liability and pain
「ド、ドラ……ゴン⁈」
俺の目の前には、体中に青い炎を纏う巨大な龍が何本もの大きな杭に刺された状態で俺を見つめていた。
だが、なぜか怖さよりも驚きの方が勝っている。
決して、怖くてあんな悲鳴を上げたわけではない……上げたわけではないんだ。
「驚かせてすまないな。私の想像を遥かに超えたリアクションだったぞ」
「は、はぁ……そりゃぁご期待に応えられてよかった……じゃない! なんで早く言ってくれなかったんですか⁈ ドラゴンだって! おかげで心臓が破裂して死ぬかと思いましたよっ!」
「はっはっは! 先ほども言ったが、其方を驚かせたっかたのだ。悪く思わんでくれ」
「いやいや……いや、まぁ、命の恩人に対して、俺も怒鳴ってしまい申し訳ありませんでした」
「さすがは迅人。器のデカい人間よ」
「あ、いや、俺はそんな……って、なんで俺の名前を知ってるんですか? 俺ラグナさんに教えた覚えはありませんよね?」
そう言うと、ラグナさんの表情が柔らかくなった気がした。
「其方をずっと見ておったのだ」
「み、見ていた……ですか? どこから?」
「そう……其方が友を罠に嵌めようとしていたところから……」
「あ、いや、罠に嵌めようとしたって……確かに嵌めようとしましたが――」
「冗談だ。其方が友を助けるため、自らを犠牲にしマグマに落ち、友を助けた事はちゃんと知っている」
「は、はぁ……」
「しかし、よく飛び降りたな。久々に胸が高鳴ったぞ! 其方は自身の力には半信半疑ではあったであろうに」
「そ、そうなんです……でも、あぁするしかなかったんで……」
「友のために、自身を犠牲にし、行動に移せる者はそうはいない。ちなみに其方の友、始は無事脱出したぞ」
「ほ、ほんとうですか⁈」
だが、ラグナさんの表情が険しくなる。
「な、なんでそんな険しい表情を? まさか、始に何かあったんですか⁈」
「……いや、其方の友、始は無事脱出した……その後だ」
「その……後、ですか?」
「ゲートの出入り口付近まで着いた途端、見知らぬ女性に半殺しにあっていた……」
「……もういいです。無事脱出できたのであでば……だから言ったろうが⁈ 女の、氷歌の話はするなって……」
最後の方は聞こえない様に呟いた。
大きな声で言ったら、あいつがここに来そうだったから……
「其方の知り合いの女だったのか? なぜ半殺しに合う目に――」
「もう無事なら大丈夫です! そ、それで、ラグナさんは俺に用があって、ここまで誘導したんですよね?」
「あ、あぁ……そうなのだ。話を戻そう」
そう言うと、ラグナさんの表情が真剣さを増したのが分かった。
「単刀直入に言おう。私はもう長くない」
「ドッ直球ですね……会って早々の人に話すような事ではないかと思いますが?」
「それだけ時間が私には無いという事だ」
俺はラグナさんの周囲を見渡す。
ラグナさんは無数の杭に貫けれており、俺から言わせてもらえば、生きているのが不思議なくらいだ。だが、そんな状態にも関わらずラグナさんは生きている。やっぱり異世界だなと改めて思う俺であった。
そして、その他に目に付いたのが、ラグナさんの体は腐敗が進んでいた。
腐敗が進んでいるという事は、死んでいるか、死んではいないが、何らかの手で、腐敗の進行を遅らせているか……まぁ、ドラゴンだからな……だが、今分かる事は、そう、俺にはどうにもできないという事だ。
「其方も私の体の状態を見て思ったであろう」
「はい……そんな状態でよく生きていられるなと」
「そうだ……私は長い長い時間、ずっと耐えてきた。だが、その時間ももう無い……だが、そんな私の前に、其方が現れた」
「い、いや、現れたというか、無理やり引っ張られたと思うのですが……」
「どちらでもよい。其方が現れた事が重要なのだ。そして、其方になら私の力を授けるに値する者だとな」
「……ちょっと待ってくださいね。今頭の中を整理しますね」
いきなり何を言い出すかと思えば、頭まで腐敗が進んでしまったのか?
いやいや! 命の恩人に対してそんな言い方はないだろう迅人!
でも、初対面のの人間に対してこんな上手い話をするか?
何か裏があるんじゃないだろうか?
ボォ
「ぎゃああっ⁈ って熱くない? って! 急に何をするんですか⁈」
考え事をしていたら、ラグナさんが俺に向け蒼い炎を吹きかけてきた。
でも熱くはなかった。
むしろ暖かかった。
「其方、心の声が駄々洩れであったぞ……ムカついたから炎をお見舞いしてやった」
「ムカついたら炎をお見舞いするとか、さすがはドラゴン……それと、心の声が漏れていたかぁ……すいませんでした」
「いや、其方がそう思うのも無理はない。だが信じて欲しい……私は誰彼構わず、力を授けるような尻軽なドラゴンではない。其方だから授けるのだ」
「俺……だから……ですか?」
「そう……其方だからだ。其方のような自分を顧みず、友のために尽力した其方だから託したいのだ……迅人よ」
「俺はそんな……ラグナさんが思うような人間ではありませんよ……ただ意地汚いだけです」
「意地汚くて何が悪い。 それも人間のあるべき姿の1つではないか。 それにな、迅人よ。其方が意地汚いと言ったが、私はそうは思わない」
「ちがうん……ですか?」
「そうだ……その様な者を、勇ましい者と言うのだ」
「俺が……勇ましい者……ますますあり得ない」
「はっはっは! 其方らしいのぅ! どうだ? 私の力を貰う気になったか?」
「……なんかよいしょされた感は否めませんが、悪い気はしませんね」
「どこまでも浮かれん奴よのぉ其方は……だが、そういう其方なら、私の力を悪用はせんだろう」
「そうとは限りませんよ」
「そこは即答なのだな」
「はい。俺は勇ましい者だそうなので、言いたい事はちゃんと言っとかないといけないと思いました」
「ほほぅ……言うではないか」
「いえいえ」
「ふふふ……まぁよい。自由に使うがよい」
「ははは……はぁ⁈ いいんですか⁈」
「あぁ、構わん」
ラグナさんは笑い、真剣な表情で俺を見る。
「覚悟は決まったか?」
「はぁ……こんな自分ですが、よろしくお願いします」
「わかった」
そう言うと、ラグナさんが急に光り出す。
先程よりも眩しさが増している。
そして、ラグナさんが纏っていた蒼い炎も激しく舞い始める。
「私の力は強大だ。強大が故に、器がその力を抑えると共に、共存をしなければならない。いわば、其方がマグマに順応したように、私の力とも順応するのだ。そうして、私の力が其方の物になる」
「え~と……なんか思ってたのと違うような気がしてきたなぁ」
「強大な力には責任が伴う。責任を果たせぬ者と力が判断すれば、その力に体をズタズタに裂かれ、跡形もなく燃え消えるであろう。だから迅人よ……耐えてみせよ」
「え~と、今の話を聞く限りですと、痛みは生じるんですね? 痛みのレベルは?」
「うむ……マグマの非では――」
「却下でっ! キャンセルでお願いします!!」
俺がそう言うと、蒼い炎の勢いは増していく。
そして――
「はっはっはっ! もう遅い」
「マジかよぉ……」
激しく舞っていた蒼い炎がもの凄い勢いで俺に向かってくる。
避けようかとも思ったが、炎の勢いが早すぎて、逃げる気が失せた……
そして、俺の体に入っていく。
あぁ……ここまできたらやるしかないかぁ……まぁ、マグマにも順応した俺だ!
これぐらいの炎、なんてこと――
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
なんてことなくはないっ!
一旦俺の体に吸収された蒼い炎が、急に俺を覆い尽くし始めたのだ!
それと同時に、マグマの時とは比べものにならない程の痛みが俺を襲う!!
「カハッ⁈」
その痛みに何分か耐える。
だが、俺は意識を失うのであった。