本気のふざけ合い
「おい、迅人よ⁈ わしの尾を離さんかっ! あ、痛い痛いっ⁈ 何故⁈ 何故力を籠める⁈」
「巌樹様逃げるでしょ! 逃がすわけないでしょうがっ! もっと早くに、そして、紛らわしい言い方をしなければこうにはなりませんでしたよね?」
夜煌の方を見ると、俺と巌樹様から視線を逸らさず、そして、目には涙を溜め、あ、今一筋の涙が流れた。
「いや、わしのせい⁈ わしはてっきり気付いていると思っておったし! お主がただ単に鈍感なだけじゃろうが? ちがうかのぅ? う~ん?」
「……」
くそっ!!
そのニヤつく顔がムカつく!
だが、正論すぎて言い返すにも言い返せない。
分かっている……俺が鈍感だったために、夜煌がこうして涙を流している事も俺のせいだって事も……
だが、苦しい言い訳にしか聞こえないかもしれないが、夜煌は見た目がかわいい黒いお猿さん。
夜宵さんみたいに出ている所とか、所作、言葉使いとか、女性らしい所があれば俺だって気付いたはず……いや、これも苦しい言い訳にしかならない。
とくに、これは俺の独断と偏見からだが、自分の事を吾輩と言う者に対し、真っ先に男だと先入観が入ってしまうだろう……だが、夜煌はまだ、子どもだ。
子ども特有の高い声……声変りをしていない事を考慮して判断するべきだったのに、男の子だと何故決めつけた⁈
ダメだ……何を言っても言い訳にしか聞こえない。
……完璧に俺の落ち度だ。
「夜煌よ……かわいそうに――」
「巌樹様は黙っていてくれであります! 巌樹様も分かっていながら迅人殿をからかっていたであります! そして、吾輩の気持ちをどうして迅人殿に言ってしまうのですかっ⁈」
「はうっ⁈」
巌樹様は夜煌の言葉を聞き、自身の過ちの大きさに気付き、ガクッと項垂れる。
俺はその姿を見てスカッとする。
がはは!
夜煌いいぞ、そのまま巌樹様に当たり散らし怒りの矛先を――
「迅人殿……巌樹様を見て安心するのは早いであります。 その顔を見れば何を考えているのか丸わかりであります」
「すいません」
くそっ!
夜煌の怒りの矛先を変えられると思ったのに!
夜煌に俺の心を見透かされる……馬鹿野郎……自らフラグを立てるような事をなぜ考える!
それと、感情を顔に出す事は気を付けようっと……
あ、横に視線をずらしたら、夜煌から見えない角度で巌樹様が俺を見て笑っているのに気付く。
「ふんっ!」
「ぐああああ――⁈ 目がああああああ――⁈」
ニヤつく巌樹様の大きな目に向け小さな蒼炎を投げつける。
図体がデカいからといって、調子こいているとこうやって痛い目に遭うんだよ。
デカければいい的になりやすい事を分かるといいさ。
「ぬぅぅぅぅ……やりよったな……ていっ」
「ぐおっ⁈」
巌樹様は涙ぐみながら目を抑えている逆の手で、俺をデコピンで吹っ飛ばす。
俺は岩に勢いよくぶつかり、ぶつかった勢いで岩が粉々になる。
お~やったなぁ……人を馬鹿にしといて、やり返してくるかぁ……俺はすぐに起き上がり、元居た場所へと戻り、巌樹様に詰め寄る。
「おいっ⁈ それは反則だろ! その大きな手でデコピンは最悪死ぬだろうがっ!!」
「な~にを言うか⁈ お主が先に仕掛けてきおったではないかっ⁈ わしはちょ~っと笑っただけじゃのに、それに腹を立ておって……つか普通目に向けて炎をぶっ放す者がどこにおる!」
「ここにいますけど?」
「ここにいますけど? っじゃなあああいっ! さら~っと言い放ったその言葉を聞き、わしの心臓は凄い早さでドキドキしておるわ!!」
「ドキドキしているって……それって生きている証じゃないですか~!」
「おおおっ! そうじゃな、わし生きてる……って喜ぶとでも思うたかああああっ! つかその顔止めいっ! そう、その顔じゃ! その指さしも! 『え、私何か間違った事言ってます?』と言わんばかりのその顔! その顔じゃ! それも止めい! あ、その純真無垢な子どもの様な表情をしてもダメじゃ! 純真無垢な子どもでも、目に向け炎をぶっ放したら怒られるのが普通じゃからな! だから表情を変えても良いにはならんっ! 逆にムカつくわっ!!」
「ちゃんと目に支障が出ない様、加減はしときました。 ニッ!」
「おおっ、そうか! ちゃんと加減をしてくれておったか……わし嬉しい……じゃないわあああっ!! 何さら~っと加減はしときましたみたいな言動はっ⁈ しかも言い終えた後のスマイル! な~にが『ニッ!』じゃ! 逆に引くわっ! それでも投げて良い理由にはならんし! 無防備な相手に加減をしようとも炎を目に向け投げるのはダメに決まっとろうがっ!!」
「はぁ……その図体は見せかけですか? そのぐらい大きな図体ならあれぐらいの炎焼け石に水だと思っていたんですが……その図体と心の器は比例しないんですね? つか、そっちこそ、岩が砕ける程のデコピンを俺に喰らわせたじゃないですかっ⁈」
「いやいや、わしはほんのチョン? っと触れただけじゃて。 お主が大袈裟に転げ飛んでっただけじゃろうが! わしの方がちゃ~んと加減はしとったわい。 つか、お主わしの図体だとか、心の器だとか持ち出すのズルくない? そういう風に言う奴ほど器が小さいんじゃて! あ、お主は体も小さい上に、器も小さいんじゃのぅ。 ぷぷぷっ!」
「人間の身長なら俺はデカい部類に入るんですぅぅぅ! そっちがそう言いますか? へぇ~そうかぁ……そうだなぁ……そうだったんだですねぇ……なら俺も巌樹様程とはいきませんが、加減はさせていただきますね」
「お、おい……なんじゃ、その上げた手は? わしに向けるでない!!」
俺は先ほどとは違い、大きな蒼炎を作り出す。
大丈夫。
見た目ほど威力はない。
ちゃ~んと加減はしています。
「おいっ⁈ 先ほどよりも大きいではないかっ⁈」
「大丈夫です。見た目よりも威力は抑えていますから」
「ぬぬぅぅぅ⁈ お主がその気なら、わしも見た目以上に加減をし、対応してやろうではないか!!」
そう言うと、巌樹様の拳が大きくなり、そして、拳を岩がコーティングされていく。
「おいっ⁈ 拳が大きくなるだけでもダメなのに、拳を岩でコーティングするのはずるいぞっ⁈」
「何を言う。 これは見た目はあれじゃが、ちゃんと加減はされているから安心せい」
「安心できるかあああっ⁈ それは反則だぞ! そっちがその気なら、俺はもっと加減してあげますよおおおおっ!!!」
「何を言うかあああああっ!!! わしはも―――っとも―――――っと加減をして相手してやるわああああああっ!!!!」
お互いの負けず嫌いが相まって、引くに引けない状態へと陥っていく。
「ぬあああああああ―――!!!」
「ぬおおおおおおお―――!!!」
お互いの負けず嫌い……いや、ただのおふざけがまさかこの様な結果になろうとは……俺と巌樹様の力と力がぶつかり合う。
「止めるでありま―――――すっ!!!」
ぶつかり合う瞬間、耳を劈く程の叫び声が聞こえると、俺と巌樹様の間にもの凄い速さで割って入る黒い雷により、寸でのところで止められる。
俺と巌樹様は突然の事で、呆気に取られ、お互いの負けん気が消え去る。
そして、俺と巌樹様は我に返ると、間に挟まれている黒い雷に目が釘付けになる。
そこには黒く、迸る雷に纏われた可憐な女性がいた。
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