伏されていた秘め事
「あはは、いや~見つかってしまったかい?」
「こ、こ奴はっ⁈ 偽名まで使いおってッ!! 悪びる素振りも見せんとは……」
「隠ぺいに加え、阻害魔法まで使う手の込みよう……それに加え、偽名を使われたら分かりましぇん」
「あたしだって分かったら怒って来るだろうからさ~」
「当ったり前じゃろーがッ!! 全ッ然顔も見せんし、現れたと思ったら様々な方法でワシらを欺き、尚且つ偽名を使ってワシの船に紛れ込んでおるし、怒らない道義がどこにあるッ⁈ ほれ、何か言うてみい!!」
「いや~そこまで言われたらあたしも照れちゃうじゃないか~」
「褒めとらんわ―――!!」
おやっさんはオレオールさんの胸ぐらを掴みながら怒鳴り散らしている。
この光景を見ていると二人は古くからの知り合いなのだろう事が伺えた。
しかし、何故オレオールさんは偽名、さらには隠蔽に阻害の魔法を使ってまでおやっさんの船に乗ったんだ?
「おい、オレオールッ! いつまでお前の機兵をワシに預けとくつもりなんじゃッ⁈」
「ちょ、ちょいッ⁈ グランその話は――」
俺の耳にとんでもないワードが聞き逃してはいけないと、反射的に反応する。
「オレオールさん? 俺の聞き間違いではなければ、今おやっさんが仰った事は本当なのでしょうか?」
「ぼ、坊や⁈ め、目が怖いんだけど……」
「今おやっさんが言った事は本当なんですか⁈」
「迅人よ、ワシが言った事は本当じゃてっ!! なっが~い間、ワシに預け、何の音沙汰もよこさんっ!! さぁ、二人でこのアホを問い詰めようではないか?」
「いいですねぇ……そんな薄情者は懲らしめなければいけませんね」
「よー言うたっ! ど~してやろうかのぅ、こんの大馬鹿垂れを」
「ふ、二人とも……そ、そんな怖い顔をしなさんなって……は、話せば――」
「お前を庇う者はここには存在せん!! そして、お前と交わす言葉なんぞもここには存在せん!」
「オレオールさん、何で俺に黙って――」
「ぎゃああああああああ―――」
こうして俺とおやっさんによって、迫られたオレオールさん。
あ、いや、おやっさんより理性を保っていた俺は、日頃から溜まっていたオレオールさんへの不満を目にしたら、俺の事はどーでもよくなった。
逆にオレオールさんが少しだがかわいそうに思えるぐらい、おやっさんに絞り取られていた。
♦♦
「本当はもっと言ってやりたいが、ここまでにしといてやるわい」
「……」
オレオールさんから返答はない。
相当絞られてうつぶせの状態で白くなっている。
「いつまでその状態でいるつもりじゃ? まだワシの説教が聞きたいいんか?」
「いえ、これ以上は勘弁さね」
もの凄い速さでおやっさんから距離を取るオレオールさん。
「ふんっ! っで、どうするんじゃ? お主の機兵はまだ置いとくのか?」
おやっさんの言葉に下を向くオレオールさん。
「あたしはもう身を引いたんさ……それに、長い間、あの子をほっといたんだ……さすがにあたしの事なんか愛想を尽かしているに決まってるさ……」
何故だか、オレオールさんの眼から光がスゥ―と消えていく感じが見受けられた。
そんな状態に反応したのは俺だけではなかった。
「わかった。 お前の機兵はワシがまだ預かっといちゃる」
「ほ、本当かい?」
「ただし、条件がある」
「な、なんだい?」
おやっさんからの条件という言葉に身じろぐオレオールさん。
「昔みたいに顔を見せに来んかい」
「へ?」
「二度は言わんっ!!」
オレオールさんはおやっさんの言葉を聞き、間抜けな表情を見せる。
おやっさんはと言うとオレオールさんがいる方とは逆の方に顔を向ける。
表情は見えないが、耳が真っ赤になっている。
「は、はは……わかったよ、じぃさん」
「ふ、ふんっ! わ、わかればいいんじゃ」
あんなに喧噪な状況が一変し、もじもじとするおやっさんに、ニヤつくオレオールさん。
見ている俺は何故だか、心臓の辺りが痒くて仕方がなかった。
まぁ、お互いに言いたい事も言えたみたいだし、わだかまりも無くなった。
よかったよかった。
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