深淵
「よ――しっ! 今日はここまで!」
「「ありがとうございました―――!!」」
今日の修行が終わり、夜煌は額を地面に付けながら這って移動している。
相当お疲れの様だ……
「オレオールさんちょっといいですか?」
「何だい坊や?」
俺はオレオールさんに俺の仮説を話してみた。
+++++
「う~ん……まだ始纏に行き着いていないって言いたいのかい?」
「はい」
「坊やのその武具は始纏と見てもおかしくない……けど、式才牙であるなら、始纏への変化がある。 だけど、坊やの場合は始纏から式才牙への変化がない……でも、坊やは【鎧纏】の手前まで来ているから、見落としていたねぇ……すまないね坊や。 気付いてあげるべき立場なのに、目で見える物だけに固執していたよ・・・・・・」
「あ、いや、俺がややこしいだけなんで謝らないでください」
「しかし、坊やのそれはどう見ても始纏にしか見えないし、始纏が放つ特有の力を感じるからねぇ」
オレオールさんは俺の式才牙を見る。
たしかにオレオールさんと俺の式才牙を見比べても、何というか見栄えが断然俺の方がいい。
オレオールさんの白銀は見た目、綺麗な日本刀だ。
だがそれはまだ始纏をしていない状態……言うなれば眠っている状態である。
以前白銀が始纏の状態を見たが、見た目が全然ちがう。
一目瞭然で違うと分かる程に、白銀が始纏の状態になると、場の空気も変わり、そして煌びやかになる。
そして見た目以上に性能や秘められた力が断然変わってくるし、肌にヒシヒシと感じる。
ヴェルに会った時の事を思い出す。
「『蒼龍の爪拳』と『蒼龍の震脚』も会いたがってるから、早く見つけてあげてね」
それと、オレオールさんの言っていた『纏』。
「オレオールさんが以前言っていた『纏』って何なんですか?」
「あぁ、その事かい。 『纏』って言うのはねぇ――」
オレオールさんはそう言うと、白銀を手に取る。
「『纏』ってのはねぇ、式才牙の中にいる思念体達の事を『纏』と言うんだよ」
「思念体?」
「そうさ。 この子たちはただの武器じゃない……あたし達と同じで生きているんだよ。 そして、始纏に行きつくためには、式才牙の中にいる『纏』を見つけ、対話をし、自分自身を認めさせなければいけないんだ」
「認めさせる……オレオールさんが言っていた事を、俺は1つもやってはいません」
「ただし、例外もある」
「例外?」
「『纏』が既に主を認めていた場合さね。 『纏』ってのはね、自分自身がこの世に生を受けた瞬間から一緒に存在するんだ。主が生きていく過程を見て、稀に主を認めるケースもあるし、生まれた瞬間に認めるケースもある」
「そんなことがあるんですか⁈」
「ある。 現にあたしがそうだった」
「目の前に当人がいるのであれば、説得力はありますね。でもどうやって会えばいいんでしょうか?」
「な~に、簡単な事さね。 付いてきな」
「あ、ちょっとまってください⁈」
オレオールさんの後を追い続けると、見知らぬ部屋に入る。
そこには見て分かる程の大掛かりな機械があった。
「これは……いったい?」
「これはヴァンデルさ」
「ヴァンデル?」
「瞬間移動マシーンって言えばいいかね。 あたしぐらいになると一家に一台置いてあるもんさ」
「さっすがは第一騎兵隊・隊長様です」
「元だよ、元! あたしはもうただのオレオールさ」
オレオールさんは胸を張り、ドヤ顔をする。
かわいいが、ちょいイラっとするのは言わないでおこう。
「今のは読めたよ」
「冗談です」
「ま~ったく、後で覚えておいで……さてと」
オレオールさんは掌を機会に置く。
すると、機械が動き出し、ライトアップしだす。
『モクテキチヲセッテイシテクダサイ』
「うわっ⁈ 喋った⁈」
「こんなんで驚いてたらキリがないよ」
「すいません」
「ふふふ。 さて、行き先は深淵渓谷さね」
「カシコマリマシタ。 モクテキチ、アビスケイコク……グッドラック」
淡い光が俺とオレオールさんを包み込む。
その瞬間眩い光と共に目の前の光景が変わる。
「さぁ着いたよ。 ほれボーッしてないで付いてきな」
「あ、はい」
オレオールさんの後を付いて行くと、底が見えない場所に行きつく。
「ここが深淵渓谷さ」
「す、すごい……まったく底が見えやしない」
「言い伝えによると、あの世に繋がっている程、深いと言い伝えられているさね」
「あの世と……」
「まっ! だ~れもこの底には行った事がないし、それに行きたいと思う様なバカもいない。 落ちたら最後、這い上がってこれないからね」
「落ちたら這い上がってこれない?」
「そう。 ここは風が強く、岩肌を長い年月をかけ、つるつるになっているのさ。 そのため、岩を掴んで這い上がろうにも這い上がれない。 岩も硬いから、通常の武器も効果なしな上に、この風の影響で飛ぶ事もままならない。まぁ、飛ぶ方が確率は幾分ましか……まぁまさに落ちたら最後、あとは落ちていくだけ。 ただし!」
「ただし?」
「普通の武器じゃなければ這い上がって来れるかもしれないねぇ」
ほくそ笑むオレオールさんを見た瞬間嫌な予感が過る。
「ねぇ、坊や……『纏』にはどうやって会えばいいかって聞いただろぅ?」
「は、はぁ……」
「「纏」に会うには極限状態……いわば死の淵に立たされれば『纏』に会える」
「えっ⁈」
「坊やの『纏』達によろしく伝えておいておくれ」
「ど、どういう意味――」
「またね~坊や」
ドッ⁈
「えっ⁈」
俺はオレオールさんに背中を押され、視界が反転する。
オレオールさんはいたずらっ子の様な笑みを俺に見せ、手を振っていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――⁈」
凄い速さで底の見えない暗闇へと落ちていく。
体を翻して上を見るが、陽の光が徐々に消えていく。
なんとか落ちる速度を軽減しようと壁を触るもやはり滑ってしまい、掴む事ができない。
俺は瞬時に『蒼龍の爪拳』と『蒼龍の震脚』を出す。
ガキィィィィィィ――
「ダ、ダメかっ⁈」
金属音が鳴り響くと同時に、火花が散り、そして弾かれてしまう。
オレオールさんが言っていた事を思い出す。
普通の武器では硬い岩肌には効果はないと……だが、これで俺の仮説が正しかった事がわかった。
俺の今の状態はやはり始纏ではないという事が!
だが――
「今はそんな事よりもこの状況をどうにかしなければいけないだろうが!!」
とにかくこの落下速度を落としつつ、浮上しよう!
俺は掌に魔力を集める。
「蒼炎の烈風!!!」
勢いよく噴射される蒼炎の烈風により落下速度は徐々に和らいでいく。
それと共に浮上を行う。
「た、頼む……もってくれ……」
物凄い勢いで蒼炎の烈風は放出されるが、吹き荒れる風によって、勢いが1つに定まらない事に気付く。
そのせいで、放出する勢いを強くし続けなければいけなく、魔力の減りが尋常じゃない。
ちょっとずつ浮上をしていく俺だが、まだ日の光が見えない。
それ程までに落ちてしまった事になる。
だが、終わりはすぐにやってくる。
「く……そ……」
俺の魔力が底をつくと、俺の意識も暗闇へと落ちていった……
+++++
「やってくれたぜ!!」
気が付いたら見覚えのある景色が広がっていた。
「思い出した。 ここはヴェルと出会った時と同じ場所だ」
「正っっっ解っ!!」
「ぐへっ⁈」
突然強い衝撃が頭に来る。
それと同時に聞き覚えのある声が聞こえた。
「な、なんだっ⁈」
後ろを振り返ると、ヴェルと、ヴェルの後ろに隠れている二人の女の子がいた。
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