shallow and deep
俺は夜峩さんの話を聞き終え、ダンジョンを出た。
「結局、夜峩さんのために頑張っていたんだな~夜宵さん」
まぁ、結局はお互い相思相愛の中でしたってことだったと……
正直羨ましいと思わない訳でもないが、俺にもそういった人がいたらいいなぁ~とか思うと、ふと氷歌が脳裏に過る。
「いやいや、ないな……うん、ない」
自分に言い聞かせながら歩を進め宿へと着き、俺はその日、すぐにベッドに入り、携帯を開く。
開くと着信が100件近く入っていた。
「おいおいおい⁈ こんなことをするのはお前しかいないよな~」
携帯の着信者は氷歌である。
俺はすぐに電話をかける。
――トゥル――
『もしもし、何ですぐに電話にでない? なぜすぐに電話をかけてこない?』
ワンコール終わる前にで出やがった。
携帯の前でスタンバっていたのか?
「あ、悪い悪い、今日ダンジョンに潜っていたんだよ」
『そう……なら仕方が――』
「あ、実は――」
『無い訳ないだろうが⁈ こんな時間まで潜っていたのか? あぁんっ⁈』
「えぇぇぇぇ――⁈」
出た……久々過ぎて、心配した氷歌の怒りモードの事をすっかり忘れていた。
俺が消息を絶ってから、出会った時にこの怒りモードを覚悟していた。
けど、氷歌の怒りモードは起こらなかった……
時間が経ち、氷歌も大人になったんだなと思っていた……が、違ったみたいだ。
その後、俺は久々に怒りモードの氷歌に説教されることになった。
けど、久々に聞いた怒りモードの氷歌の声を聞けて、『あぁ……戻ってきた』と実感した。
『なるほど……そうだったのね』
「はい……そういうわけで、もう深夜の3時なので、そろそろ寝かしてもらえませんかね~?」
『なに? 私と喋るのが嫌なの?』
「いや、嫌とかそういうんじゃなくて、時間が――」
『時間が何?』
「いや、だからもぅ深夜の3時なわけで……」
『眠たいわけ?』
「今日は色々とあって疲れたし、さすがに今日はもう寝たいかな~って」
「……」
返答がない……なぜだ?
怒りモードの氷歌はすでに終えたはず……充電までまだ時間がかかるはず!
何かあったのか⁈
『私は眠くない』
「俺は眠いんだよ! つか聞いてました俺の話し! あと、妙に黙るの止めてもらえます⁈」
『迅人の声を聞いていると落ち着くのよ』
「へ、へ〜」
おいおい、不覚にも一瞬ドキッとしちまったじゃね~か……
ま、まぁ、氷歌にも心配をかけていたわけだし、今日ぐらいは我慢してやるか。
「そんなに俺の声を聞きたいのなら、今日はトコトン付き合うとしますかね~」
『……』
「お~い、氷歌さ~ん? またダンマリですか?」
『……』
「氷歌さん?」
『クゥ――』
「寝てんのかよっ⁈」
『はっ⁈ 迅人の声を聞いたら眠くなっちゃった……もぅ寝るわ……お休みぃ』
「あ、え、ちょっ⁈」
プープープー
「き、切りやがった……一方的に」
ま、まぁ氷歌らしいっちゃ氷歌らしいな……
「よし! 今度こそ俺は寝るぞ! お休みぃ」
俺は一瞬で眠りについた。
だが、眠りについたというのに、誰かに囁かれたような、奇妙な体験をした。
でも、自然と嫌な気分ではなく、むしろ癒された……そんな気分を感じた。
目が覚め、時計を見ると7時。
「氷歌に付き合っていて眠る時間が少ないにも関わらず、体の調子はすこぶる良い……昨日は結構肉体的にも、精神的にも疲れていると思っていたんだけど……しかし、あれは夢だったのかな? 誰かと話をしていた感じはしていたんだけど……う~ん……思い出せない」
目を閉じ思い出そうとしたが、中々思い出せずにいた。
「まぁ、今は目も覚めたし、朝食でも食べに行きますかね~」
俺は宿を出て、営業をしている店を探す。
すると、見慣れた面々が食事をしていた。
俺が見ていると、元気な声で俺を呼ぶクララの姿があった。
「お~い! 迅人~! こっちこっち!」
「やぁ、おはようクララ」
「おはよ~迅人」
俺はクララに呼ばれ、近くまで歩み寄る。
うん、クララと愉快な仲間達であるリーダーの王林、魔導士の津雲、剣士の焔、ヒーラーのフィール達が仲良く朝食を取っていた。




