砂の中での一時
砂の中ではまだモンスターが生きており、俺へと向かって来ようとしていたが、流砂の勢いにより、うまく動きが取れないみたいだ。
俺はクラナを抱き抱えているので、クラナを抱き抱えたまま攻撃は避けたかった。
多少なりともクラナに衝撃により怪我でもされたら、自分自身を許せないからだ。
幸いにも足に絡まっていた触手は外れたので、両足に火力を籠め、一気に噴射した事で、モンスターとは違う流砂の流れに乗る事ができ、モンスターは俺達の前から消えていった。
ズボッ
「うおっ⁈」
流砂から抜け出た俺は瞬時に足に火力を出し、ゆっくりと地面に降り立った。
周囲を見渡すと、薄暗い場所に流れ着いたみたいだ。
俺は抱き抱えていたクラナを見る。
「クラナ、もう大丈夫だよ」
「……ん」
両目を瞑っていたが、俺の声を聞いたクラナは目をゆっくりと開けると、俺に笑顔を見せてくれる
「クラナ、どこか痛い所はないかい?」
「んっ!」
満面の笑みを見せ、大丈夫だと言わんばかりに体中をバシバシ叩いていた。
怪我が無い事を確認した俺は内心ホッとする。
だが、俺はこれから途轍もなく辛い思いをしなければならない。
「クラナ。なんであんな危ない事をしたんだ? そもそも、クラナはおやっさんの言われた避難場所にいなければいけなかったはずだろ?」
「ん……」
クラナが喋れない事を前提に話をしている。
厳しい言い方かもしれないが、また同じ事があってはいけないからだ。
クラナは喋れないが、言葉は理解している。
そしてまだ幼い。
なら、ここは心を鬼にしてでも、厳しく言いつけなければいけない。
だが、こちらが頭ごなしに言いつける事が、果たしてクラナに良い事なのかと言ったら、俺にだって良くない事だって分かっているし、ダメに決まっている。
だが、今言っておかなければこの先、クラナにとって良くない事が起きる。
俺自身がクラナに嫌われてでも、分からせなければならない。
今の現状だからこそ――
「ごめんなさい」
「うん。 素直に謝る事は良い事だ。 で、なんであんな危ない行動とったんだい?」
「おじいちゃんに言われた通り、避難所に居たんだ。 けど、どうしても迅人が心配になって……」
「そうか……俺の事を心配して、俺を探しにきてしまったと?」
「うん……良くない事だって分かっていたんだけど、どうしても嫌な予感が拭い切れなくて」
「嫌な予感?」
「うん……緊急のサイレンが鳴って、避難所に入る前に、フと外を見た時、赤い月に機兵が見えたの。 その機兵から怪しい雰囲気が感じ取れて」
「クラナも見たのか?」
「迅人も見たの?」
「あ、あぁ……クラナをモンスターから救い出した時、月を見たら、機兵が浮かんでいたんだ。 光だしたと思ったら、いつの間にか消えていたから、見間違いだと思っていたけど……」
俺が見たのはクラナが気を失っていた時だから、クラナが見たのはその前って事になるのか……
緊急のサイレンが鳴ってという事は、これは今回のモンスターの襲撃と何か関係があると考えておいた方がよさそうだ。
「でも、だからと言って、あそこで飛び込んできちゃダメじゃないか!」
「うぅ……だって、目を覚ましたら、迅人がアリジゴクに呑まれて行くから、体が勝手に動いちゃったんだ……」
……危っねぇ……一瞬クラナの理由を聞いたら嬉しすぎて涙が出そうになっちまった。
おやっさんに今の言葉を聞かれたら俺は袋叩きにされたであろう。
ま、まぁ、確かに、目を覚まして、そんな状況だったら俺でも飛び込んでいたかもしれない。
だが、状況をさらに悪化させると共に、おやっさんや、クルーのみんなに大きな心配や今後に支障を起こさせてしまう恐れもある。
俺ならまだ何となるが、クラナだったと思うと背筋の凍る思いだ。
まぁ、この状況で俺がいるのが幸いって事だと思い、これからの行動を考えた方が良さそうだ。
クラナ本人もだいぶ反省をしているのが感じ取れるし、本人からちゃんと理由も聞けたことだし、これ以上俺があ~だこ~だ言っても仕方がない。
ちゃんと、クラナを皆の元に傷1つ付けず、送り届けなきゃ!
そして、オレオールさん、夜煌に約束した手前、信頼して踏み止まってくれたんだ。
絶対に2人でみんなの元に帰るんだ。
「よしっ! 理由は分かった。 これ以上は口うるさい事は言わない」
「ほんとっ?」
「た~だ~し、今、ここでは俺の言う事をちゃんと聞く事! いいかい?」
「うんっ! わかったっ! 迅人の言う事はちゃんと聞くし、僕にできる事があれば何でも言ってね!」
「おうっ! その時は遠慮なく頼らせてもらうよ」
「へへへ~。 僕頑張るよ!」
「よっしゃっ! 士気も上がってきた事だし、とにかく周囲を捜索といきましょうかね」
「うんっ!」
クラナの反応が可愛すぎる。
こんな状況で、はしゃぐのは不謹慎だとは思うが、この暗い雰囲気を打破する程の元気さに、俺も元気が湧いてくる。
「それじゃ、クラナ、俺の後を付いて来るんだ。 疲れた時や、何かあればすぐに言うんだよ」
「うんっ!」
「よしっ! 良い返事だ! その意気でみんなの元に帰……える……」
あれ? 何か違和感を感じるぞ?
何だろうか……この違和感は?
「うん? 迅人、どうしたの? どこか痛むの?」
「うん? あ、いや、どこも痛くはないよ。 大丈夫大丈夫」
俺が何か考え事をしていたせいで、クラナに心配をかけさせてしまったみたいだ。
「ならいいんだけど……迅人もどこか痛む様なら、無理はしちゃダメだよ~」
「は~い。 心配してくれてありがとな。 俺は至って元気凛凜だ!」
俺はそう言い、腕を出し、力こぶを見せつける。
「うわ~! すご~いっ! けど、おじいちゃんに比べたらまだまだだけどねぇ~。 ふふふ」
「おやっさんと比べられたら、負けを認めるしかないな~」
「そうでしょ~。 ははは~」
クラナの笑い声を聞き、嬉しさと共に、俺の頭は冷静になってきた。
「しっかし、クラナはそうやって笑うんだな~」
「うんっ! 自分でもビックリだよ。 こうして迅人とおしゃべりができるんだもん」
「俺もこうしてクラナとおしゃべりができて嬉しいよ」
「えへへ~。 何か恥ずかしいけど、迅人がそう言ってくれると僕も嬉しいよ~」
「何だよ~。恥ずかしがる事なんかないだろ~?」
「ええぇ~? 恥ずかしいよ~」
「ハハハ」
「フフフ」
「ハハハ」
「フフフ」
こんな厳しい状況だが、お互いに笑い合い、俺とクラナは楽しい一時を感じていた。
「クラナが喋ってるッ⁈⁈⁈」
「うわッ⁈ 僕喋れてるっ!!」
俺が感じていた違和感……それは普通に会話をしていたクラナの事だったんだ……
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