青空
ここは……どこだ?
気が付いたら綺麗な青空が広がっている。
「俺はたしか……オレオールさんと戦っていて……死んだ――」
「死んでないよ」
「うおおおっ⁈」
突如俺の真後ろから声がして、驚く俺!
心臓がドキドキしてるじゃん!
「ニヒッ」
「ニヒッて……こらこら、人をそうやって驚かさないの……って、君は誰だい?」
女の子は俺をジッと見つめ動かない。
髪は銀髪で、瞳はこの空の様に綺麗な青空色……背丈はだいたい140cmってところか……
うん?
どことなく氷歌に似ていないか?
「私の事分からない?」
「分からないって……俺と君は初め……て……」
俺がそう言うと女の子は悲しそうな表情になってしまう。
「あ、あれ? どっかであったことがあったような~たしかあれは……え~っと……」
だめだ……思い出せん……つか俺はさっきまでオレオールさんと戦っていたんだよな?
いや、確実に戦っていた!
ならなぜ青空の下で目を覚ましたんだ?
「やっぱ俺死――」
「だ~か~ら~死んでないって言ってんじゃん!」
「あたっ⁈ 痛みがある……でも、ならここはいったいどこなんだ?」
「ここはね~、私の世界だよ」
「……私の世界?」
ダメだ……頭が追い付かん……俺はラグナさんの記憶を読み返すが、靄がかかったみたいで良く見えない。
ラグナさんの記憶に夢中になっていると、少女が俺の目の前に顔を出す。
「ねぇねぇ~、私の事まだ分からない~?」
くそっ、まだ続いていたのか⁈
煙に巻いたと思っていたのに、この少女はしっかりしている。
ただ、この様子はあまりよろしくない。
この少女は俺の事を知っている。
人の顔と名前が一致しない事は多々あると思う。
忘れる程、俺はボケちゃいない。
それに、忘れられちゃうほど、辛いものはないからな……
でもヒントはくれてもいいと思うんだ。
間違えるよりかは断然いいと思うんよ。
「ご、ごめんよ~、今すっごい疲れてて……何かヒントをくれないかな?」
我ながら情けない聞き方だ……
ほら見ろ……少女の切なさそうな顔……きっと――
「仕方がないな~! まっ! 私が迅人をここまで疲れさせちゃったんだからしょうがないか~」
「うん? 私?」
どういう事だ?
少女が俺を疲れさせる?
いや、まさか……いや、俺は一線を超えた事はない!
まさか、俺が寝ている間に⁈
いやそれもない!
俺の一番新しい記憶はオレオールさんとの戦いで終わっている!
なら、少女はこんな事を言わないだろう。
俺の過去を見つめ直しても、俺はやはりこの少女に会った事は無い!
うん?
俺を精神的に疲弊させるぐらいの出来事はオレオールさんとの戦いであった……
いや、そんなはずは……
「も、もしかしてヴェルなのか?」
俺が溢した言葉を聞き、少女は満面の笑みを俺に向ける。
「うん! そうだよ! 私はヴェル! 迅人を守る『蒼龍の鎧装』だよ!」
驚きで声が出ない。
だって目の前にはヴェルだっていう少女がいる。
「な、なんで? え、どうして?」
「やっとね~迅人が私の事を見つけてくれたから、こうして会う事ができたんだよ」
「俺が見つけた? それってどういう意味なんだ?」
「迅人は始纏をすっ飛ばして鎧纏の手前まで来たんだよ」
「始纏? 鎧纏??」
「あれ? そんな事も知らないの?」
お?
何だその反応は?
俺があたかも知ってる体で話しているぞ。
もしかして誰もが知っている事なのか?
「はは~ん……ひょっとして知らずにここまで来たんだぁ……すっごいじゃん迅人! ちょっとズルした私が言うのもあれだけど、私を見つけ出すんだからぁん」
「な、何が?」
「何その反応⁈ もっと喜びなさいよ! はぁ……別にいいよぉ……それよりもさ、迅人が次に私を呼ぶ事があったら、凄い事が起きるから楽しみにしててね! あ、あと、妹たちの『蒼龍の爪拳』と『蒼龍の震脚』も会いたがってるから、早く見つけてあげて! 本当なら順番が違うから」
「え、おいっ⁈ それってどういう意味なんだ⁈」
「もう時間が無いから、また今度ね! 次に会える時は妹たちを見つけてからかな? それまでは私を呼んでも応えないから! み~んな迅人に会いたがってるのに、私が先に見つけられちゃったから、今でも私にギャーギャー文句言ってるし、イライラしてる」
「なっ⁈ お、おいっ⁈ え、な、なんだ⁈」
「聞きたい事はさっきのお姉さんに聞いたらいいよ~。 それじゃ、またね~!!」
急に青空が暗くなったと同時に、俺の意識が遠のいて行く。
+++++
「おおおいっ!」
「あら、起きたかい坊や?」
「えっ⁈」
俺はベッドの上にいた。
そして、横を向くと、オレオールさんが綺麗な笑みで俺を見ている。
え、つか、いつから俺の事を坊やって言うようになったんだ?
いや、今はそんな事はどうでもいい!
「あ、えっとぉ……」
「その様子じゃ、『纏』と話していたみたいだね」
「『纏』?」
俺が知らない、聞いたことの無い言葉をオレオールさんの口から零れ、俺はその言葉に反応する。
「ははは。 その反応じゃ氷歌から聞いていないみたいだね」
「あはは……氷歌はわざと教えなかったんだと思います」
「そうだろうねぇ……でも、ちゃんとあの子にも意図があっての事だと思うよ」
「だと思います……氷歌はいつもそうやって俺に気付かせるタイプなんで」
「氷歌が近くにいてよかったねぇ」
「そうとも言い切れませんが……」
「まぁ、あの子は口下手なようだけど、口下手ではない……けど、悪い子じゃない」
「それは分かっています」
「なら、これ以上は必要なさそうさね」
オレオールさんは立ち上がり、ドアノブに手をかけ、立ち止まる。
「準備ができたら坊やに話がある。 聞く気はあるかい?」




