共に
そうだった……話が逸れに逸れて、何でこうなったのかを忘れていた。
「話は聞きました……夜煌が俺と一緒に外の世界に行きたいと言っていたと」
「その通りであります! どうか吾輩を連れて行ってくれないでありますか⁈」
「え、いや、それは俺が決める事ではないし……」
俺はそう言うと、夜煌の親である二人に視線を向ける。
「そうですな……やはり夜煌にはここに残って――」
「迅人様、どうか夜煌を連れて行ってもらえませんか?」
「なっ⁈ や、夜宵っ⁈」
「母上っ!」
夜峩さんが言い切る前に夜宵さんが間に割って入り、答える。
それはまさかのGOサイン。
俺も驚いたが、一番驚いているのが夜峩さんだ。
「や、夜宵さん……昨日話していた話していた内容と違うんじゃ?」
「昨日は昨日! まず今日、今夜煌に起きた事を考えたら、昨日の考えは一瞬で消えたわ」
夜宵さんはそう言い切ると、俺の前まで歩み寄る。
「夜煌ここに来なさい」
「は、はい! 母上!」
「どうか、我が娘を迅人様と一緒に連れて行ってもらえませんか? 迅人様の身の回りのお世話はさせる上に、この子の事は自分自身でさせる様言い聞かせます。 夜煌はまだ未熟な上、迅人様にご迷惑をおかけすると思います。 死ぬような事もあると思います。 ですが、その時は見て見ぬ振りをされても構いません。 だからと言って迅人様を恨む事もいたしません。この子が言い出した事ですので……ですから……それでも、迅人様と共に歩む事をお許しいただけないでしょうか?」
「母上……」
夜宵さんからは真剣さと、娘を思う気持ちが強く感じ取れた。
夜峩さんは血の涙を流している……何故⁈
すると、後ろから巌樹様の手が俺の背中に触れる。
巌樹様は俺を見てジッと見つめる。
『あとはお主が決めるんじゃ』と言わんばかりの眼差しだ。
う~ん……最終的には丸投げか……このゴリラ……おっと、イカンイカン! 今はそんな事を考える時ではない! 焦る時間でもない! チラッと仙○さんが浮かんだ。 だが、皆が俺を見ている! 正直焦る。 俺には時間がない。
一瞬で仙○さんが消える。 すいません。
つか、正直俺に夜煌を預けるメリットはあるのだろうか?
どちらかというとマイナス面が多い気がするんだが……だが、この空気で断る訳にも……あ~もぅ!
「わかりました! 俺で良ければお受けいたします。 ですが、夜宵さんの言った事に対し、俺は約束できません。 俺は夜煌がもし危ない目にあったら助けますよ。 夜峩さんや夜宵さんに怒られても俺は助けます。 俺は決めたんで……ある人と約束したんで……俺が人生を謳歌するには、困っている人がいると困るんです。 それじゃ後になって後悔しますし! いや、全員を助けるって意味ではないですよ! 嫌な奴を助ける義理はありまあせん! そこは譲りません! そんなに器は大きくないんで! 助けたいのは俺が家族、仲間と思う人たちや、力なく困っている人……ダメだ……言い出したらキリがない! とにかく! 俺が言いたいのはっ! 夜煌は俺の仲間なので、助けますって事です!!」
俺が言い切ると、皆キョトンとした顔をしている。
それもそうか……考えも的らずに言い出した俺が悪い。
ちゃんと伝わっていないのも無理はない……すいません。
「わ、吾輩は迅人殿のお荷物にはなりません! 吾輩は強くなり、そして、父上、母上、一族の皆、迅人殿に、それに巌樹様を守れる程に強くなるであります!! ですから、迅人殿! 不束者ではありますが、粉骨砕身頑張りますので、よろしくお願いしますであります!!」
何気に夜煌が巌樹様を思う気持ちが下なのは触れないでおこう……
「お、おう! 一緒に頑張ろうな、夜煌!」
「はいっ!」
夜煌の決意表明を聞き、お互いにやる気がグンッと上がる。
「迅人様ご決断いただきありがとうございます。 それでは夜煌には今後の事について話をしたいと思いますので、お時間をいただきたいのですが……申し訳ございませんが、また3日後にご足労いただく事は可能でしょうか?」
「わかりました。 それでは3日後に来ます」
「ありがとうございます。それでは今日はこれにて失礼いたします。 ほら、あなた、いつまで不満そうな顔をしているんですか⁈ 行きますよ」
「わ、私はま、まだっ⁈ い、痛い痛い! 耳を引っ張らないで!!」
夜峩さんは夜宵さんに耳を引っ張られながら連れて行かれていく。
そんな姿を見ていると、フと袖を引っ張られる。
横を見ると、顔を赤くした夜煌がいた。
「あ、あの……は、迅人……またであります」
「お、おう! またな夜煌」
「ふふふ……ハイであります」
夜煌のお猿さん姿は可愛らしいが、見た目が人間の夜煌は違う意味で可愛すぎる。
一瞬ドキッとしちまった……
走り去る夜煌を見送り、なんやかんや、短時間で色々とあったなぁと思い返す。
そうだ! 良い事を考えた! オレオールさんに頼んで、夜煌も一緒に修行を付けてもらえないか聞いてみよう!
あ、いやでも、すんなりと了承してもらえるだろうか……
まぁ、なんとかしないとな……今何を考えても仕方がない。
お腹も減ったし、今日は帰るとしますかね!
「さて、帰るか」
「帰るかじゃないじゃろうが! 何、ワシ居ないみたいな空気感出しとんのよ! 最後にお主に言いたい言葉がある」
「聞かないといけませんか?」
「な~に、さっと終わるわい」
「何ですか?」
「わし、別に傷ついてないんだからね」
夜煌の巌樹様に対する気持ちが下だった事に気付いていたんだな……
「わし、後でちゃんと夜煌に謝ろう」
「それがいいと思いますよ」
俺は巌樹様の脚を優しく撫でる。
なんだかんだで、俺はお茶目な巌樹様が好きだ。
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