一矢報いるために
「龍の喚起・1段階」
俺は両腕に『蒼龍の爪拳』を装着すると同時に身体能力も上昇させる。
『順応』がオレオールさんに適応するまで、時間を少しでも稼がなければならない。
「そいつは選考会で使わなかったね」
「まだ許可が出ていなかったもんで」
「氷歌も過保護すぎや、いや……炎帝には使うまでもないと判断したのか」
「それもあるかと思いますけど、俺自身使うまでもなかったなとも思っていましたし」
「あんたは賢いとは思うけど、氷歌の許しがなけりゃ、いざ自分が危うい時、力を解放できないんじゃ洒落にならないんじゃないかい?」
「⁈」
確かに言われてみればそうだ。
氷歌に怯え、俺は氷歌の言われた通りに動いている。
いつまで俺は氷歌の指示を従順に従わないといけない……いや、違う。
「否応なく、あんたにとって選択する日がいつか必ず来るよ。 その時も氷歌の指示に従っている様じゃ、大事なもんは守る事はできずに後悔が残る……あたしはそう思うけどね」
「……抗ってはいるんですけどね……けど、今のところ氷歌が言っている事は正しくて、今回も氷歌からの許可があって、沢山の命を救う事ができました。一概に全部が全部悪いって訳ではなくて、今の今まで氷歌は正しかったと思います。 ですが、氷歌の考えが間違っていた場合、俺は俺の考えで動きます……いや、動けますよ」
あれ?
俺氷歌の事をこんな風に思っていたのか?
意外な面が突然出てきて正直自分自身に驚いている。
煩わしいとは思う面もあるが、何だかんだで隠しごとなく話ができるのはあいつだけだ。
まぁ、半ば強制な部分はあるけど。
「今のあんたは読めないねぇ」
「そうなんですか?」
「言い忘れたけど、あたしは全てを読んでいる訳じゃないんだよ」
「まぁ、そうなんじゃないかなとは思っていましたけど」
「断片的に見えるんだよ。 そして、相手の動作、視線、体温、脈拍、その他諸々を考慮した上で総合的にこうなんじゃないかと推察をし、相手を動揺させる」
「断片的にとは?」
「あたしの力の一部みたいなもんさ」
「そこは力なんですね」
「まぁ、この力はおまけみたいなもんなんだけどさ」
「おまけにしてはチート過ぎる力じゃないですか?」
「あんたがそれを言うかい?」
「⁈」
「今のは読めたよ」
断片を読み取るって、一体どこまで見えているんだ?
ラグナさんとの事も見えているのか?
ならもう言っているか?
色々考えても仕方がない。
今はこの時に集中するんだ。
「しかし、そのガントレットは……一部だけ纏っているだけかい」
「纏う?」
「まだ、そこまでの領域に行っていないという訳だね……」
俺のイグニアスを見て纏っているだけというオレオールさん。
纏っているってなんだ?
「けど、面白いねぇ……さぁ、どこまでやれるか楽しみだ」
そう言った瞬間、オレオールさんはこちらに向かってくる。
第2ラウンドの開始である。
俺は先程と同じで俺の前に急に現れ、そして俺の頭に一振り振り抜く。
だが俺もその一振りを難なく避ける。
だがそこに折交が来る。
そう思ったが来ない。
来ないのなら懐に入り込むまで!
俺はオレオールさんの懐に入り、イグニアスを撃ち込む。
「バンッ!」
「うおおっ⁈」
急に俺の頭目がけて何かが通過した。
咄嗟には避けたが、何だと思い、視線を向けると、地面に小さな穴が開いていた。
まさか……
「へぇ、指銃も避けるとは、どんな反射神経をしてるんだい?」
「弾丸ですか?」
「ご名答」
そう言うと、左手を銃に見立て、俺に向けるオレオールさん。
その顔は実に小憎たらしいぞ。
けどかわいい。
うん? 袖に小さな穴が空いている。
なるほど……袖を利用して、視覚を遮り、刀を持っている逆の手で俺を射抜こうとしていたのか。
こういっちゃ悪いが、この人、隙を見せるのが上手い。
隙があるように見せて相手を引き込む。
でも実際は隙などなんか一切ないんだ。
そして上手く釣る。
さすがは老練のなせる技か……
でも見た目は美しい女性……
騙されてはいかんぜ!
近づいてもダメなら、遠距離攻撃に変更を……したところで焼け石に水だろうな。
なら、接近戦で方を付ける方が無難だ。
「蒼龍の喚起・第2段階」
俺は『蒼龍の震脚』を装着する。
徐々にだがオレオールさんの攻撃に対応ができてきている。
「一気に方を付けたいのかい?」
「長くは持たせたいとは思いますが、そうも言ってられない様な気がしまして」
「あたしはまだまだ続けたいんだけどね」
「いや~、はっはっは……」
言葉が出ねえよ……
けど、こっちは『順応』が追い付く前にオレオールさんが追い抜いちゃう感じがして、勝てるイメージが湧かね―。
自身よりも底が深い相手には『順応』が機能しない事に気が付いてよかった。
なんで、そんなに楽観的に考えられるのかだって?
そりゃ、弱くなるのなら兎も角、俺にはまだまだ強くなれる伸びシロがあるって分かって嬉しいんだよ。
「始が前で頑張っている。 早く追いつかなきゃな」
始の話はまた後だ。
俺はドライグに力を籠める。
「先程よりも、今の面の方があたしゃ好きだよ」
「アザ――ッス」
「来るかい?」
オレオールさんも構え、左手で来いとジェスチャーを見せる。
「行かせていただきます」
「受け止めてあげるよ」
「ふんっ!!」
ドライグに籠めた力を放出し、オレオールさん目がけ爆速で突っ込む。
なんとか出し抜けるかと思ったけど、オレオールさんは俺の速さに対応してきた。
マジか⁈
「ほれ、余計な事は考えない! 今何ができるのかを考える事より、今、この時をどうしたらいいのか考える事より、行動に移さないと、死があんたを捉えちまうよ」
「ふんがあああああああああああ!!」
俺はオレオールさんに言われるがままに魔力を右手に籠め、地面に打ちつける。
地面が爆散し、俺は何とか一呼吸置こうかと思ったが、爆散した地面を一刀両断され、鋭い太刀が俺に着いてきて、休む間を与えない。
「くそっ! 息が上手く吸えな――」
「さぁさぁ、ドンドン行くよ」
「ふがっ!」
俺はギリギリでオレオールさんの太刀をイグニアス、ドライグで防いでいく。
「は、はは……あんたって子は……大したもんだ」
「スゥハァスゥハァ――」
オレオールさんが何かを言ったとは思うが、俺の激しい呼吸音がそれを遮る。
それだけオレオールさんの太刀は気を抜いたら一瞬で終わる。
オレオールさんの太刀は早く速く、そして重くなっていく。
『順応』がオレオールさんに追いつき、追い越されを繰り返している。
オレオールさんは顔色1つ変えず、攻撃を繰り返す。
俺は必死に呼吸をするので一杯一杯だ。
だが、このままでは埒は開かない。
オレオールさんは全然本気ではない。
このまま終わりたくない俺は、一矢報いるため、この状況を打破するため、考える事よりも行動に移そうと思った。
オレオールさんの言葉に感化されたと言えば噓になる。
けど、この人の言葉は、氷歌と同じぐらいの言葉に重みがあると感じたからだ。
「がああああああああっ!!」
俺は両手のイグニアス同士を打ち付ける。
「ぐぅっ⁈」
イグニアス同士を打ち付けた事により、周囲に音速の衝撃がオレオールさんに当たり、怒涛の太刀を止める事に成功する。
そして、こうして一呼吸を置く間ができた。
俺はすぐさまやっとできた間を無駄にはせず、すぐに行動に移す。
「蒼龍の喚起・第3段階」
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