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成長速度

「お、お主、いったいどうやって……⁈」

「どうしましたっ?! 何をそんな驚いているんですか?!」

「お主気付いておらんのか⁈」


巌樹様のこの驚き様は以上だ。

だが、巌樹様がここまでの驚きを見せる理由が俺には思い浮かばない。


「その顔を見ると、どうやらお主自身は本当に気付いておらんようだな」


巌樹様はそう言うと、その場に座り込む。


「お主に以前『黄炎』を譲ったのを覚えておるな」

「はい。 それはつい最近の事なんで忘れる事はありえませんよ」

「さらには、お主に渡した『黄炎』は小さいもので、今のままでは何もできないと言ったのも覚えておろう」

「はい……覚えていますけど……」


すると、巌樹様は俺の方を指さす。

正確に言うと俺の胸を指さしている。


「確認のためなんじゃが、今ここで『黄炎』を出してくれんか? 『蒼炎』を出すイメージで、『黄炎』を出してみるがよい。 色をイメージする様にやると出やすいぞ」

「わ、わかりました……『黄炎』は黄色をイメージっと……えっ⁈」

「これは……想像以上を行きよる」


俺は巌樹様の言う通りに、『黄炎』を出したつもり……だった。

だが、俺は巌樹様から譲り受けた時の『黄炎』は今にも消え入りそうな炎の塊だったはずなのに、俺の掌にはその時の陰りなどどこに行ったと言わんばかりに大きな黄色い炎が出てきた。

そして、ゴォォォォと音を立てながら、それは立派な黄色い炎。


「わし……そんなに持って行かれたんか?」

「はい? 巌樹様今何か言いましたか?」

「あん? な、何も言うてはおらんわ! 気のせいじゃて!」

「そ、そうですか?」


巌樹様が何やら焦っている様に見えたのだが、気のせいだったみたいだ。


「しかし、これ程までに成長をするとは……しかもこの短時間で……わしの回復速度よりも速いと言うのか? 今のわしよりも大きくなっておる」

「はい?」


さっきからごにょごにょと何か言っているがよく聞こえない。


「いや、気にするでない」

「何か不味い事でもありますか?」

「いや、ここまで成長している事に驚きを隠せずにいただけじゃて」

「そうだったんすね」

「うむ。 このまま『黄炎』を育て上げるのじゃ。 どうやら『黄炎』はお主の中がとても居心地がいいみたいじゃからのぅ」

「あぁ……そうなんですね。 あ、巌樹様にお伝えしたい事が――」


俺はオレオールさんの下で修業を付けてもらう事を巌樹様に伝えた。



+++++



「ほほぉ……そうか……あのオレオールがのぅ……弟子を採らんくなってからだいぶ時は進んだが……そうか……前に進み始めたんじゃなぁ……良い事じゃ」


巌樹様は優しそうな笑みを浮かべる。


「オレオールは良き指導者じゃ。 お主に足らんとこをしっかりと教えてくれるじゃろう。 お主も教えてもらうばかりではなく、教え以外のところでもオレオールを見て、学び、吸収するんじゃぞ」

「はい!」

「良い返事じゃ。 時に、お主に話しておく事があるんじゃが、よいかのぅ?」

「俺にですか? 何でしょうか?」

「実は……夜煌の事なんじゃ」

「夜煌がどうしたんですか?」

「実はのぅ……お主の戦いを見た夜煌が、お主に感化されて、お主と共に外の世界に出たいと泣きじゃくるわ~、ゴネにゴネてゴネ過ぎてのぅ……夜峩と夜宵も困り果てておったわい。 いつもは聞き分けの良い子なのじゃが、今回ばかりは諦めきれんみたいでのぅ……」

「あの夜煌がゴネて……あぁ、そういう事か!」


夜煌は会うや否や、俺に何か伝えたそうにしていたが、そういう事だったのか!


「お主の戦う姿がとてもインパクトが強かったみたいでのぅ」

「いや、俺の戦う姿よりも、夜峩さんの戦う姿の方がインパクトデカかったと思いますけど。 あそこからの変身は心躍りましたよ!」

「ま、まぁ、それにも感動はしておったみたいなんじゃが……夜峩は夜煌の反応を見て寂しそうにしとったけど……ま、まぁ、お主は夜猿の皆を穢れから救った。 穢れから戻す事は通常皆無に等しい。 そして、夜煌は両親の死を覚悟しとった……じゃが、お主が何食わぬ顔で皆を穢れから元に戻した……そんな絶望的な状況をひっくり返した者に惚れない訳がないじゃろ~が」


巌樹様の表情を見ると、夜峩さんは相当へこたれているんじゃ……でもさっき俺と会った時は平然としていた……あぁ……そういう事か……夜峩さんの心中を察した俺は、夜峩さんの男気に感謝した。


「お、俺なら夜峩さんのあの戦う姿に憧れますけど……しかし、俺や夜峩さんに憧れるのは分かりましたけど、巌樹様さっきから惚れる惚れるって、言葉のニュアンスが違ってきますよ」

「何がじゃ?」

「何がって……憧れと惚れたとではニュアンスが違うって事ですよ~!」

「何を言うとるんじゃ?」


巌樹様は俺の言っている事を本当に理解していない素振りを見せる。

あれ……俺間違ってるのかな?

巌樹様の素振りを見ていると、俺が間違っている様に思えてきた。

でも巌樹様の仕草がかわいいんだが――


「いやいやいや! だから、俺は男で、夜煌も男――」

「夜煌は女じゃぞ」

「いや、だ~か~らぁ、俺は男で、夜煌はおん……女?」

「じゃからそうじゃと言うておろう! 夜煌は女じゃと!」







「マジ⁈」


巌樹様の放った衝撃的な言葉を聞き、俺の思考が止まった事は言うまでもないだろう。


そして、困惑している俺にさらに追い討ちを掛ける問題が生じる。。


「う、嘘であります……初めてお会いした時から今の今まで、迅人殿は吾輩を男だと思っていたのでありますか?」

「えっ⁈ 夜煌っ⁈」

「わし知らん。 ふげっ⁈ こ、こらっ! わしの尾を掴むでない!」


後ろを振り返ると、心臓が飛び出る程の驚きが俺を襲う。

そこには目に涙を浮かべ、俺を見つめる夜煌がいた。

そして、巌樹様はこの場から消えようとしたので、逃がさない様、俺は巌樹様の尻尾を咄嗟に掴む。

夜煌、お前夜宵さんに捕まっていたんじゃないのか⁈

いったいどうやってここに⁈


だが俺の疑問はすぐに解決する。


「あれ……夜煌の後ろに……おいおいおいっ⁈」


夜煌の後ろに視線を移すと、四つん這いになり、息を切らしすごく苦しそうな黒い……嘘だろ⁈

夜峩さんに夜宵さんじゃないか!


「ハァ、ハァ……すいません巌樹様……迅人殿……」

「ハァ、ハァ……夜煌ったら、いつの間にこんな素早くなったのかしら……お母さん嬉しいわ」


一方は夜煌を止められず、申し訳なさそうな表情を浮かべる夜峩さん。

もう一方は、我が子の成長に感動している母親の姿があった。


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