手合わせ
「俺と手合わせ……ですか?」
「そうさ」
「拒否権はありますか?」
「あんたがやりたくないと言えばやらなくてもいいよ」
えっ⁈
てっきり氷歌みたいに拒否権はないのかと思っていたがそうではないらしい。
オレオールさんは優しさの中にも厳しさが垣間見える。
そんな人がいきなり手合わせを所望するだろうか?
いや、まず俺と手合わせしたところで、オレオールさんに良い事なんかあるのか?
逆に俺にとっては、オレオールさんとの手合わせは有意義な経験になる。
最初は断ろうと思っていたが、オレオールさんの目、俺を見つめる眼差しが俺の心を昂らせる。
「やらせて……手合わせをお願いします」
「ふふふ、私がお願いしたんだ。 私の気持ちに応えてくれて感謝するよ」
オレオールさんは庭へと歩み、俺も後を付いて行こうとした時、ロックさんに肩を掴まれる。
「どうしました?」
「いや、お師匠が手合わせを願い出たのは何百年も前の話になる」
「はい?」
ロックさんの話に俺はビックリする。
いや、それよりもオレオールさんの歳が何百歳という事に驚きを隠せずにいた。
「それと、お師匠に手合わせを願い出た者は数知れず……だがその誰もが断られた」
「それって本当の話ですか?」
「お師匠は手合わせをしない。 多くの者が手合わせを断られ、お師匠は弱い自分を隠すために断っていると噂が立った……だが、いざ戦場に舞い降りたお師匠は、その名に恥じない程の片鱗を見せ、誹謗中傷を覆してきた」
「いや、俺はそこまで聞きたくないかなぁ……?」
だって今から手合わせをするんだよ?
昂っていた気持ちが徐々にだが納まってきてるような……けど、俺からお願いしますと言った手前、やっぱ無しでってのはバツが悪すぎるし、もし断ったら、今は温厚そうな方だけど、ロックさんの話を聞いた所の片鱗を見せられたら堪ったもんじゃない。
ラグナさんから力を受け継いだといってもまだまだ体には順応しきっていない。
けれども試してみたい。
今まで戦ってきた相手は手強かったが、何とかなると思っていた。
けど、今俺の前にいる人は何とかなる様な相手じゃない。
なら、今の内にその絶望を味わっておいた方が今後の俺のためになるんじゃないかとも頭に過る。
「そして、私を最後に弟子は取らなくなったお師匠は戦場には出向き、戦い、その姿は見る者には勇猛果敢な戦士に見えるだろうが……私には寂しさが感じ取れていた……だが、今のお師匠を見たら……見たら……ふぐっ……」
「わぁぁ……」
大の大人が急に泣き出しやがった……
つかロックさんも結構な歳なんだね。
「だから、迅人よ」
「なんです?」
「お師匠を楽しませてやってくれないか?」
なんだよ……その潤んだ目は……
これがかわいい女性ならともかく、厳つい男性に言われてもなぁ……
でも、俺って単純だからさ……
誰かにお願いされたら応えてりたいと思っちゃうわけで……
「すぅ~……はぁ~……頑張りますけど、ロックさんとオレオールさんの期待に応えられるかは分かりませんよ」
「それで構わんさ」
ロックさんは小さな笑みを見せた。
俺はその笑みを見て、庭の中央にいるオレオールさんの下へと行く。
「話は終わったかい?」
「あ、お待たせしました」
「悪いねぇ……うちの馬鹿弟子が余計な事を耳にさせちゃって」
「いえ、大丈夫です。 俺、ああいった人は嫌いじゃないんで」
「私もだよ。 だから弟子になりたいと私に言ってきたあの子を弟子にしたのさ」
「そうでしたか」
「ちなみにあたしは今年で3240歳さね」
「頭の中を覗くの止めてもらえますかね?」
「気になっていただろうに?」
「えぇ、おかげでモヤモヤの1つが解消されました」
「まだ色々とモヤモヤがありそうだが――」
「そんなお年頃なんですよ……声に出さないでください。 ロックさんがいますから」
「はっはっは。 若人はいっぱい、大いに悩みを持った方が、実りは大きく、綺麗な輝きを放つもんさね」
「なら、解決できない問題はどうしたらいいんですか?」
「私はこんなに生きて来たけどね……問題はまだ解決できないこともあるさね。 そんな私に解決方法を聞くあんたにアドバイスできるとしたら……」
「できるとしたら……なんです?」
「大いに悩みな。 そして、困難があるからこそ、解決したことにより、人ってもんは大きく、一気に成長する。 だからあたしは、この歳になってもまだまだ成長しているんだよ」
そう言い放った瞬間、とんでもない威圧感が俺を襲う。
正直怖い。
逃げ出したい。
けど、この経験は俺の、この先にきっと必要な成長に繋がる。
そう思った瞬間、俺の中の恐怖が和らぐ。
「さすがだねぇ。 この圧で大概の者は怖気づくんだけどねぇ」
「さすがに焦りましたよ」
オレオールさんは腰に差していた刀を抜く。
俺は瞬時に拳に魔力を籠める。
「さぁ、準備はいいかい?」
「フゥ―――……いつでも」
俺がそう口にした瞬間、オレオールさんは消え、現れたのは俺の目の前。
オレオールさんは俺の顔めがけて刀を振ってくる。
俺は瞬時に避け距離を取ろうとするが、オレオールさんは追随してくる。
追ってくるなら距離を詰めてやろうじゃないかと思い、足に魔力を籠め、ストップ&ゴーを仕掛ける。
オレオールさんは刀を振り、俺はそれを避け、上手く懐に潜り込めた。
俺はオレオールさん目がけ、拳を撃ち込む。
だが、その瞬間、俺を見るオレオールさんの顔が不気味に微笑んでいた。
俺は瞬時に方向転換する。
シュバッ
「うおおお――っ⁈」
何だ今のは⁈
俺はオレオールさんの攻撃を躱し、上手く懐に入ることができ、次は俺のターンかと思いきや、俺の目の前に刀が現れた。
確かに刀を振り抜いた瞬間を狙い懐に入った。
刀を再度振るまでのタイムラグはあったはずなのに……
「初見で折交を避けるかい?」
「なんです、それ?」
「刀を振り抜いた後、元の動作に戻るまでに時間が生じるだろぅ」
「はい。 そこを狙って懐に入ったつもりでした」
「まぁそこで隙を無くすための動きが折交という訳さ」
そう言った瞬間、振り抜いた刀を瞬時に持ち変え、一瞬で刃が下に来る。
そして手首の動きだけであれだけの鋭い振りができるのかよと驚いた。
「剣士に取って、振り抜いた後は隙が生じる事で隙ができる事は死活問題だからねぇ」
「ちゃんと対策は練られていると」
「そうゆうことさ」
けど、あんな芸当ができるのかよと思い、ロックさんの方を見ると、ロックさんは俺が見ている事に気付き、横に首を振る。
「できないよな」
「ロックはタンクだからね。 その必要がなかったのさ」
「やろうとしてたでしょ」
「あぁ。 あんたの体じゃ難しいから他の事に時間を割きなって言っても聞きやしかったけどね」
俺は再度ロックさんを見ると、酷く落ち込んでいた。
「さて、第2ラウンドと行こうかね?」
「うすっ!」
う~ん……まいった……懐に入ると折交が来る。
でもあれを何とかしないと……
そこで俺は『蒼龍の爪拳』を出す事にした。
お読みいただきありがとうございました。
お読みいただいた皆様に感謝を。
徐々にですが体調も良くなってきたと同時に、読んでくれる方達も徐々にですが増えてきて嬉しいです。
今後もよろしくお願いします。




