desperate for death
俺はマグマに落ち、あのマグマに飲み込まれていったモンスターの様に死んだ――
かと思ったが、何とか生きていた。
あの切羽詰まった状況から、俺にできる事を模索していたところ、俺にはこれしかないじゃないかと、ふと、頭によぎったのが 【順応】 である。
順応とは環境や境遇の変化に従って性質や行動が合うように変化していく力である。
この力に賭けてみる事にした。
そしたら案の定、マグマの中にいるにも関わらず、俺は生きている。
だが、辛うじてだ……
マグマに入った瞬間、身の回りの物はすべて焼け消え、そして、髪も、眉毛も、そして、目、皮膚、筋肉、骨、細胞も……まぁ全て焼けだした。
だが、まだ残っている。
何も見えない状態だが、それよりも、やはり痛みが尋常じゃない!
俺は意識を失わない様に、 【順応】 の力を意識しながら……ここで意識を失えば、俺は本当に死ぬ。
マグマは俺を焼き尽くし、そして食らおうとしている。
俺はその状況に、何度も意識が飛びそうになるが、必死になって順応しようとしている。
ぶっちゃけ、意識を保つのに必死で、体を動かせない。
いや、できない。
俺の体は、マグマによってほとんどが焼き尽くされた。
そりゃ動かせないでしょ。
まぁ、そんな状態でも生きていられる事が不思議でならないんだけどね。
マグマが俺を焼き尽くすのが先か?
はたまた、俺の 【順応】 の力が先に順応するか?
地獄の業火に焼かれ続ける時間を過ごすことになった。
どれぐらいの時間が過ぎただろうか?
相変わらず、体を動かせない俺は、マグマの流れに身を任せて、着の身着のまま漂っている。
だが、変化はあった!
なんと、痛みが消えたのだ!
これはすごいでしょ!
長い時間、耐え続けた俺を誰か褒めてください。
あの地獄の痛みを克服したんです。
もう涙が出る。
でも目が無いから涙は出ないんだけどね。
それと、心なしか、体も徐々にだが、再生してるみたいなんだよね?
なんで目も無いのに分かるんだって?
う~ん……何て言ったらいいのか?
痛みが無くなってきてからというものの、相変わらず体は動かせないでいたんだけど、何か成長している感が伝わってきたんだわ。
まぁ、最初は痛みで分からなかったんだけどさ、そこにあるはずの手や足の感覚がなかった!
いや、消えたわけよ。
だが、痛みが消えると同時に、消えていた感覚が、そこにあるはずの手や足の感覚が戻ってきたのだ。
ここまで言えば分かると思うが、地獄の業火に焼かれ続けた俺の体は、再生に向け、動き出したのだ……と、思いたい。
はぁ……いったいどれだけ流されていればいいんだ?
うん?
なんだ?
今まで、流されていただけだったのに、突然引っ張られているような?
いや、気のせいじゃない。
確実に引っ張られている!
どういうことだ?
マグマに潮の流れなんてあるっけか?
でも、体を動かせないから、流れに身を任せる事しかできない。
うわっ⁈
急に上に引っ張られ、下に引っ張られだし始めたぞ!
しかもすごい速さで色んな方向へと引っ張られる!
こわっ! 怖すぎる!
まるで全て一定速度で走るジェットコースターに乗ってる気分だ!
俺絶叫系はあまり得意な方では――
ドパアアアアアーーー!!
な、なんだっ⁈ 急に何かから飛び出したぞ⁈
うん? 浮いている? マグマの上に浮いているのか?
外に出られたって事か?
いや、でも日の光を感じない? 夜だからだろうか?
それと、とにかく静かだ。
『ここは、地上ではない』
なっ⁈ 声が聞こえた⁈
『ふむ……まだ再生の途中といったとこか』
さ、再生途中? あ、あの、あ、あなたは? つか、俺声を出せないでいるのに、なんで俺の考えている事が――
『私の力で其方の考えている事を読み取っているのだ』
す、すごい! それとこわっ⁈
『こわっとは随分な言いようだな』
あ、すいません。つい……
『気にするな』
ありがとうございます。あの……ここはどこか分かりますか?
『ここは地上から、遥か下にある洞窟だ』
遥か下? 洞窟? へ、もしかして俺は地下へと流されて――
『いや、私がここに来るように誘導したのだ』
誘導した⁈ 俺を?
『そうだ。其方をここまで誘導したのは私だ』
あなたがここまで……意味が分からない。
『わからなくて当然だ。今はな』
何ですかその意味深な濁し方は? 俺は殺されるんですか?
『殺すようなら、わざわざここに其方を連れ込もうとは思わんよ』
はぁ……まぁ、そうだとは思いますが、確信が持てませんね。
『疑り深いのだな。だが、そうでなければハンターは務まらんな』
あ、ありがとうございます。
『うむ。そうだ! 其方は私が殺さないと確証が欲しいのだな?』
え、えぇ、まぁ。
『其方の力であれば、その内再生するとは思うが、私には時間がない……計画を早めるとしよう』
ど、どういう意味――
そう言い出した瞬間、体が優しい温かな物に包まれていく様な感覚を感じる。
な、何をしたんですか⁈
『其方の体を修復したのだ』
はい? 修復したですって⁈
『目を開けてみよ』
俺はそう言われ、恐る恐る、目を開く。
長い間目を開けていなかったためか、少し霞んでいたが、視点を調整し、周りの景色を確認することができた。
そして、俺は気付く。
まだマグマの上に浮いていた事に。
「うをっ⁈ し、死ぬ!」
『其方はもうマグマに順応しておる。今さら死にはせんよ』
「あっ! 本当だ……あ、腕が⁈ 体も動く!」
『もう完全に体は修復が済んだようだな』
「あっ⁈ 俺の足⁈ もちゃんとある」
爆破のせいで、俺の左足が無くなったのだが、ちゃんと修復していた。
「あ、あの、ありがとうございました!」
『気にすることはない。時間をかけていれば、其方自身で修復していたであろう。私はただ、その時間を早めただけだ』
「そうは言いますが……」
実際、始でさえ足は再生できる程には至らなかった。
それに比べたら、俺の体を完全に回復させ、修復までしてくれた。
その腕はかなりの……高度なレベルでなければ無理な話だ。
俺はマグマ溜まりから上がり、周りを見渡すが、声の主は見当たらない。
『そのまま真っ直ぐ歩いてくるがよい』
「あ、はい。わかりました」
俺は言われる通り、歩き始める。
薄暗い洞窟を歩き始めて30秒程が経過しただろうか?
まだ声の主は現れない。
「そこで止まるがよい」
「あ、はい」
さっきまで頭の中に響いていた声も、今のは直に耳から聞こえた。
だが、止まっては見たものの、声の主は現れない。
ボッ
かと思った瞬間、洞窟内に火が灯りだし始めた。
「び、びっくりした⁈」
「驚かせてすまない。どこを見ている。私はここだ」
「ここだって言われても……」
俺がそう言った瞬間、青白い、強烈な光が現れ、あまりの眩しさに俺は目を細める。
「ま、眩しい!」
「おおっ! すまない! 久々だったもので、調整を間違えた。これならどうだ?」
声の主がそう言うと、強烈だった青白い光が徐々に弱くなっていく。
そして、弱まったところで、もう一度、よく見たその瞬間――
「ぎゃああああああああああああああああああああああ⁈」
俺はあまりの光景に悲鳴を上げる。
「はっはっはっ! どうだ? 驚いたか? 久方ぶりに人間の悲鳴を聞いたわい」
「あ、あ、あ、な、あなたは……」
「自己紹介がまだだったな。私は古代蒼龍・ラグナだ。 よろしくな迅人よ」
俺の目の前には、体中から青い炎を纏う巨大な龍が何本もの大きな杭に刺された状態で俺を見つめていた。