導きはいつも思いと共に
「色々と教えていただきありがとうございました」
俺は巌樹様がいなくなり、その後夜峩さんに黄炎について教えてもらっていた。
「いえいえ。 私で良ければいつでもお聞きになってください」
「そう言ってもらえると助かります」
「しかし……やはり巌樹様本人にお聞きした方が、より身になるかと思われますが、我々のせいでお体に支障をきたしている模様で……」
「夜峩さん……」
夜峩さんは見て分かるように落ち込んでいる。
夜猿一族の皆さんは一旦自分達の住処へと戻っていった。
夜煌も母親と一緒に戻っていった。
最初はここにまだ留まると、駄々を捏ねていたのだが、母親に邪魔になるからと言われてもここに留まると言った瞬間、母親からとんでもない威圧感を放たれ、為す術なく、渋々母親と帰っていった。
「夜煌は迅人様と話をしたかったのかと」
「俺とですか?」
これは意外だ。
確かに夜峩さん達を穢れた者から元に戻したが、実際戦ったのは夜峩さんだ。
俺はそれぐらいしかしてはいない。
「迅人様の人柄に惹かれたのでしょうな」
「そう……なんですかね?」
「それと、夜煌は迅人様の強さにも惹かれております」
「俺戦ってませんけど?」
「その佇まいを見れば強者には分かります。 ましてや我々は戦闘民族。 夜煌はあれでも戦闘民族ですので」
「まぁ、その見た目からは想像もつきませんけどね」
俺の目の前には、かわいい黒いお猿さんがいる。
でも、夜峩さんの本当の姿を見ていなければの話だ。
「夜峩さんは夜猿一族の中でどの位強いんですか?」
「長である私が一番……と言いたいのですが、実質、一番は私の妻である夜宵でしょうな」
俺がそう聞くと、俺が想像していた通りの言葉が返ってきた。
「やっぱりそうなんですね」
「やはり迅人様も気付かれておりましたか」
「なんとなくそうなんじゃないかって」
話しを聞くと、夜宵さんはそれはそれは、強かったらしい。
何人者戦士が夜宵を巡り毎日決闘を申し込んでいたそうで、その中に夜峩さんも入っていたそうで、ちなみに夜峩さんと夜宵さんは同じ時に生まれた幼馴染というポジションとのことだ。
俺と似ている様で、似てはいない。
しかし、夜峩さんは何度も何度も夜宵さんに決闘を申し込むが、負ける日々が続いたそうだ。
だが、そんなある日、夜峩さんはこの決闘が最後になると伝え、もし自分が勝ったら結婚してくれと言った。
それは夜峩さんなりの決意の表れだったのであろう。
そしたら夜宵さんは――
『夜峩……今のあなたでは、私と戦っても負けるのは明白。 つまり、これが最後の決闘で、あなたが負けたら結婚はしないって事でしょう? なら私はあなたとは決闘はしません』
――と、答えたらしい。
その答えに対し、夜峩さんは困惑したそうだ。
そして、夜宵さんはこうも言った。
『今のあなたからは昔ほどの自信を感じません。 まるで私に負けるのが目に見えていて、今日も負けると思っているあなたは、何度も続けざまに負ける事に嫌気が差し、自分を奮い立たたせる事に私を出汁にしているのではないでしょうか? それと、もし勝てたとして、その心意気でいいのですか? そして負けたらそれで終わりにしようとしている。 楽になろうとしている。考えが浅はかで、あなたの決闘を受けている私まで馬鹿にされている気分です……あなただけは皆とは違うと思っていたのに……』
「彼女は……妻は私の心の弱さを代弁してくれたのです。 男衆の中では私が一番強い自負はありました。 しかし、自分では傲り……慢心はしないと言い聞かせながら鍛錬に勤しんでいたつもりでした……自分の弱さに……彼女のその言葉を聞き気付く事ができました」
さらに――
『男であれば負けると分かっていても、何度も、何度も立ち上がり挑みなさい! 負けても何故負けたのか? あなたは私との決闘の中で、ただ負けてきただけなのですか? 負けてそこから何かを得ようとはしなかったのですか? 私が認めた人がその程度の男だったのなら、私の目は……見る目が無かったという事になりますね……ですが、私は誰にも負けずにあなたが私に挑んでくるのを待っております』
「彼女にあそこまで言わせた自分を恥じました……私は彼女の言葉を聞き、私は今の今まで、彼女との決闘を……最初から見つめ直す事にしました」
そこから夜峩さんは毎日続けた決闘を中断し、鍛錬するでもなく、ただただ、自分を見つめ直す事に時間を割いた。
毎日欠かさず行っていた鍛錬。
夜宵さんに負けて、負けてはすぐに行っていた鍛錬を止め、見つめ直す事に時間を割く。
一抹の不安はない。
何故なら、心の底から惚れた女の言葉が、夜峩さんを奥底から奮い立たせた。
そして――
「自分と見つめ直す事に時間を割いたおかげで、道が見えました。 彼女は決闘を通じ、私を導いてくれていた……ですが、私はそれを見ようとはしなかった。私は彼女の強さに追いつけないことから、いつの間にか自分自身に失望していた……これではやる前から結果は目に見えてます。それと、今までの鍛錬は、自分自身のためになってはいたと思います……が、自分を高めてくれるものではなく、自分自身の弱さを隠し、認めたくないという逃げだったのだと悟ったのです」
「そして、とうとう、夜宵さんに改めて決闘を申し込み勝つ事ができたんですね」
「フフフ」
俺の問いに対し、夜峩さんは静かに目を閉じ、笑みを浮かべる。
ヤバい、この展開は超かっこいいぞ!
さぁ、決闘に勝って、やっと夜宵さんと結ばれ――
「負けました。 テヘッ」
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