黄炎
「綺麗じゃろ?」
「はい……すごく綺麗です」
俺はその炎に見惚れていた。
でも、これで2度目。
ラグナさんの時もそう思った……が、やはり感じ方だろうか?
優しい感じが、巌樹様の炎から感じ取れた。
いや、ラグナさんも優しさを感じたけど、優しさの種類が違うのか?
こんな事を思うのは初めての事なので、少し困惑する。
「この、今にも消えそうな炎だが、お主が育むことで、きっとお主の力になってくれるであろう」
「育む、ですか?」
「そうじゃ。 ほれ」
俺がそう聞き直すと、巌樹様は今にも消えてしまいそうな炎を俺に向け投げる。
俺は咄嗟にその炎に向かい駆け寄り、優しく抱き抱える。
「え、な、ちょっとっ⁈」
抱き抱えようとした瞬間、その炎は俺の体に触れると同時に、俺の体の中へと吸収されるように消えていったのだ。
「はーっはっはっ! 慌てたじゃろ?」
「おいっ!」
「冗談じゃて。 そんな事では消えはせん。 それに、黄炎もお主を気に入ったようじゃしのぅ」
巌樹様は悪戯が成功し、優しそうな笑みを俺に向ける。
どことなくラグナさんみたいに、いたずらが成功した時の様な笑顔が脳裏を過る。
「気に入る、ですか? 消えた訳ではなく?」
「あの程度では消えん消えん」
「そう、なんですね。いや、その黄炎とはいったい何なのか教えていただけませんか?」
「黄炎とは即ち、巌樹様の命の灯でございます」
「なっ⁈」
夜峩さんから聞き、俺はすぐに首をぐるんと勢いよく巌樹様の方へと向けると、それと同時に岩鷲様は俺の視線を合わせぬように背ける。
「なんでそんな大事な物を俺なんかに渡したんですかっ⁈ すぐに返します――」
「お主の体に吸収された時点で取り出す事はでき~んよ」
「何を呑気に言ってるんですか!」
「お主が言い出した事ではないか」
「あれは、俺が言った様で、俺が言ったんじゃないんですって!」
「な~にを馬鹿な事を言うておるんじゃ。 お主の口からはっきりと言うたではないか、のぅ夜峩よ」
「は、はぁ、そうですな」
夜峩さんは何やら不服そうな言い方だ。
そりゃそうだ。
だって、巌樹様の命の一部が俺の体の中にあるんだから。
そんな事だと知っていれば絶対に断っている。
「お主の体に吸収された黄炎はわしの命の灯。 即ち、わしの力を宿しておる」
「はぁ」
「なんじゃ、その覇気のない返事は? まるで溜息のようにも聞こえるぞい」
「どちらに取ってもらっても構いませんよ」
「お主が気にする事なんぞ何も無いわい。 お主に授けた灯はわしにとっては痛くも痒くもない程の量じゃ」
「そ、そうなんですか?」
「そうじゃ。 だから、素直に受け取る事じゃ」
「そ、そう言う事なら素直に戴こうかと思います」
「うむ。 先も言うたが、黄炎はわしの力の一部。 今は小さな灯じゃが、お主が育み、育てていけば、わしの力を使えるようになるじゃろう」
「え、巌樹様の力を使える様になるんですか?」
「そうじゃ……じゃが、今の黄炎の大きさでは何もできん。 じゃから育てあげなければならん」
巌樹様の目が一瞬だが真剣な目つきになったかと思ったが、すぐに優しい目つきに変わった。
うん?
俺は何か違和感を感じる。
なんだ?
この違和感は?
だが、巌樹様は俺の言葉を待っている。
俺はすぐに気持ちを切り替える。
「分かりました。 しっかりと、育て上げていきたいと思います」
「ふふ……その意気じゃ。 さて、後の事は夜峩に聞くがよい。 わしはもう一度、ここを作り上げなければならん。 また奴らが来られんようにせんとな。 それと、夜峩から聞きたい事を聞いたら今日は帰れ。 そして、数日後にまたここにくるといいじゃろう。 夜峩、あとは頼んだ」
「承知いたしました」
「あ、巌樹様ありが――」
巌樹様はそう言い消えた。
あ、お礼すらも言えない程の速さで消えていった。
だが、俺は見てしまった。
「では、迅人様。私めが迅人様の問いにお答えいたしますので、気兼ねなくお聞きください」
夜峩さんは俺に話しかけてくる。
「わ、わかりました。 よろしくお願いします」
俺は色々と夜峩さんから聞きたい事よりも、巌樹様が消える瞬間、辛そうな顔が脳裏から離れなかった。
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