優しさ
俺はオレオールさんと話し終え、次の日を迎えた
「おはよう坊や。 よく眠れたかい?」
部屋から出ると、オレオールさんは刀を振っていた。
「はい。 部屋を貸していただきありがとうございました」
「気にする事はないよ。 それに、これだけ部屋があれば使わせない方が勿体ないさね」
「ははは……しかし、本当に日本の高級旅館をそのまま持ってきた、いや、それ以上の作りです。 あ、俺、高級旅館なんて泊った事なかったんだ。 あ、でも雑誌やネットでは見た事はありますよ」
「坊やが喜んでくれているのならあたしも招いた甲斐があったってもんさ」
「はい。 すごく楽しかったです。 とくに温泉は豪華に加えデカいのなんのって……あの、できたら次からは急に入ってくるのは……」
「なんだい? あたしの体はお気に召さなかったってのかい?」
「ちがう、違います」
「何が違うって言うんだい? あたしの体をマジマジと見ていたじゃないかい?」
「見て、いやいや、あれは不可抗力であって――」
「で、あたしの体はどうだった?」
「とても魅力的で、引き締まったお体でした……あっ⁈」
「氷歌には黙っといてあげるさね」
「くそっ!!」
「はーはっはっは!」
まんまと嵌められた俺は、いたずらに笑うオレオールさんをただただ、睨む事しかできなかった。
「はぁ~、笑った笑った! 朝から笑う事なんか久方ぶりさね」
「こっちは笑えませんがね」
「そう怒るんじゃないよ~。 坊やは別に損をした訳じゃないんだ」
「いや、誰が損したとかどうとか――」
「坊やはこれからあたしの下で修業をするんだ。 これぐらいで慌てふためくんじゃ~ないよ! まぁ、とにかく、あたしと一緒に風呂に入った男はあんたが初めてなんだ。 光栄に思うんだねぇ」
「ますます話がややこしくなってんじゃねぇかっ⁈」
これがもし氷歌の耳に入ったらと思うと……気が気じゃない……
はっ⁈
突然背中に悪寒を感じ、背後を見るが何も無い。
「どうしたんだい? 急に後ろなんか見て? はは~ん……もしかして――」
「それ以上言ったら後悔しますからね」
もし氷歌の名前を出してみろ!
ここにいなくとも、俺の表情を見ただけで、氷歌は俺の機微にすぐに気付く!
そして、オレオールさんとの修業をだってすぐに耳に入るに決まっている。
確実に、氷歌は俺にオレオールさんとの事を聞いてくる。
氷歌の前では隠し事なんかすぐにバレるんだ!
だからこそこのフラグは絶対に立たせてなるものか!
「あ、あぁ……分かったよ……それで、今日の予定は?」
オレオールさんは俺の鬼気迫る表情を見て、少しは俺の心情を理解した反応を見せてくれた。
「実は今日ダンジョンに潜ろうかと思っておりまして」
「そうかい? ならこっちも都合がいいさね……お互いに今日は1日フリーで動こうかね?」
「はい……では明日からオレオールさんの下でお世話になります」
「あぁ、承知した。 それと、これからはあたしの家で寝泊まりするんだよ」
「いやいや、それはさすがに――」
「いいんだよ。 この考えはいくらなんでも覆らないからね」
意思の硬さが伺える目をしている。
「はぁ……わかりました。 お言葉に甘えさせていただきます」
「物分かりが良くて何よりだよ。 さぁ、朝食を食べちまいな」
オレオールさんが人差し指を上に上げると、食事が現れる。
「これは⁈」
食卓には日本で馴染のある食事が用意されていた。
「口に合うか分からないが、よければ食べるといいさね」
「いやいや……」
鼻孔を刺激する良い匂い。
「いただきます……美味い!」
「そりゃよかった……坊やの口に合ってなによりさね」
「日本料理に対してもそうですが、ここまで日本に馴染のある食材を用意するのは大変だったんじゃないんですか?」
「別に苦労ってのはしてないよ。 日本の食材、調味料は全てここで育てているし、あたしは元々料理をするのが好きな方だったからねぇ」
「全て?」
「あぁ、そうさ。 日本にある食材、調味料はここで育てているんだよ」
「すごいですね……え、い、今これ全部オレオールさんが作っているんですか⁈ 使用人がいるのに?」
「だからそう言ってるじゃないか」
これは驚きだ!
日本ではよく見る食材なのだが、その素材をしっかりと生かし切っている。
そして食べるとさらに驚く!
体の芯まで暖かくなり、心が安心するのだ。
ここは日本なのかと錯覚を起こしそうになる。
「まさか、異世界でクオリティーの高い日本料理を口にするとは……長い年月をかけなければここまでの域には……これも長生き――」
「その料理が坊やにとって最後になるよ」
「美味いっ! おかわりありますか⁈」
「はぁ……ったく! あるから好きなだけ食べるといいさね」
俺が言い切る前に釘を刺される。
一瞬殺気が放たれたが、すぐに消える。
ここ最近心の声が漏れているみたいだから気をつけよっと!
+++++
俺は食事を終え、オレオールさんと別行動をとる。
俺が向かったのは巌樹さんのいるダンジョンへと向かっていた。
ダンジョンの中に入ると、一瞬で空間が変わると、目の前に黒い物体が俺の顔面に飛んでくる。
「迅人殿―――ンッ!!」
「ブフッ⁈」
黒い物体の正体は夜煌だった。
「迅人殿ぉぉぉ、迅人殿ぉぉぉお待ちしておりました! うん? 何でありますか?
この匂いは⁈」
「何の事だよ夜煌?」
「いや、迅人殿から発情したメスの匂いがビンビンにか――」
「こらこら、夜煌! 迅人様に失礼ではないか!」
「い、いやしかし父上! 迅人殿から――」
「はいはい、わかったから、お母さんとあっちに行きましょうね~」
「いや、母上っ⁈ 吾輩は迅人殿から――」
夜煌は何かを言いかけていたが、母親の夜宵さんに掴まれ消えていく。
「すいませんな迅人様……夜煌がご無礼を」
「いえいえ、気にしないでください。 夜煌も元気になって、それに皆さんも元気になってよかったです」
「これも迅人様が助けてくれたおかで、我々はこうして生きながらえる事ができました」
「そこまで畏まられても……自分でお役に立ってる事があれば、遠慮なく言ってくださいね。 あ、あの、すいません……巌樹様はいらっしゃいますか?」
「あ、お手間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。 はい。 巌樹様から迅人様をお連れするよう言われております。 こちらへ」
俺は夜峩さんの後を付いて行くと、大きな背中が見えてくる。
「こんにちは、巌樹様」
「おお、来たか迅人……よ……お、お主、それは⁈」
「はい?」
巌樹様は俺の顔を見ると急に驚きだした。
俺何かしたか?
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告を教えていただきありがとうございますm(_ _)m
今後もよろしくお願いいたしますm(_ _)m




