変化
「何でありますか⁈ このあり様は⁈ いい大人が、お互いのふざけ合いからケンカへと発展し、あまつさえ、引くに引けない状態になり、危うく取り返しの付かない結果になるところであったではありませんかっ!!」
「は、はい……すいませんでした」
俺は黒髪ロングの可憐な女性に正座をさせられ、怒られている……ちなみに巌樹様も一緒に正座をしている。
何故だ?
何故こうなった?
俺は夜峩さんの方を向くと夜宵さんは横にいる事を確認する。
あれ?
この方は夜宵さんではない?
もしかして夜峩さんみたいに姿が変わったのかと思ったけど違うみたいだ。
つか、夜宵なんかすごい感動してない?
夜峩さんに至っては、喜んでいるのか、泣いているのか分からん……浮き沈みが激しいぞ。
ここにいるメンツで、唯一いないのが夜煌である。
「――でありますか、もう二度とこの様な事の無い様気を付けて――」
「え、え~っと、もしかして夜煌なのか?」
「またでありますか? 吾輩を男と見間違えるだけでは飽き足らず、今度は誰なのかも分からないと⁈」
「あ、いや、だから夜煌でいいんだよな?」
「そうであります! まったく……見れば吾輩だとすぐ分かるではありませんか!」
「いや、夜煌……お前のその姿を初めて見たもんだから」
「吾輩の姿がどう変わったと言うでありますか⁈ 吾輩は……あれ? 迅人殿との顔の距離がいつもと違い近い様な?」
「そりゃ、夜煌が大きくなったからな」
「吾輩が大きく? 何をバカな事を……あれ? 吾輩の可愛らしい手が……それに頭が、え? なんでこんなに髪がなが……え? 黒い毛に覆われた吾輩の体も……」
どうやら自分に起きている事に気付いたみたいだ。
「ふぇ⁈ な、何であります⁈ これは⁈」
「うおっ⁈」
突如上着を脱ぎだす夜煌さん。
形の良い二つのお山がこんにちわわぁ~っとお顔を出す。
俺は一瞬の事だったが、なんとか自身の手で視界を遮った。
うん、ちゃ~んと遮ったんだからね。
「夜煌ダメでしょ~。 迅人様の前ではしたない。 ほらちゃんと仕舞いなさい」
「あ、母上⁈ こ、これは⁈ 吾輩にいったい何が⁈」
困惑している夜煌に対し、夜宵さんは優しく微笑む。
「おめでとう夜煌。 あなたは『九悶一角』の第一悶である六塵悶が目覚めたのよ」
「わ、吾輩が……本当でありますか?」
「今の姿……あなたの本能がなりたい自分へと形となって今の姿になったの。 それが六塵悶。 その姿が何よりの証」
「母上……」
夜宵さんの話を整理するに、夜煌は第一悶が目覚めた事により、今の姿なったという事になる。
夜峩さんは人間の様であり、野生身を残した体型をしていた。
だが夜煌は野生味など一切ない。
見た目がほぼ人間なのだ。
「母上……吾輩の姿はまるで人間の様でありますぅ……」
「いいのよ。 それが、あなたが望んだ姿なの。 だから恥ずかしがる事はない。 夜煌はお母さんの血をより濃く受け継いでくれてて嬉しいわ」
「まさか……母上もなのですか?」
「ふふふ……みんながいない所で見せてあげるわね」
女性陣は盛り上がっているが、男性陣は喜んでいいのか悪いのか悩んでいる。
とくに、夜峩さんは先程も言ったが、喜びと悔しさを混ぜ込んだ反応を見せている。
「くぅぅぅ……夜煌はやはり夜宵に似ててよかった……しかし、覚醒するのが早い……、このままだといずれ私を超えてしまうのも時間の問題……父親としての威厳が……鍛錬を増やして第九悶まで……」
何やら一人でごにょごにょと何か言っているが、まぁ、喜んでいるみたいだ。
「いや~しかし、あの歳で第一悶である『六塵』に目覚めるとは……しかし、あの黒い雷……迅人の力は周りの者を活性化する作用もあるようじゃのぅ」
「俺の力……『順応』の事ですか?」
「うむ」
たしかに、俺が認めた者なら灼熱の場所、極寒の場所でも普段通りに動くことが可能になる。
だが、自分自身以外にも他人を成長をさせる作用があるのは初めて知った。
いや、ただ単に、夜煌は目覚める寸前だったのでは?
「夜猿一族が、『六塵』に目覚めるのは18歳ぐらいが平均何じゃ。 早い者でも15じゃ……夜煌はまだ12歳……そう考えると、『六塵』に目覚めるには早過ぎる。 まぁ、もともと夜宵と夜峩の娘であるがゆえに、目覚めるのは早いとは思ぅっとったが……」
「もしかして夜宵さんも早かったんですか?」
「左様……夜宵は15になったと同時に『六塵』に目覚めたわい。 夜峩は16歳。 二人とも目覚めるのは早かった」
「血筋は争えないってことっすねぇ……それよりも、いつまで俺達正座をしていなくちゃならないんですか?」
「い、いや……あの盛り上がっている所に水を差すわけにはいかんじゃろうて……」
「迅人よ、何か面白い話をせい。 それで時間を潰すぞい」
「はあっ⁈ 急に何を言い出すかと思えば面白い事を言えですか⁈」
「じゃて……正座をさせられておるのじゃ、気を紛らわせるのは面白い話し一番じゃろぅ?」
「だ、だからといってそんないきなり振られるのは違くないんじゃ⁈」
「なんじゃ? 面白い話の1つや2つぐらいないのか? 詰まらん奴じゃ」
「その言い方酷くないですか? いきなり振られて面白い話をしろだなんて……あるに決まってるじゃないですか!」
「あるのかっ⁈ その返答だとてっきり無いものだと……落として上げる……出来る者の入り方じゃな! さっすがじゃ! して、どんな話なんじゃ?」
「わかりました。 実は――」
結局、俺達に気付き、解放してくれるまでに1時間はかかりました。
俺はその間、面白い話を3つ言い切りました。
巌樹様は腹を抱えて笑っていました。
本当だよ……?
+++++
「「「すいませんでありましたっ!!!」」」
夜煌だけではなく、夜峩さんに夜宵さんまで謝ってきた。
あの後、俺達に気付いた夜煌は、俺と巌樹様が楽しく話している姿を見て、反省していないと思い、俺と巌樹様目がけて黒い雷をぶっ放してきた。
だが、夜煌達が盛り上がっている間、俺と巌樹様は正座を崩さず、ずっと待っていたと言うと誤解が解け、謝ってきたというわけだ!
「あ、3人が謝る必要はないですよ。 元々俺が発端だったんだですし……夜煌ほんとごめんな……俺があまりにも鈍感すぎて、夜煌を悲しませてしまった。 この通り、反省している」
「迅人殿……もぅ気にしないでくれでありますよ。 吾輩も思い当たる所もあるでありますし、男だと思わせる仕草や言動もあったでありますから……母上とも話はしましたが、これから女性らしさを磨くと共に、もっと強くなるであります! ですから、今度からは一人の女性として吾輩を見て欲しいであります」
うん?
なんだ?
な~にか引っかかるんだが……まぁいいか!
誤解も解けたわけだし、これからは男じゃなく、女ですから対応を間違えないでくださいって事ね!
OK!
俺は絶対に間違えない!
俺は反省をし、繰り返さないのが俺!
でもな~んか俺と、夜煌の受け取り方のニュアンスが違うよ~な――
今度は夜煌が正座をし、俺を上目遣いで俺を見る姿はとてもかわいい。
しかし、涙ぐんでいる姿はとても心が痛む――
「迅人殿、大丈夫でありますか?」
「うん? あ、大丈夫だよ! 俺もちゃんと夜煌を一人の女性として接していくからさ」
「ホントでありますかっ⁈ ありがとうであります! やった~! 母上聞きましたか?母上の言った通りに言ったらすんなりいきましたであります!!」
「ふふふ。 よかったわねぇ~夜煌。 お母さんも嬉しいわぁ」
あれ?
なんか夜宵さんの笑みが怖くなかったか?
しかも俺を見て……俺の見間違いか?
今は我が子が喜んでいる姿を見て、微笑んでいる母親の顔をしている。
き、気のせいだ……そう気のせい!
俺はこの場の空気を変えなければいけないと本能が言っている気がしたので、隣で二人の仲睦まじい光景を見て笑顔になっている爺様へと矛先を変えさせる。
「そ、それに、俺はこのまま正座をして待っていようと言ったんだけど、巌樹様が暇だからって言うもんだから、仕方な~く話していたネタが巌樹様にとても受けたみたいでさぁ……巌樹様が楽しそうな姿を見ていたら、話しているこっちまで楽しくなっちゃって」
「チッ⁈」
夜宵さんから舌打ちが聞こえた気がしたが、聞かなかった事にしよう……
「おい、スゥ―ッとわしが発端みたいな言い方は……正直、お主にそんな期待はしちょらんかったんじゃが、ま~さかわしの心に刺さるとは思いもよらんかった……ま、まぁ、言い出しっぺはわしじゃしぃ……そこは謝ろう。 しか~し! 夜煌よ! ちゃ~んと状況を確認もせず、いきなり魔法をぶっ放すのはいかん! その辺はしっかりと反省せい」
「申し訳ありませんでした」
夜煌が素直に謝る。
いつの間にか立場が逆転しているが、話がややこしくなるんで、ここは静かに聞いていよう。
俺もこれ以上追及されるのは困る。
「分かればよろしい。お互いに落ち着くとこに着いたんじゃ。 ここで本題に入ろうと思うんじゃが、どうかのぅ?」
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