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イグとドラ

「や、やぁ、ヴェル、過激な挨拶に感謝するよ……それ……で、ヴェルの後ろにいるのがイグにドラだよね」

「そうだよ。 ほら二人とも! 迅人が二人のために会いに来てくれたよ」


ヴェルがそう言うと、ヴェルの後ろでモジモジとしている仕草を見せる。


「んもうっ! 私が先に会った時すごく怒っていたじゃん! 会う順番が違うって! 私も悪かったけど、二人が中々会わないんだもん! いいかげん私だって迅人に会いたかったんだから仕方がないでしょっ!」

「そ、それはもう気にしてないの!」

「そうだよぅ~……もう気にしてないんだもん」

「なら、何でお姉ちゃんの後ろに隠れてるのさっ?」

「うぅぅぅ……だってぇ……」

「実際に間近で見たら――」

「カッコよかったか?」

「ひゃんっ⁈」

「何でヴェルお姉ちゃんは何でそうデリカシーが無いのっ⁈」

「その反応が見たくてついつい! えへへぇ」


ヴェルの言葉に怒って出てきたのはヴェルよりも若干小さいながらも発育の良いかわいい女の子が顔を赤らめながら出てきた。

顔、容姿共に二人とも瓜二つと言っていい程似ている。

双子かな?

だが、違う点が1つ。

右目を前髪で隠している女の子の瞳は青紫色で、左目を前髪で隠している女の子の瞳は金色だ。


「ほら、ここまで来たら潔く挨拶を済ませちゃいなさい」

「うぅぅ……ひゃ、ひゃじめまして⁈ あ、いや、違う! ずっと見てました!!」

「イ、イグちゃん⁈ その言い方はちょっと誤解を招く言い方かな」

「あ、い、今のは無しで! わ、私は迅人の『手』! 『蒼龍の爪拳(イグニアス)』ですっ!!」


右目を前髪で隠している青紫色の瞳の女の子は『蒼龍の爪拳』ことイグちゃん。

そして、左目を前髪で隠している金色の瞳の女の子が必然的に『蒼龍の震脚』ことドラちゃんになる。


「も、もう分かると思うけど、私が迅人の脚である『蒼龍の震脚(ドライグ)』……です」

「よ、よろしくお願いします」


お互いに挨拶を交わすと、何故だか体が軽くなった気がした。


「さっ! お互いに挨拶を交わした事だし、少しお話ししようか」

「お話って、俺今まさに生死を彷徨っているというか、絶賛落下中なんですが」

「大丈夫だよ。 ここの世界とあっちの世界では流れている時間は違うから、あっちの迅人は止まっている状態だよ。 まっ! 少しだけ話が終わったら迅人は助かると思うからさ」

「根拠が今一――」

「わ、私が迅人を助ける!」

「あ、イグだけじゃないよ! ドラも迅人を助けるよ!」

「お、おう……ありがとう二人とも」

「そういう事! はい! 二人からお墨付きをいただいた所で、ここでちょっと話をしましょう! 話し終えたら、二人がちゃ~んと迅人の力になってくれるから、心配しないでね。 それで、話しってのがね。 迅人は【始纏】を使える様になって、次は『鎧纏』を目指す事になるんだけど、今迅人の中には【龍の心(ドラゴンハート)】と【蒼炎】に【黄炎】があるんだけど、この力が迅人自身の力である【順応】のおかげで、相乗効果をもたらしてるの! そのおかげで私達も今以上に強くなる事ができるんだ。 それっていわば迅人が強くなるって事でもある」

「そうなのか⁈」


俺はまだ強くなれると聞き、胸が高鳴る。


「それでね。 迅人はもっと視野を広げて、一つに捕らわれず、様々な戦闘スタイルを確立していってほしいんだ」

「それってどういう意味だ?」

「例えば、今は格闘スタイル主だけど、剣術や魔法なんかもやっとけば戦術の幅も広がる。 だから、自分自身で戦術を狭めず、可能性を広げて行った方がいいよ。 それの方が迅人の持つ【順応】の力を存分に使える。 臨機応変にスタイルを変えられるのは相手にとって脅威になるし、迅人にとって唯一無二の存在になれる」

「随分とまぁ……こういっちゃなんだが、俺自身【順応】っていう力をちゃんと理解していない所があるんだ……ヴェルが言うに、唯一無二の存在になれるのはすごいとは思うが、他の事にうつつを抜かしていたら、他の事まで疎かになりがちにならないか?」

「大丈夫だよ。 努力を怠るのはいけない事だけど、迅人は絶対にそんな事しないでしょ」

「うん! 迅人は絶対にしない!」

「ドラもそう思う!」

「だから、努力を怠らず、今のまま頑張っていれば良いって事さ!」


三人が俺を信じてくれているのが伝わってくる。

けど俺はそこまでの男ではない。

断じて違う!

だが、こうして俺の頑張りを見ていてくれる三人の期待に何故か応えてあげたい感情が沸き上がる。

まるで昔から俺の事を間近に見ていてくれていた感覚だ……懐かしい感覚……


「自分自身と、そしてあなたの力である【順応】を信じて。 あなたが思う以上に、迅人には可能性がいっぱい詰まっているから」

「うん! ヴェルお姉ちゃんの言う通り!」

「たまにはヴェルお姉ちゃんも良い事を言う」


三人して俺の手を掴み、俺を励ましてくれる。


「こらこら! あんたら、お姉ちゃんに対する評価ちょ~っと低すぎやしないかなぁ?」

「それは日頃の行いが悪いからだね」

「迅人に意地悪をするし、順番を守らないから」

「まだ、言ってる……それだけ迅人に会いたかったの、おねえちゃんは!」

「私だって会いたかったもん!!」

「ドラもっ!!」


あれ、また喧嘩が始まりそうな予感が……?


すると、青空だった空が雲が現れ始め、徐々に暗くなっていく。


「あちゃ~⁈ そろそろ時間みたいだね」

「ええ~⁈ もう時間⁈」

「まだ話足りない」

「二人がモジモジしているからだよ~」

「「むぅぅぅ――」


二人は頬を膨らましヴェルに詰め寄る。

その姿がまたかわいい。


「またみんなに会える……かな?」

「会える?」


イグとドラは、今にも泣き出しそうな声で俺にまた会えるか聞いてくる。


すると、二人を抱きしめるヴェル。


「大丈夫。 毎回は会えないけど、また近い内に会える。 それも迅人の頑張り次第だけどね」


悪戯めいた笑みを俺に向けるヴェル。

二人の問いに対し、ヴェルが応える。

なるほど……俺次第で、会える時間が増えるって事か!


「俺も頑張ってみんなに自由に会える様頑張るよ」


俺がそう言うと、花が開いた様な笑顔を見せるイグとドラ。


「そ、その時はいっぱいお話ししようね!」

「ドラも!」

「わかった。 約束だ」


二人はニコリと笑い、後ろにいるヴェルはイグとドラを見てうんうんと頷きながら何故か涙ぐんでいた。

なぜ?


「迅人! 意識が戻ったら――」

「私達をすぐに呼んでっ!!」


イグとドラの言葉を聞き、俺の意識は消える。

そして――


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――⁈」


意識が元の世界に戻る。

絶賛落下中である。

だが、頭は冴えている。

自分でも驚く程心は落ち着いている。

そして、意識が切り替わる最後に言われた二人の言葉を思い出す……


そして……俺は両手両足を大きく広げる。

深く息を吸い、二人の名を雄々しく叫んだ。


+++++



「行っちゃったね……」

「ふぅ……うぅぅぅぅ……」

「な、泣かないのイグ! 泣いちゃ……うぅぅぅ……」


イグちゃんとドラちゃんは、迅人がいなくなると堪えきれず泣いてしまった。

そうだよね……ずっと会いたくて我慢していたよね……

そんな二人を押しのけて迅人に会いに行ったお姉ちゃんを許してくれるかなぁ?

二人を押しのけてでも会わないといけなかったの……分かっているけど、口にしない様に我慢している二人の気持ちは痛い程分かっているよ。


私は空を見上げる。


先程まで迅人が居た時は青空が広がっていたけど、今は曇り……前に比べたら良い方だ。

だってずっと雨が降っていたから……

けど、迅人が来た時だけ青空が広がる。


「あなたは私達の希望……だから、今度こそあなたを助ける」


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