オレオールの憂鬱
あたしは剣に魅了された。
地球にある日本という小さな島国に行けるようになり、日本刀に出会い、あたしは剣よりも刀に魅了された。
そして、更に強くなった。
どうやらあたしは日本刀が性に合うらしい。
いや、自分で言うのも何だが、元々剣の才があったのだ。
そのおかげで第一騎兵部隊長になれた。
あたしの『時読』と剣の才が相まった事で、今のあたしが出来上がった。
まぁ、長命種だから時間はたっぷりあった……そのおかげで強くなれた。
それと『時読』とは、周囲が言っている相手の心を読む力の事だ。
あたしは物心が付いた頃から人の感情を機敏に感じ取る力が備わっていた。
最初は雑音にしか聞こえなかったが、それが人の感情の声だと気付いたのはすぐの事だった。
人の感情の声だと気付いたあたしは、相手が何を考えているのかを考察し、歳を重ねるごとにこの力を有効活用していった。
そうして、相手を動揺させ、混乱させ、自身の糧にしていった。
しかし、この力はあくまでおまけに過ぎなかった。
まぁ、この力は全てを感じ取れるわけではなかった。
周りはあたしが相手の考えを読めると全て読めると勘違いしている。
それに対し、あたしはそれに対し、肯定も否定もしない。
それも戦術の1つであり、勝機を少しでも上げるためでもあるからだ。
だが、本質は刀である。
言わせてもらうが、相手が強者なら読み取るのも難しいのだ。
この力だけで上がれるほど、そんな甘い世界ではない。
だが、そう言った者は数える程しかいなくなった。
長命種として生を受け、ある意味これほど、寂しい事はない。
だが、何度もこういった出来事を迎えてきたあたしは、何度も割り切ろうと思うが、そうもいかない。
弟子も多く取った。
その分、多くの弟子を看取ってきた。
みんなして、『師匠ありがとうございました』と同じ言葉を残して逝ってしまう。
人の死に顔は見るに堪えられない。
とくに、仲が深い者ほど、死に顔は脳裏にずっと残る。
いつしか、思い出す度、あの子達の顔が黒く滲んでいった……
逝ってしまった者達の名は全て覚えている。
けれども、みんなの顔が黒く滲んでしまい見えない……戦場に出てもこの気持ちは晴れる事はなかった。
それから私は、ある出来事により、弟子を取る事も止め、不必要な……戦場以外での人との関りを極力断つようになった。
ある日、ふと日本にいる友に会いたくなった。
彼女といると、なぜだか落ち着く。
昔からの知り合いみたいな感覚……出会ったのは10年ぐらい前なんだけどね。
久々に会った彼女は5年も前とは比べ、だいぶ丸くなった……良い意味で。
すると彼女は選考会に行くと言った。
最初は驚いた。
彼女はそういった事には興味がないと思っていたから。
それと、氷歌は既に資格を持っていたしね。
なら何で行くんだいと聞くと、幼馴染が出ると聞いた瞬間、私は愕然とした。
あの氷帝が笑みを見せた。
それだけではない。
消息を絶った幼馴染が戻ってきていたのか!
なるほど……そりゃ5年前とは違って殺伐とした雰囲気が今は感じない。
あの時の荒れ具合を知る者からしたら、今の彼女の変わり具合には絶対に驚くと思う。
そして、彼女の笑みから優しさを感じた。
そうかいそうかい。
私の知る氷歌が戻ってきた事に嬉しさを感じたあたしはある感情が芽生える。
彼女をここまで変えさせるほどの幼馴染である市原迅人に興味を持ってしまったあたしは、翌日、選考会に出向くことにした。
翌日選考会であの子を見た。
日本で行われたハンターズ・ロアの選考会で。
見た感じは優しそうな青年って感じだ。
だが、戦いが始まると、雰囲気が一変する。
そして、その戦う姿を見た瞬間、氷歌の変わり具合で感じた驚きを、グンッと超える驚きを感じてしまった。
氷歌の幼馴染であり、炎帝である業炎寺 夏乃子の火力を凌ぐ、世にも珍しい蒼炎で圧倒しだしたのだ。
炎帝を見て、鍛錬を疎かにしているのが見て分かっていた。
炎帝の悪い評判も聞いていた。
だが、それでも炎帝が勝つであろうと思っていたあたしは、自分自身を恥じた。
外見だけではなく、内面を見なければ……いや、内面は見ていたつもりでいた。
だが、奥底に隠れている面を見れなかった。
いつからだろうか……自分自身がここまで落ちていたんだろうと……塞ぎこんでいたのだろうかと……
ゴオオオオオオオオオオオ―――
その凄まじい程の炎があたしの目に入り、そして、落ちていたあたしをその炎が灯となり導いてくれた。
そして、思い出させてくれた。
弟子たちは皆笑顔で逝った事に。
いつの間にか負の感情がそう作ってしまった虚像だったのだと気付かせてくれた。
「綺麗だねぇ……」
「あげないわよ」
「えっ? あたし何か口走っちまったかい?」
顔が赤くなるのを感じた。
こんな感情がまだあたしにあるのかと不思議に思うぐらいに。
「今綺麗だって言ったわよ」
「そ、そうかい……いや、別に綺麗だって言ってもいいじゃないかい! それにあげないってのはどう意味――」
「あなたの声色はそういった類の物だったわ……顔真っ赤にしといて変な言い訳はしないことね」
「ぐっ⁈ 言い返してやりたいとこじゃが、あんたの考えは読めないからね……でも嫌な気分じゃないからいいさ」
氷歌はあたしが読めない数少ない強者。
色白で、氷のように冷たい眼差しで、あたしを見つめる。
すると、氷歌は戦闘中である市原迅人を見つめ、笑みを見せる。
優しい眼差しでいて、そして控えめだが優しい笑み。
そんな彼女の一面をあの子は引き出せるのかと、正直安心した。
氷歌にはいるのだと安心した自分がいた。
そして、俄然興味を持ってしまった。
氷歌をここまで変わらせられる程の男に。
「でも、分かるわ……迅人はそういった類の男だから」
「な、何が言いたいんだい?」
「あなた、迅人に興味を持ったでしょ?」
「なっ⁈」
あたしは自分の心が読まれたと思い、内心ドキッとなる。
本当はあたしがドキッとさせる側なのに、氷歌の前だとこういった事が起きる。
だから面白くて、数少ないあたしの友でもあるのだ。
「あなたは見る目がある」
「な、なんだい? 急に……」
「そんなあなただからお願いがあるの」
「お願いだって?」
氷歌から言われた言葉にあたしは驚きを隠せずにいた。
何でも一人で解決してきた氷帝である彼女から、直々にお願いをされたのだ。
そして、お願いを聞いたあたしは、そのお願いに対し、あたしの心は……塞ぎ込んでいたあたしの心は一瞬で消え失せ、いつの間にか蒼い炎を手に掴んでいた。
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