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感謝は時に

その後、ロキ達がいなくなり、夜峩さんは元の可愛らしい姿に戻っていた。

俺は巌樹様に視線を向けると、巌樹様は既に俺を見つめていた。


「怒っておるか?」

「いえ、俺はとくに怒ってはいません……ですが」


俺がそう言うと、巌樹様は夜峩さん達の方に視線を戻す。


「夜峩……それに我が子たちよ……誠に申し訳なかった」


巌樹様が皆に頭を下げた。

それにより、周りはざわつき始めた。


「が、巌樹様⁈ 頭をお上げくださいませ! 私どもは何とも思っては――」

「いや、今回の件はワシが油断していたせいでもある。 そして、お前達を苦しめた者どもをみすみす逃がす事もした。 ましてや、今までお前達を助ける事もできず……本当に申し訳ない事をした」

「わ、私どもは何とも思ってはおりません! 巌樹様がお決めになった事に対し、誰も怒ってはおりません。 むしろ、私どもは、また家族にこうして会えたことの方が勝っております。それに、我々は巌樹様をお守りするための部隊であり、戦闘民族である我々が……ただただ不甲斐なかったのです」


夜峩さんがそう言うと、夜峩さんは周りにいる仲間達に視線を送る。

みんなも夜峩さんと同じ考えみたいで、頷いている。


「我が子たちよ……」


巌樹様はそう言うと静かに目を閉じる。

数秒が過ぎ、目をゆっくりと開け、視線を俺に向ける。


「迅人よ、お主のおかげで我が子たちはまた、皆と共に暮らす事ができる。 お主に感謝を……」

「が、巌樹様⁈」


巌樹様は俺に頭を下げると同時に、周りにいる夜猿一族のみんなも俺に向け頭を下げてきた。


「が、巌樹様、それと皆さんも頭を上げてください! 俺はすべき事をしたまでであって――」

「すべきことをやり遂げてくれたのだ。 わしもそうだが、皆もお主に感謝を示すのが道理……お主がここにいてくれて本当に助かった」

「そうですぞ。 迅人様がおられなかったら我々は穢れた者のまま、徐々に巌樹様を侵食し、手にかけておりました。それに、皆もこの通り、無事家族に会えたのです」


夜峩さんはそう言うと、夜猿一族の皆さんは俺に一言一言言葉を投げかけてくれた。

その光景を見て、俺は今まで、こんなに感謝された事などなかったため、恥ずかしさと、ラグナさんから頂いた力が、皆のために使えた事に安堵し、嬉しさが込み上げてきた。


「お主に何か褒美を上げないといかんな……何がよかろうか?」

「いや、俺はとくに――」


オ・・・ウ・・エ・ン


「オウ、エン?」

黄炎(おうえん)じゃと?」

「なっ⁈」」

「えっ⁈」


俺の頭に突如響き渡った言葉をそのまま口にしてしまい、巌樹様、それに夜峩さんが反応する。

そして、周囲も騒がしくなる。

な、何で?


「迅人よ、お主黄炎を欲するか?」

「あ、いや、その、急に頭の中にその言葉が聞こえて、ただ呟いてしまっただけで――」

「……」

「迅人様、いささかその願いは叶えられないかと……」

「あ、いや、あの、急に頭の中に出てきた言葉をただ単に声に出してしまっただけなんで気にしないでください! 俺は何かが欲しくて助けた訳ではないんで」


俺は困り果てる。

だって、巌樹様の顔が険しく、何かを考えている。

夜峩さん達も先程までの和やかだった雰囲気から徐々に雲行きが怪しい雰囲気に変わりつつあるし、つか黄炎ってなんだ?

俺はラグナさんの記憶を見ると、黄炎というワードは靄がかかったようになり見れない。

何故だ?

何故見れない?

こんな事もあるのか?


「よかろう」

「はい?」


俺が色々と考えいると、野太い声が当たりを支配する。

俺はその声にかけられている圧に対し、腑抜けた返事をしてしまう。


「お主に黄炎を授けようではないか」

「が、巌樹様っ⁈」

「よいのだ」

「なっ……」

「迅人はお前達の命を救った。 ワシの考えでは全ての命を助けられんだろうと踏んでいた……それをこ奴は見事やり遂げた。 その対価はきちんと、そして、これもまた誠意を見せなければ道理に反するとは思わんか、夜峩よ」



夜峩さんは大きな声で反対の声を上げようとしたが、その上を行く言葉の圧と眼力により、ガクッと頭を落とす。


「お主に黄炎を授ける……が、お主に授ける黄炎は一部のみとする」

「え、いや、俺は……」


俺は困り果て、周囲を見渡す。

みんな先程とは打って変わり、貰ってくれと言う様な表情で俺を見る者や、頷いている者。

そして最後に夜峩さんに視線を戻す。


「迅人様、巌樹様がこういった目をされた時は何を言っても変えません。 それに、この目を信じてきた我々は、迅人様を信じておりますゆえ」

「え、えぇぇ……」


何を思って信じるとか言っているんだ?

だから黄炎って何よ?

皆さんがこういった反応をするってことはさ、俺なんかが授かって良い代物なわけないんだって事も分かるし!

俺はこれでも空気を読むの――


「全ての黄炎をお主には渡せん。 この一部の黄炎をお主自身が育んで行くのだ」


空気を読まない野太い声が俺の考えを掻き消す。

俺は諦め、巌樹様の声に耳を傾ける事にした。


「育む、ですか?」


俺がそう言うと、巌樹様は胸に手をやり、掌を握りしめ、俺に向け握り込んだ掌をゆっくりと開く。


「うわぁ~」


巌樹様の掌には小さく、そして、ユラユラと揺らめく黄金色に輝く炎があり、今にも消えそうな炎だが、とても綺麗で、俺は見惚れてしまった。


お読みいただきありがとうございました。

呼んでくれた方に感謝を。

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