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白彪

「みんなその名を聞くと、そういった顔をするんだ……だからあの場で話す事はできなかった」


七面倒くさ……いや、俺はこの世界に来て、この世界の事はあまり知らないからよく分らん……けど、第一って聞いただけで、日本で言う氷歌達と同じ【帝】の位を持つ者達って事だろうと察する。

そんな人が俺に何の用だってんだ?


そんな事を考えていたら、ロックさんが突然止まる。


「ここにお師匠がいる」

「ここにですか?」


そこはボロい建物が鎮座していた。


「本当にここなんですか?」

「あぁ、ここで間違いない。ちなみに許可なく入った者は消し炭になる」

「冗談ですよね?」

「冗談だ。 まぁ、普通の人間なら失神程度で済むが、モンスターなら消し炭になるな」

「冗談半分の中に本当が混ざっているのかよ」

「さぁ、あの方も忙しい。 行くぞ」


ロックさんがそう言うと、ドアノブに手をかけ、入っていく。

俺もその後を付いて行く。


中に入ると、そこには豪邸が聳え立っていた。

しかも多くの使用人たちがせっせと働いていた。

外からでは見えない仕様になっているのか。

外見は古い建物……入れば煌びやか……だが何故か嫌な感じはしない。

あぁ、和風な感じが日本と似ているのか!


「おい、立ち止まっていないで付いてこい」

「あ、はい!」

「多少は驚いたみたいだな」

「はい。 入ったらまさかこの様な豪邸があるんですもの。 そりゃ驚きますよ。 それにどことなく俺の住んでいる風景に似ていて、落ち着きます」

「お師匠は迅人の住んでいる日本が大好きでな。 暇さえあれば日本に入り浸っている」

「そうなんですか?」

「あぁ。 しかし、お師匠は第一騎兵部隊長だからな……日本にはいつか移住をしたいとも言っていた。 まぁ、引退をしてからになるのだがな」

「そこまで日本を気に入ってもらえるのは嬉しいのですが――」

「おっとすまない。 着いたぞ」


俺が話を終える前に到着する。


「お師匠! 市原迅人をお連れ致しました!」


ロックさんがそう言うと幾つものふすまが開く。


「行くぞ」

「は、はい」


扉が開いた瞬間、良い匂いがした。

金木犀か?


「よく来たね」


俺が金木犀の匂いに気を取られていると、不意に声をかけられる。

畳が広々と敷き詰められている。

だが、俺の視線はその先にあるデカく強い、そして優しさを兼ねそろえた異様な存在に一瞬で目が行く。

そして、視線が合った瞬間、体が硬直してしまう。

こんな感覚は初めてだ。

まるで体中、隅々まで見られている感覚……でも嫌な感じはしない。

そして、この世界では見ない服装、そうだ着物を着ていて、腰には日本刀が差してある。

さ、侍だ。

しかもすっごく馴染んでいる。

着ている人が美人だから尚更映えるってやつですね。

カッケェ……


「突然呼んじまって悪かったねぇ」

「あ、いえ」


どことなくおばさんっぽい口調が逆に好感が持てる。


「緊張してるのかい?」

「多少……いや、かなり」

「迅人らしくないな。 もっとこう皮肉った事を言うもんだと思っていたんだが……例えばここには来たくなか――」

「おバカ!」

「ふごっ⁈」


俺は咄嗟にロックさんの口を塞ぐ。

口を塞がれたロックさんはいたずらっ子っぽく笑いを堪えた顔を俺に見せている。

くそっ! 後で覚えていろよ。


「はっはっは! 緊張は解れたみたいだねぇ。それじゃ、早速だが自己紹介をさせてもらおうか。あたしゃ、ここで第一騎兵隊を務めさせてもらっているオレオール・シヴァだ」

「あ、日本から来ました市原迅人と申します」

「あぁ、知ってるよ。 なんせあたしゃぁ、あんたの大ファンだ」

「お、俺のファン?」


オレオールさんが俺のファンだって?

俺ってそんなに、いや全然有名ではないんだが……?


「この前の選考会を会場で見ていたんだよあたしは」

「あぁ、それで! お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」

「何を言うんだい! あんたの戦う姿は誰もが目を見張る程のものだった! まったく、小うるさいジジババ共が体裁を気にして、あんたを落としたのには頭来て抗議したもんさ」


え、抗議しただって?

俺のために?

やめてくれ……俺はぶっちゃけ出れなくて安堵しているんだから……。


「なんだい? その顔は? ハンターズ・ロアに出たくなかったのかい?」

「うん? そうなのか迅人よ」

「え?」


俺は少し困惑した。

周りに言われてポーカーフェイスでいたのに、なぜわかった?


「その沈黙は肯定とみなしていいのだな?」


隠しても仕方がない。


「はい。 ぶっちゃけいつかは出たいな~とは思っていましたが、今じゃないとも思っていました」

「なら何故出たのだ?」

「氷帝が出ろと言ったんだろ」


俺は目を見開く。

ロックさんの疑問を俺ではなく、オレオールさんが言い当てたのだ。


「知っているさ。 あの子が小さい頃からの知り合いだからね。 この前会場で聞いたのさ」

「そうだったんですね」

「あんたが姿を数年ぶりに戻ってきた事も聞いた。 それで、テストがてらあんたを無理やり選考会に出させた……見定めるために。 これはあたしの憶測さね」

「ご、ご名答です」


オレオールさんは笑みを見せる。


「あんたの事は氷歌から聞かされていたし、どれだけ大事にされていたのかもわかった。けどね、あの子も氷帝だから、いつまでもあんたを気にかけている程、暇ではない。 だから見定めなければいけなかったんだろうね……氷歌がいなくとも一人で今度こそ大丈夫なのかを」

「仰る通りで」


でも俺は、俺自身は氷歌には頼んだ覚えはありません。

あいつは俺が物心付く前からお節介だった。

そのせいで、何をやるにも氷歌に許可を取らねばならなかった。

そして、氷歌に抗う事ができなかった……だって物心つく前に氷歌に『歯向かったら怖い』が植え付けられたから……。

まぁ、始が一緒にいてくれたおかげで少しは反抗する事ができたんだけど。


「それで今回やっとお墨付きをもらってここに来たんだ。 合格って事だろぅ?」

「そう……なんですかね? いやそうだと思います」

「ははは……、氷歌はちゃんと教育をしていたんだね。 あんたにちゃんと自信を持たせた」

「自信ですか……」


俺自身の強さで勝ったとは思ってはいない。

けど、昔ほど人に対して怖さという物はなくなった。

そういうことなら、オレオールさんが言った事に対し、少し納得はした。


「まぁ、まだまだ時間はかかりそうだけど」

「はい?」

「いや、何でもないよ」


オレオールさんが言った言葉が聞き取れなかった。

まぁいいや。

それよりも俺のファンだからって、ここに呼んだのは冗談で、他に何か用があるからここに来させたんだろうけど、いったい何が目的なのか分からん。


「あんたのファンになったのは本当さね」

「いい加減俺の心を読むの止めてもらえませんかね……」

「しょうがないさ。あたしには分かるんだ」

「ぶっちゃけると、迅人の表情を見ても、迅人が何を考えているのか私にはもう分からん」

「えっ⁈ てっきりバレバレなのかと思っていましたよ」

「あれだけ言われたのだからな……意識しない方がおかしいであろうが……」

「そりゃ、なるべくポーカーフェイスでいようと思っていましたけど」

「実はな、お師匠は嘘をすぐに見抜くのだ」


おっと、嫌なスキルをお持ちでいらっしゃる。


「あたしも最初はこの力には苦労したもんさね」

「あ、やっぱり読んでるんですね」

「人により蹴りだけど、あんたは他と比べて読みづらいよ」

「それは喜んでいいのか迷いますね」

「迅人よ、お前はそれだけの力を持っている証でもあるのだぞ」

「そうなんですか?」


ロックさんの言葉を聞き、俺はオレオールさんを見る。

するとオレオールさんは笑みを浮かべる。


「強者になればなるほど読み辛くはなるさね」


そうなんだ……へぇ~。


「そんなことより、あんたと会って確かめたい事があったのさ」

「何ですか?」


するとオレオールさんは腰に差していた刀に手を置く。


「まずは口よりも……ちぃっとばかし手合わせ願おうかね」


俺はその言葉を聞き、来なきゃよかったと後悔した。


けど、この出会いが、俺にとって必要な出会いだったと気付くのはもう少し先になる。


お読みいただきありがとうございました。


お読みいただいた皆様に感謝を。


最近体調が優れず、治りが遅くなっており、体が弱くなってきたと思う日々です。

皆様、お体を大事になさってください。

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