があったが、今は聞かなかった事にしよう。
「ゆっくりでいいから、今まで使っていなかった筋肉を意識しながら喋るといいよ。 リハビリを兼ねながら喋るといいさ」
「うん。 分かった」
クラナは屈託のない笑みを俺に見せる。
俺も笑みを返し、風が吹く方に視線を向ける。
そして、しゃがみ、地面に手の平を置く。
「『放電網』」
地表に流した電流が、一気に広がる事で、俺の頭に地形が浮かび上がる。
これもラグナさんの記憶にあった魔法である。
少しずつではあるが、俺が使える魔法の範囲も広がりつつあるので、今ではモチベーションを上げる一つになっている。
そして、『フラッシュフィールド』を使った事で、気になる反応を見つけてしまう。
「何だろう……この大きな反応は? 通り道に丁度重なるから、確認してみるか……」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。 脱出経路を考えていたんだ」
「今ので分かったの?」
「広範囲によるから、ちょいちょい確認しながらになっちゃうけど、ちゃんとクラナをおやっさんや、皆の所に送り届けるから、心配しなくていいからね」
「僕心配はしてないよ。 だって迅人が一緒にいるもん。 心配なのは迅人が無理をし過ぎないかだけ」
「……ははは。 任せなさい。お兄さん、これでも頑丈だからさ」
危ない危ない……危うくだらしない顔をクラナに見せるところだったぜ。
もし、俺にクラナみたいな妹がいたら、俺はきっと心配し過ぎて、過労によって倒れるであろう事は確実だ。
「さて、出発だ」
「はーい」
クラナには言わなかったが、心配事は俺だけが知っていればいい。
『フラッシュフィールド』を使用した際、気になる反応が2つあった。
だが、その反応はあからさまに嫌な物であった。
「俺達がこうして生きているんだ……あのモンスターも生きているわな」
そう。 俺達を襲ったモンスターの存在もはっきりと反応したのだ。
だが、俺達と、モンスターのいる場所はだいぶ距離がある。
クラナがいる以上なるべくモンスターとの遭遇は避けたいのが本音だ。
だが、モンスターと出くわしたら、瞬時に相殺してやる。
そう心に誓い、歩を進めるのであった。
♦♦
歩き始めて、1時間が過ぎた辺りで、クラナに疲れの影が現れだしたので、休憩を挟む事にした。
「よーし。 ここで少し休憩を取ろう」
「え、まだ行けるよ」
「まだ無理してまで動くこともないし、休める時に休む事こそ、生存の確率を上げる方法なんだぞ」
「そっか……じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうね。 ふぅ~」
「はい、水」
「あ、ありがとっ!」
口ではこう言っているが、長時間暗がりな場所に加え、足場の悪い所な上に、肉体よりも精神面が疲弊してる事だろう。
ましてや、クラナはまだ子どもだ。
俺はもう一度、『フラッシュフィールド』を使う。
モンスターはあれからその場を動こうとはしていない。
「死んではいないのは分かっている……俺達には好都合だが、何か不気味だな……」
モンスターはその場から動かない……どこか怪我をしていて動けないのか?
うん?
こいつ、最初と違って大きくなっていないか?
「何かがおかしい……そうだ……最初に出くわした時、あいつには触手なんか無かった」
にも関わらず、突然触手が現れ、俺の足を絡めとりやがった。
「こんな事があるのか? 突然進化するモンスター……」
この世界は有り得ない事ばかりが起きる。
姿形が変わるモンスターが居てもおかしくはない……だが、進化の速度が速すぎやしないか?
「けど、今はだいぶ距離がある上に、複雑な道が続く。 動き出したとしても簡単には俺達には追い付けやしない」
おっと……そう言うと、フラグを立ててしまうではないか……いんや、自ら立ててしまった。
ただ、やはり警戒はしておかないといけない。
そう、この世界は何があってもおかしくはないと、今自分が言っていたのだから。
「よしっ! じゃぁ、そろそろ動きますか?」
「うんっ! 行こう行こうっ!」
元気な返事に対し、俺はクラナを見るが、疲れた素振りは無い。
これも俺の『順応』のおかげであろう。
クラナは徐々にこの状況・場所に順応してきている。
だが、俺はずっと考えていた事がある。
クラナが急に喋る事ができたのも、もしかして俺の『順応』の力の影響か?
確信は持てないが、長年喋れていなかったクラナが喋り出した事が偶然だとは思えなかったからだ。
俺自身、自身の力である『順応』の全てを知っている訳ではない。
「まぁ、今考えるのは止めとこう。 クラナ、もう少し歩いたら休憩をまた挟むから、頑張れるかい?」
「うんっ! 大丈夫だよ! さっきよりも体が軽いから、休憩なんか挟まなくても大丈夫だよ」
「あはは。 そりゃすごい。 けど、クラナには悪いんだけど、その場所に俺が行きたいんだ」
「あ、そうだったんだ。 でも何で?」
「あぁ、実はそこに面白そうな反応があったんだ。 大変な時なのに悪いんだけど、俺の我儘に付いて来てくれるかい?」
「えぇぇ~しょうがないなぁ~」
クラナは腕を組み、笑みを見せながら俺をからかう素振りを見せる。
「ごめんなぁ……ここを出たらご飯奢るからさ」
「ほんとにっ? 別にそういう意味で言ったんじゃないんだけど、迅人の言葉に甘えさせてもらうね」
「分かってるよ。 ただ俺がそうしたいだけだからさ」
「じゃあ約束ね。それで、何が迅人に興味を持たせたのかな?」
「俺にもよくは分からない……お互いにとって、行ってみてのお楽しみだな」
「あはは。 何か面白そうだね。早く行こう行こう!」
クラナはそう言うとはしゃぎながら走っていく。
俺はその後姿を見ながら歩き出す。
目を留めていただき、ありがとうございました。
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